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必要悪と覚醒

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 セミナーでは、堂々と寝ているし、自分を誘う時には、あからさまな慌て方をしてみたり、ここまでは自分主導で連れてきておいて、座る席を選ばせるなど、何を考えているというのだろうか?
 それを思うと、
「とりあえず、俺は、自分の思ったことに素直になればいい」
 ということで、
「カウンターと言ったのだ」
 テーブル席でも悪くはなかったが、カウンターの方が広く感じたのは、店の作りのせいだけではないように思えた。
「じゃあ。カウンターに行きましょう」
 といって、男はそそくさと、カウンターの一番奥に座り、壁に背を持たれて、完全にリラックスしていた。
「そうか、これがこの男の本当の姿なんだ」
 と感じた。
 いつもカウンターの奥に座って、ふんぞり返っている。そう思うと、この男は間違いなく、常連だということは分かったのだった。
 畠山にも常連の店がないわけではない。だが、その店はバーなどではなく、喫茶店だった。
 今ではほとんど見られなくなった、いわゆる、
「昭和の喫茶店」
 木造建築で、奥には、レコードプレイヤーにアンプや、CDが置いてあった。
「少し前までは、カセットデッキだって、ついていたんだぜ」
 と、マスターは、物持ちがいいのか、捨てられないような思い入れがあったのか、捨てられないことに苦笑いをするだけだった。
「さすがに、もうカセットテープ自体が売ってないからね」
 といって、実は、心残りであることが、あからさまに見えるマスタの気持ちを察すると、感無量であった。
 畠山にも似たような経験があり、その時に、
「文明が発達しても、忘れ去ってはいけないようなものが本当はあるはずなのだろうけどな」
 と感じたものだった。
 そんなレトロな店の常連になっていることを、誇りに感じているほどの畠山だったので、このバーの魅力については、
「一番、俺が分かるかも知れないな:
 と感じるのだった。
 あまり酒が飲める方ではない畠山は、
「アルコールは弱いので」
 と断って、マスターのお任せにした。
 男の方は、結構強いのか、いつも同じものなのか、アイコンタウトだけで決まったようだった。
 実際に酒が出来上がってから、一口飲むまでは、男は一言も口を開こうとはしなかった。さっきまでお気さくな雰囲気とは打って変わってしまったかのように思えるが、案外、この男は、
「こっちの方が本当の性格なのかも知れない」
 と感じたのだ。
 マスターは、そんな雰囲気を察してか、カクテルの作り方が結構早かった。
 かといって、がさつにやっているわけではなく、
「手際よい」
 という言葉が一番似合っているような気がするのだった。
 シェイカーも、勢いよく振っているように見えるが、必要以上の音がするわけではない。心地よい音が聞こえてきて、耳障りは結構よかった。
 やっとカクテルができると、男は、カクテルを合わせて、
「乾杯」
 というと、半分くらい、一気に飲んでしまった。
 さすがに、これから口をつけようという瞬間の出来事にビックリはしてしまったが、
「アルコールが強い人というのは、こういうものなんだ」
 と感じると、こちらが見ているのに気づいたのか、それまでの、自己流が覚めたかのようだった。
「これは失礼しました。どうも私は、アルコールが入らないと、真剣な話をする時、どもってしまうくせがあるんですよ」
 というではないか。
「ということは、真剣なお話だと認識してよろしいわけですね?」
 というと、
「ええ、まあ」
 とこの期に及んで、少し躊躇があるようだった。
 マスターもそんな彼のことを熟知しているのか、知らぬ顔をして、様子を見ているようだった。
「あなたは、今日のセミナーを、どう感じましたか?」
 と言われ。
「どうって、言い方が悪いかも知れないけど、セミナーなんて、皆あんなものでしょう? 何かプロパガンダのようなものでもありましたか?」
 と聞くと、
「そういうわけではないのですが、今回のセミナーは、今までと少し違っていたような気がするんです。それで少し気になっていてですね」
「というとい?」
「今までよりも、結構積極的なところが、露骨だったように思えたんです。初めての人には分からないと思いますが、何か切羽詰まっているようなですね」
 と相手がいうので、
「何か、そういう素振りがあのセミナーにあるんですか?」
 と聞くと、
「元々、デジタル庁などというものを政府が掲げていて、その理由の一つとして、デジタル化が他の先進国に比べて、かなり速度が遅いこともあって、政府も焦っているんですよね。まだまだガラケーに依存していたツケが、今回ってきたような感じなんですよ。しかも、前のソーリの肝いりだったくせに、なかなか進んでいないのを考えると、焦る気持ちも分からないものでもないんです」
 と男は言った。
「それで何がまずいんですか?」
 と聞かれて、
「今日説明していた、位置情報やGPSに関して、今まであそこまで詳しくはやらなかったんですよ。この問題は、提示する方にも、それなりのリスクと覚悟が必要ですからね。でも、それを敢えて表に出してきたということは、国も真剣になってきたということであって、実際にいかに進めればいいのかという道筋を間違えたりしないかということが大きな問題なんです。だから私は、それをあなたに聞きたいと思いましてね」
 と男は言った。
「どういうことですか?」
 相手の男が何を言いたいのか、さっぱり分からない。確かに、スマホの問題に関しては、デジタル庁などを作っているのだから、政府も肝いりなのは分かっている。ただ、他に大切な問題を棚上げにして、進められるデジタルの問題として、
「スマホの代金を安くする」
 というのは、中途半端であったが、とりあえずは、
「公約通り」
 だった。
 ただ、他のことはまったく進んでいないので、これだけでも成果を出そうとして、必死だったのが、見えた。
「ソーリは、必死になって草」
 などと、スマホばりのSNSでそんな叩かれ方をしていたのも面白かったものだ。
 ただ、それでも、何とか安くなり、昔のパソコンのようにスマホが普及しているかどうかは確かに疑問である。
「本当に日本人は、活用できているんだろうか?」
 ということだ。
 いまだに、ガラケーを持っている人だっている。
「電話と、メールができればそれでいい」
 といっている人も多いだろう。
 安くなる前だったら、ケイタイ代の倍、スマホに掛かると言われていた時代があった。それを思えば、
「今の時代は、その頃に比べれば、スマホに変えても、そんなに料金も変わらない」
 ということになり、変える人も増えてきた。
 交通情報であったり、何かを検索するのも、スマホに慣れてくると、パソコンのように扱えるようになる。ケイタイでネットにつないだりなんかすると、あっという間に、使用料金がバカみたいに膨れ上がり、
「上限を設ける」
 というやり方で、仕えないようにするということで何とか、金銭的に圧迫しないようにしていた。
 しかし。今はそうではない。
「WIFIに繋ぎさえすれば、使いたい放題だ」
 ということであった。
作品名:必要悪と覚醒 作家名:森本晃次