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必要悪と覚醒

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「今度、スマホの活用についてのセミナーがあるんだが、ちょっと出席してくれないか?」
 と言われた。
 別に時間もあったので、断る理由もなかったこともあって、出席することに決めた。
 その日は、朝から仕事の段取りが結構スムーズに行き、昼食前で、その日の予定が住んでしまうという、年にそう何度もないような感じだった。昼食を済ませてからの時間が、今度は持て余してしまったことで、却って苦痛を味わうことになったのだが、それも、人間としての性ではなかっただろうか?
 午前中の約4時間が普段の1時間くらいに感じられ、昼食までがあっという間だった。
「今日は昼から余裕があるな」
 と思ったのだが、普段は、余裕どころではない。
 昼食の時間にも、
「どう段取りすれば、定時までに終わるだろうか?」
 と、時間配分を頭の中に描いている。
 そこまで本当はしなくても、普通にやれば、定時の5時半くらいまでには終わるはずなのだが、考えてしまうのは、
「もし、その間に予期せぬ事態が舞い込んできたら?」
 というものだった、
 不慮の事故であったり、部下の仕事の尻ぬぐいなどは、考えてもしょうがないが、上司からの頼まれごととなると、少し違ってくる。ある程度は時間に余裕をもっておかないと、頭が回らない場合があるからだ、
 逆にいえば、最初から予期しておくことも可能であり、いくらでも対処できると思うからだ。
 不慮の事故と、部下の尻ぬぐいだけは、予想がつかない。そういう意味で、上司のお願いと、部下の尻ぬぐいとでは、似ているようなのだが、実際にはまったく違った、
「予定外の仕事」
 なのだった。
 上司からのお願いというのは、上司は、部下に無理難題は押し付けてはこないと思うからだ。
 上司としても、いや、上司になればなるほど、それまで築き上げてきたものを壊すことを恐れるというものだ。
 そういう意味で、人に任せることを怖がるものだろう。それでも任せるということは、
「この部下なら、きっと期待に応えてくれる」
 という計算ずくのことに違いない。
 だから、上司からの仕事は、
「命令」
 ではなく、
「お願い」
 となるのだ。
 命令であれば、立場を利用した、強制的なもので、上司からすれば、
「自分が面倒臭いことをしたくない。そんなことは、部下にやらせておけばいいんだ」
 という考えが先にあり、勝手に、仕事がうまくいく前提で考えるのだろう。
 いわゆる、
「パワハラ」
 といってもいいのだろうが、法律が厳しくなった中でも、いまだにブラック企業と呼ばれるものがあるのだから、普通の会社であっても、ブラックな上司がいても、それは不思議ではないかも知れない。
 幸いなことに、畠山の会社は、そんなブラックな上司がいるわけではないので、上司から仕事を押し付けられることはない。だから、上司からの仕事は、
「命令ではなく、お願い」
 になるのだ。
 ただ、そんな上司からのお願いも、最近ではめっきり減ってきた。上司も、部下にあまり仕事を増やすようなことをしていると、自分の評価が下がると上から言われているのだろう。
 そのあたりのバランスのとり方が、上司として難しいところなのかも知れない。
 そんな上司がいないおかげで、その日は昼からは、時間が余ってしまった、確かに、上司からは、あまり頼み事も少なくなってきていると、
「不測の事態」
 も、最近は業務も落ち着いてきたことで、別に自分のペースで仕事をしてもよくなっていた。
 しかし、自分が入社した頃は、会社ができて、まだ間がない頃だったこともあり、まだ、混乱が続いていた。
 そのせいで、自分のペースで仕事を覚えたり、こなしたりが、できない頃だった。
 だから、どうしても、
「予期せぬ出来事」
「不測の事態」
 を考えて行動しなければいけなかったのだ。
 仕事というのは、大体、毎日がルーティンとなっているので、慣れてくると、
「これくらいのペースで行えば、ちょうどいい」
 というのも分かってくる。
 畠山は、仕事というものを、大体6分割で考えるようにしていた。
 最初の2までが、
「仕事に慣れる」
 ということだと思っている。
 確かに毎日やっていることであるが、最初からゴールが見えているわけではない。最初の2の段階までが、前の日、どこまでやったかを思い出したり、感覚を思い出すのに使うのだった。
 そこまでくると、やっと、ゴールが見えてくる。
 すると、次に目指すのは、3の部分である。
「ここまでくれば、半分だ」
 と思うのだろうが、実は2を通り越したあたりから、自分が仕事をスムーズにこなすだけのコツが備わり、一番充実した時間になるのだった。
 だから、気が付けば中間地点と通り越し、4まで来ているのだ。
 そもそも、最初も2つが単位だったので、次も2だと思えば、4まで行くのは必定であり、もう、困難だとは思わないだろう。
 そして、今度は最終段階に入ってくる。
 ここで考えるのは、
「有終の美」
 というものだった。
 最期をいかにきれいに終わらせるかということは、ここまでくればやっと頭に置かんでくる。そして、完全に見えているゴールがあるおかげで、そこから先は、ある意味惰性でもできるくらいだった。
 だが、そこまで来た自分が惰性を許すはずもない。
 そう考えると、
「慌てる必要なんかないんだ」
 と思うようになると、ここから、もう一度最後の帳尻合わせに入るのだった。
 普段であれば、見えているゴールに、スムーズに入ることができる。それが、今まで十数年、仕事をしてきた強みであった。
 となると、仕事を6段階に分けた場合、一番重要になるのが、
「2つ目が、終わった時だ」
 と思うのだった。
 それまでは手探り状態、
「昨日までできていたことが、果たして今日もできるだろうか?」
 ということを考えてしまう。
 野球のピッチャーで、
「立ち上がりがいつも悪い」
 という人がいるが、まさに、同じことではないだろうか?
 昔の野球の投手は、
「先発したら、完投は当たり前のことだ」
 と言われていた時代、最期がどの時点で、どのようにイメージできるかというのが、一番重要なのではないだろうか?
 そんなことを考えていると、
「果たして、今日もできているだろうか?」
という不安が消えるまでは、最初の難関なのだろう。
 その日は、そんなこともあり、終わってみれば、
「午前中はあっという間だったけど、午後は、なかなか時間が過ぎてくれない」
 というそんな不規則な一日になってしまっていた。
 確かに、午前中は、判で押したほどに、すべてのなすことがうまく行ってしまい、午後は余裕が却ってよくなかったのか、気が付けば、なかなか仕事が進んでいなかった。
「このままのペースでいけば、することがなくなってしまう」
 などという、余計なことを考えてしまうと、余計な時間配分を考える。
 一番いいのは、
「時間が早く過ぎてくれることだ」
 というのは当たり前なのだが、こんな時ほど、時間の感覚が思うようには感じられないものだった。
 することがなくて、時間を持て余している時というのは、まったく時間が進んでくれない。
「1時間は過ぎているだろう?」
作品名:必要悪と覚醒 作家名:森本晃次