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最後のオンナ

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 本を出したいという人が現れることで、成り立っている会社が、その信用を根底から覆され、
「詐欺商法だ」
 と言われるようになると、もう、
「本を出したい」
 という人も、原稿を送ってくる人もいなくなる。
 自転車操業は、どこか一つが止まってしまうと、もうどうしようもないからだ。
 一つの会社があっという間に、破産宣告をすると、
「これはいい商売だ」
 とばかりに、ハイエナのようにできた会社も、次々に破綻していく。
 一世を風靡した、
「自費出版業界」
 はあっという間になくなっていった。
 しかも、出資者との裁判沙汰になり、最期は出資者に、最初から金を出させたくせに、「在庫になっている本は、2割引きで買い取れ」
 というのだ。
 もし、買い取れないとすれば、捨てるしかないと言われ、さらには、送った原稿すら返してくれないというとんでもない状態となり、この世から消えていくことになったのだ。
 それを思うと、
「新興産業というのは、よほど気を付けて見ておかないと、ひどい目に遭ってしまう」
 ということになるのだ。
 もちろん、詐欺商法と呼ばれるのは、これ以外の業界でも無数にある。ただ、根本的なところは一緒だろう。
「いかに、こちらを信用させ、相手に金を出させるか?」
 ということばかり考えるので、防御までは考えていないだろう。
 もっとも、これだけひどい商売をしているので、防御など、そもそもないのかも知れない。
 だとすれば、
「危ないと思えば、いつうまく逃げることができるか?」
 ということであり、引き際が問題なのだ。
 それができなかったところは、社会問題だけを残して、
「詐欺商法」
 という悪名を残して消えていくしかないのだ。
 それを考えると、消えてなくなる産業には、いくつかの悲惨な障害が多いということであろう。
 勝沢は、絵を描いていて、そこまでひどいことはなかったが、果たして、
「自分が小説を書いているとすれば、騙されなかったと言えるであろうか?」
 と、考えるのだった。
 もっとも、勝沢が絵を描くようになったのは、自費出版業界がすたれてからしばらくしてからのことだった。その間に何があったのか分からないし、この話を聞いたのは、人から聞いたからだった。
 それが、一人の風俗嬢だったというのは、何か皮肉な思いがあった。
 その風俗嬢には、何度か通っていた。顔が好みというのもあったが、性格が自分に合っていたからだろう。時々、何か奇抜なことを言い出すと思うと、それも次第に慣れてきて、
「お兄さんも、面白い」
 と逆に言われるくらいになってきた。
「それはこっちのセリフだよ」
 というと、ペロっと舌を出して微笑むのだった。
 その姿を、
「ギャップ萌え」
 というのだろうが、そんな言葉も、風俗に通っているうちに教えてもらえるようになったのだ。
 会社では、真面目な上司を演じているので、最初は風俗に通っていることを隠していた。ただ、同じように通っている人もいるようで、後輩なのだが、言わなくてもいいのに、
「先輩も通っているんですね」
 と言われ、
「見られたのなら仕方がない」
 とばかりに、
「ああ、見られていたのか」
 といって、正直に話したが、下手に否定する方が却って、後ろめたくなり、きっと聞いた方も、
「変なことを聞いてしまったな」
 と思うのだろう。
 お互いに気まずくならないで済むのは、
「こういう時には素直に認めるのがいい」
 ということであり、
 そんな状況を、知ってか知らずか、まわりは誰も気づかない。
「無口な上司」
 という印象を保っているので、部下に疑われることはないだろうと思っていたが、後輩がいうには、
「先輩のような性格、下手すれば、バレバレですよ」
 というではないか。
 彼は、結構口が堅かった。自分から、
「俺、風俗通いしてる」
 と、公言するほどのチャラ男だといってもいいのに、人との約束は守る男のようで、本当は見られた時、
「どうせ、バレるんだろうな。いずれはバレることになるんだから、今のうちにバレておくのも、悪くはないだろう」
 と思っていた。
 しかし、世間は広いようで狭いが、狭いようで広くもある。彼に見られたといってもその時くらいで、あとは、風俗街で会うこともなかったのだ。
「行く店のコンセプトが違う」
 と言えばそれまでなのだろうが、会っても不思議はない。
 見られることがあるくらいなので、それも当たり前のことではないだろうか?
 ただ、彼がいうには、
「俺は結構いろいろなコンセプトの店に通うからな」
 といっていたのだが、その気持ちは勝沢にとって、分かる気もするが、完全に分かるというわけではない。
「俺なら、最初はいろいろ行くかも知れないが、それは自分に合う店を見つけたいという意味で通うだけであって、一つに絞ると、結構通う気がするんだよな」
 というと、彼は、
「それって、飽きてきませんか? 自分の好きなお店であったり、財布に似合う店をいくつかピックアップしておいて、そこを、ローテーションで回せば、飽きることはないんじゃないでしょうか?」
 という。
 なるほど、彼の言い分は、もっともである。確かに勝沢も昔はそういう通い方をしたものだった。
 しかし、嬢に対して、嬢が湧くというか、まるでダジャレのようだが、まさにそんな気分になった。
 そして、オキニの女の子には、足しげく通ってしまうのだ。一度気に入ってしまうと、1カ月と空けずに通ってしまう。そして、それがルーティンになりかかるのだった。
 だが、そうならないのは、
「飽き」
 というものが来るからだった。
 こんな思いは、若い頃にはなかった。少なくとも、20代ではなかったことだ。他の人に言わせると、
「若い頃の方が、飽きやすいんじゃないですか?」
 というだろう。
 実際に待合室でたまに一緒になる人と仲良くなったのだが、その人はまだ20代、
「俺は飽きっぽいからな」
 というのだった。
 飽きっぽいということになると、勝沢も人のことはいえなかった。
 特に食べ物ではひどいもので、2,3回しか食べていないのに、
「飽きた」
 というものが結構あったりした。
 しかし、逆に、
「本当に好きなものは飽きない」
 といえるだろう。
 学生時代のかつ定食を、毎日続けてもいいと思っていた。一年続けても、飽きが来なかったくらいだ。
 だから、同じ食べ物に対して、勝沢のことを、
「あいつは飽きっぽい」
 という人もいれば、
「いいや、あいつは、毎日でも好きなものは続けるタイプだ」
 と、両極端な意見に分かれるだろう。
 しかし、そちらも間違いではなく、間違いでもある。勝沢は、果たして自分のことを、どういう性格なのだと思っているのだろうか?
 二重人格だともまわりから結構思われているようで、
「なるほど、俺は結構相手によって、性格を変えるからな」
 というのだった。
 性格を変えるといっても、両極端というわけではなかった。
 対照的な性格であれば、却って、
「ありえる」
 と言われるのかも知れないが、会話がうまくいっていなければ、分からないことではないかと思うのだった。
作品名:最後のオンナ 作家名:森本晃次