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風俗の果て

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 何しろ問題はオリンピック招致の国内最終審査なのだ。つまりは、オリンピック招致が完全に決まったわけではなく、しかも、まだ国内での代表にもなっていない時のことだった。
 どこの誰が、オリンピック招致を言い出したのか分からないが、その連中は、
「本当に歴史を勉強しているのだろうか?」
 というものである。
 オリンピックを行うためには、当然、それにふさわしいだけの、体勢が必要だ。
 つまり、そのお金も整備新幹線計画と同じで、県民の税金が、使われることになるというのは、決まり切ったことである。
 そして、オリンピック招致のために、整備しておかなければならないこともあるのだ。要するに、
「美観的に、目障りなものは、排除しておく」
 ということだ。
 国内の招致が、どの候補地に決まるのかという決定方式は詳しくは分からないが。当然、国内代表に決まった後、今度は全世界から決めるわけなので、IOCオリンピック委員会が決めることになる。
 その時には、まず、平和であること、そして、風紀の乱れのないことなどが、候補が決定に変わるための要素になる。
 全世界の中で、最終的に勝ち残った、3か国か、4か国の中から、最終の招致を選ぶ前に、その街のを調べることになるだろう。
「性風俗の店が街中に乱立している」
 などというと、風紀上、
「こんな街で、とてもではないが、オリンピックなど開催できない」
 ということになる。
 それを知っている県の代表は、まだ国の代表にもなっていないのに、風俗関係を締め上げに掛かった。
 何しろ、法律は全国共通の風営法が最終ではなく、あくまでも、
「風営法に遵守した形のものを、自治体独自に定めたものが、最終の法律になるのだ」
 そういう意味で、都道府県の条例が最終的な法律になるのだから、それを運営している県が、自分たちの都合で締め付けることもできるというわけだ。
 だから、県とすれば、まずはなんといっても、国の代表にならなければいけないということで、先行して、目障りな部分の排除に動く。
 それはまるで、すでに国の代表に決まったかのような感じで、
「もし、これで代表になれなければ、どうするつもりなんだろう?」
 と誰が考えるだろうか?
 確かに、オリンピック国内最終候補に残ったということくらいは、ニュースで眼にすることもあるだろう。
 しかし、実際には、まだフライング状態であり、正直、不利でもあった。
「ひょっとすると、不利なのを分かっていたので、先に排除して、自分たちの真剣度を示した」
 とでもいうのだろうか。
 理屈としては分からなくもないが、いきなりそんな急に厳しくされ、営業を断念せざるを得なくなってしまった店はどうなるというのか。
 さらに、落ちぶれかけていた街の復興のために、風俗を誘致する形で、街の復興に一役買った人たちを、県が潰しにかかるというのである。
 そもそも、オリンピックをやって、本当に街の活性化にでもなると思っているのだろうか?
 50年前のオリンピックがどうであったか、そして、昨今のオリンピック誘致した国はその土地がどのようなことになっているのかということを見ていれば、普通なら、恐ろしくてオリンピック招致など考えられないと思うのだが、もし、それを考えているのだとすれば、よほどの認識不足なのか、バカなのかということになるであろう。
 確かにオリンピック前はというと、
「オリンピック景気」
 という特需があり、インフラ整備などでの公共事業が盛んになり、一時的な、産業奨励となり、人手不足も解消されるだろう。
 だが、実際にオリンピックが終わってしまえば、どうなる?
 元々、建設ラッシュで作った競技場やホテルなど、オリンピックが終わった後の計画も最初から組まれていたのだろうが、その考えがことごとく甘いことは、今までに行われたオリンピックが証明しているではないか。
 かつての東京オリンピックしかり、あの時は、臨時雇いの人たちが一気に職を失い、社会問題になった。政府や自治体がそんなことも分からなかったとは思いたくはないが、結果として、ロクなことにはならなかったはずだ。
 さらに最近では、ニュースでも、
「前回のオリンピックで沸いた街が、数年で、悲惨なことになっている」
 といって、競技場の一つを取材していたが、観客席になっていたところは、何と数年でひび割れしていて、そこから雑草が生えているような、信じられない光景が飛び込んできたものだった。
 まだ、それはマシなのかも知れない。もっとひどいのは、
「オリンピック招致をしたために、数年後には、国家財政が息詰まってしまい、何と、国家が破産してしまう」
 ということに追い込まれた国もあったのだ。
 それを思えば、オリンピック招致に、一体何のメリットがあるというのか、デメリットの方が誰が見ても大きいのは分かり切っているではないか?
 そんなことも分からない、
「歴史も知らない、過去を勉強しない」
 という連中が指導しているのだから、うまくいかないのも当然だと言えるのではないだろうか?
 そして、マサムネが住んでいるこの街も、かつて、オリンピック招致に名乗りを上げたこの国の候補の一つで、最終候補に残ってしまったがゆえに、先走って、県の首脳が、
「国の代表に選ばれた」
 かのような感覚から、締め付けられ、店が次々に廃業に追い込まれ、せっかく立ち直った街が、10年も経たないうちに、また荒廃してしまうことになるなどという暴挙を、県はやったのだった。
 整備新幹線の時でも、それほど知られていなかったのに、今回のことは、あくまでも水面下で行われていたことなので、当事者でないとピンとこないことだろう。
「いつの間にか、街が荒廃しているのは、風俗業というのが、この街に合わなかったからじゃないのかな?」
 という程度にしか、もし、この荒廃について考えたことがある人がいたとして、思うのはそういうことなのであろう。
 しかし、実際には、オリンピック招致の問題が根底にあったのだ。
 しかも、地味に宣伝していたので、そんなビッグニュースになったわけでもない。
 ひょっとすると、自治体側の人間が、
「オリンピックのせいで、税金が上がるというカラクリを知っている人が下手に騒いで、水面下で進めているオリンピック招致自体が、彼らのせいで見送りにでもなったら、せっかくのここまでの努力も水の泡だ」
 ということになりかねない。
 それを思うと、自治体が水面下で進めているのも分かる気がする。
 しかも、ターゲットとなる風俗業というのは、法律的に、自分たちが勝手に決められる自治体の条例であるというのも、都合がいい。
 いや、逆に都合のいいところをターゲットにしたという意味では、ある意味、
「自粛警察」
 と同じ類なのではないかといえるのではないだろうか?
 そんなことを考えると、自分が通っていた街の風俗が、一時壊滅状態になったことで、少し遠のいてしまったのも事実だった。小さな街のように、人止まりもなく吹き飛ばされてしまったわけではなく、数年後には、若干形を変えたサービスが生まれたりしたことで、復活してきたのだった。
作品名:風俗の果て 作家名:森本晃次