最後のオンナ
部屋に入ると、さっそく入り口に機械が置いてあり、それを話すと、
「なるほど、先払いのお店ですね。まず、そこでノータームとして清算してください、先払いですので、後は安心して、お客さんは、お部屋をお使いいただけます」
と説明してくれた。
「じゃあ、早速女の子を派遣いたしますので、大体時間としては、今から30分以内で到着できると思います。もし、お時間が許すのであれば、お客さんは、先にシャワーを浴びておかれると、時間を有意義に使用することができますよ」
ということであった。
「あとは、到着した女の子に聞いてください。ちなみにですね、女の子は、まずホテルの受付を通すことになります。お客様のお部屋の連れということでですね。つまり、遅れて到着した彼女が、お部屋に向かうという形であるね。お客様がご利用おホテルは、うちでは結構ごひいきにしてもらっているところですから、女の子もよく分かっているし、店側も了解していますので、そこはスムーズだと思います。そして、女の子が来たことをお客様に伝えるわけですが、その時に、ベッドの枕の上に電話機があるでしょう? それが鳴ります。そして、女の子が来たことを伝えるので、あなたは了解しましたといってくれれば、女の子がお部屋に向かうことになります。お部屋はそれまでは、お客様が入った瞬間に自動ロックがかかります。つまり、お金を払わずに出る場合もあるでしょうし、延長しているのに、延長料金を払わないとか、ルームサービスや冷蔵庫のものを食べたことで、受付で後払いになるのに、それを払わないなどということがないように、お客さんが、退室の意思があって、初めて出られるわけです。その時清算が終わっていないと、追加料金の有無を教えられ、払わないと出れば五ことになるわけですね」
と言われた。
「分かりました。じゃあ、僕は女の子を迎える準備をして女の子がくれば、お迎えすればいいというわけですね?」
「ええ、そうです。あとは、女の子との交渉になりますので、楽しい時間をお過ごしいただければそれでいいということになります」
という。
「分かりました。では私の方では用意をして待っていますね」
といって電話を切った。
洗脳
お部屋は想像以上にキレイだった。
ラブホテルというと、真っ暗な中に、紫などの暗い色で照らされた部屋で、男が待っていて、窓も、気の扉のようになっていて、表からは見えないように、そして、言い方は悪いが、
「逃げられないように、扉も途中までしか開かないようになっている」
ということだけの知識はあったのだ。
しかし、ここは、まるでビジネスホテルのように、ビューになったガラスにカーテンが引かれている。ベッドも広いし、部屋も広々として、ビジネスホテルというよりも、高級ホテルを思わせる感じだった。
お風呂は広いことは分かっていたが、想像以上に広々としていた。浴槽以外がとにかく広い。ここまで広いと、自分でもビックリというところであった。
だが、考えてみると、カップルが利用するところなのだ、中には一人で風呂に入る人もいるだろうが、普通はカップルで入るだろう。
お互いに背中の流しっこをしてみたり、イチャイチャしたり、夫婦でも、家の風呂では絶対にできないようなことがここではできるのだ。
それを思うと、
「意外と夫婦で、利用する人も多いのかも知れないな」
と感じた。
特に、二世帯住宅だったり、子供が家にいたりして、なかなか夫婦で二人きりになることができない夫婦も結構いるだろう。
「たまには、実家に子供を預けて、夫婦水入らずで過ごす」
というのもありではないかと思うのだ。
そんな時、
「旅行というところまではできないけど、普段いけないようなところに行こう。昔の付き合っていた時代を思い出してさ」
と言われて、照れ臭いが、嫌だという奥さんもいないだろう。
これも一種の旦那さんのサプライズのようなものだと思うとありがたい。
そんなことを考えながら、初めての指名した女の子がやってきた。
まずは、部屋の電話が鳴り、
「お連れ様がご到着です。今からお通しします」
という、おばちゃんの声が聞こえた。どうやら、下の受付はおばちゃんのようだ。
「はい、分かりました」
というと、ロックが解除される音が聞こえた。そして、ゆっくりと待ちながら、耳を澄ませていると、エレベーターが到着した音が聞こえた。
そして、ヒールのカツカツという乾いた音が聞こえてくる。それと同時に高鳴ってくる胸が新鮮であった。
その時は、このシチュエーションだけを考えていたので、店舗型の風俗との違いを考える余裕はなかった。
「ピンポーン」
という音が鳴り、ノブが開く音がして、女の子が入ってきた。
「初めまして。ご指名ありがとうございます」
というではないか。
写真では、目だけしか見えなかったので、どんな感じの女の子なのか、完全に想像でしかなかったが、自分が想像した許容範囲内だったのは有難かった。
彼女は、
「私でいいですか?」
というではないか。
その時は詳しくは知らなかったが、一応、
「チェンジ」
というシステムがあることは知っていた。
ただ、チェンジというとどうなるのかということは分からなかった。チェンジの間の時間は値段に含まれるのかどうかということである、そのことについては、聞いていなかった。
だが、チェンジをしようとは最初から思っていなかった。最初に自分で選んだ相手だ。もしチェンジして、さらに気に入らない相手だったらと思うと、迂闊にチェンジもできないだろう。
今までに、デリヘルではなかったが、ちょっとだけ遊びでやったパチンコで、似たようなことがあった。
なかなか出ないので、
「台を変えよう」
と思い、隣の台に移ったはいいが、自分の後に座った人が、座ってから打ち始めて5分もしないうちに大当たりをして、そこから何連荘もさせて、
「もしそのままやっていれば、まくれたはずなのに」
と考えてから、どんなに出ないと思っても、そこから動くことはしないと決めたのだ。
「台を動く時は止める時で、そして一刻も早くそこから立ち去る」
ということを考えていた。
「だって、自分が出なかった台で、誰かが出ているところなんか見ていられないだろう?」
という。
気持ちとしては、
「自分が好きになって付き合い出した女の子が、ただ、クラスメイトと話をしているだけのところを、自分が見ているとは思わずに楽しそうに話をしているのを見ると、自分のことを本当に好きになってくれたのだろうか? と疑いたくなってしまう」
というものだ。
「知らぬが仏」
という言葉があるが、もし、そんな場面を目撃した時、彼女は自分を好きになってくれたのだという自信があったとしても、不安に駆られてしまう時、藁にでもすがりたくなるという意味で、
「どうせなら、知らなくてもいいことがあるのであれば、その方がいいに決まっている」
と考えさせられるのだった。
そんなことを考えていると、
「最初からチェンジという選択肢は、自分にはない」
と思っていた。
もし、その女の子が最悪だったとしても、