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時間を食う空間

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 といえるだろう。
「まさかそんな場所にあるわけはない」
 というようなところに、一度敢えて隠しておいて、見つかりそうになれば、その場所をわざと警察に捜索させ、警察も、怪しんでいるわけではないから、科学捜査などまではしなかった。したとしても、昔の捜査だから、ちょっとしたことであれば、見逃されてしまう。警察としても、
「念のために」
 という程度で調べているだけなら、なくても、
「とりあえず探した」
 という意識で、もし、何か次に捜索することがあっても、わざわざ、そこまで見ないだろう。
 それが、墓であれば、なおさらのこと、警察でも、いちいち埋葬を発掘する令状を取ら
なければいけないという手間がかかる。そんなことはしないに決まっているだろう」
 ということであった。
「最近は、スマホとかいうのがあって、世の中も便利になってきましたね」
 と、老人が言った。
 このあたりの話になれば、少しはサラリーマンをやっている分、佐久間の方が分がいいかも知れない。今の話は、ぶしつけに出てきた話題のようであるが、どうやら、佐久間の方に向かって言った言葉ではないだろうか?
 それを聞いたマスターは、自分から話しに乗っかろうとしなかったので、そのあたりも阿吽の呼吸なのかも知れない。
「スマホはお持ちなんですか?」
 と聞くと、
「私はまだ持っていないんですが、知り合いがスマホに変えたといって、スマホはいいぞって言い始めたんですよ。半分は自慢のような感じですけどね。ただ、いろいろ聞いてみると、確かに便利なようだし、私も使ってみようかって思ったりもしているんですよ」
 と老人は言った。
「確かに便利は便利ですね」
 というマスターの話を聞いて、老人は、
「私がまだ30代くらいの頃だったかな? パソコンというものが普及し始めて、会社でも、一人に一台なんて時代になった時はビックリしたものですよ。その時って、皆が皆素人じゃないですか? スマホの場合は、その前の普通のケイタイがあったので、スムーズに入っていけたと思うんですよね。学校でパソコンだって習うわけだから。でも、私が若い頃には、パソコンを覚えるのに、いろいろな言葉があったのを思い出しますよ」
 というと、
「ほう、それはどういう言葉ですか?」
 と、今度はマスターが乗り気だった。
「俺に話しかけてきたのではなかったのかな?」
 とも、思ったが、そもそも、二人の会話に入ったようなものだったので、そのあたりは、気にしないでおこうと感じた。
 老人は、マスターの質問に答えた。
「ます、一つ目は、『習うより、慣れる』という言葉がありましたね。要するに、人に教えてもらうよりも、実際に触っているうちに覚えるということのようですね」
 と老人がいうと、
「それは、今のスマホにも言えることですよ。いろいろなアプリがあるけど、その説明書なんかいちいちないですからね。それこそ分からない時はネットで調べるか、実際に人に聞いてみるかでしょうね」
 とマスターが言った。
 この言葉には、さすがに佐久間も共感した。確かに、マニュアルらしきものは、アプリごとにあるわけではない。
 ただ、それは、パソコンでも同じだったのではないか? 自分たちよりも2世代くらい上の人は、
「パソコンは、触っているうちに覚えたものだ」
 といっていたのを思い出す。
 確かに、今ではいろいろソフトもバージョンアップして使いやすくなった。
 と思いきや、昔を知っている人は、逆のことをいう。
 最近の、ワードやエクセルとか、余計な機能がついてきたおかげで、扱いにくくてしかたがない。パソコンの時々あるソフトのバージョンアップをしたら、今度は今までとは使い勝手が悪くて困るんだ。今まで普通にできていたことができなくなったり、
「例えば段落や箇条書きを自動でしてしまうので、文字下げをしたくないところでも勝手に文字下げをするようになって、実に面倒臭い」
 と、言われるようになったりした。
 しかも、今はOSのバージョンアップがあれば、必ず最初の頃は何か不具合が起きる。だから、同じ時期にパソコンを買う場合、わざと、前のバージョンのパソコンを買ったりした。
「そのうちに、不具合が解消されるバージョンアップがあるのだろうが、仕事中にそんな面倒臭いことを、待っていられるわけもない」
 ということで、パソコンをあまり。有効に使えていなかった時代があったのも事実だ。
 スマホになって、そんなことがあるのかは分からないが、
「いまだにパソコンでも続いているんだから、スマホだけが、まともだというのも、おかしな話ではないか?」
 と思うようになった。
「実は、今度、そんなスマホに対してのセミナーがあるということなので、参加してみようと思っているんですよ」
 と老人が言った。
「そうなんですか? 実は同じかどうか分からないんですが、私も似たようなセミナーへ参加予定なんです。ただ、私は会社からの参加なので、もう少し細かいことなんだろうと思うのですが」
 と、佐久間は言った。
 佐久間の場合は、会社が申し込んだもので、佐久間だけではなく、あと2人ほどが研修に行く、後の二人は他の課の課長で、どうやら、会社の管理職の中でも、最近管理職に昇進した人がいくようなセミナーのようだった。
「スマホの研修だけなんだろうか? それだけだったら、それこそ時間がもったいない気がするんだよな」
 と思ったが、一つは、会社としての、
「付き合い」
 によって、仕方のない部分もあったようだ。
「しょうがないか」
 として、諦めるしかなかったのだが、似たような企画が他にもあるとは思わなかった。
「いや、それこそ、この名前の企画なら、この老人が受けるような企画が本当なんだろうな?」
 と思えるものだった。
「どんな内容か、面白そうですね」
 と言ったが、それは半分本音だった。
 それだけ、自分が受けなければならない企画が、
「付き合い」
 だということにウンザリしている証拠でもあったからだ。
「私も最初は、この年になって、何がスマホかとも思ったんですが、年を取ると、意外と今まで興味のなかったものに興味を持つようになるものなんですよね」
 と老人が言った。
「それは、今までずっと会社で仕事をしてきて、急に仕事をしなくてもよくなったことで、気が抜けたり、逆に余裕が生まれたからなんじゃないですか?」
 と佐久間がいうと、
「そうですね、それはあるかも知れないですが、もっとそれ以外にも感じられるんですよ。しいていえば、年齢的なものなどが、そうなのかも知れないと思うんですよ」
 と、老人は言った。
「というと?」
 と、佐久間が聞くと、
「佐久間さんも、そうかも知れないけど、時間についての感覚が、今までと違ってきていることに気づいていませんか?」
 と言われ、
「ええ、それはあるかも知れないですね。今私は、40代になったんですが、20代の頃よりも30代、30代の頃よりも40代と、次第にあっという間に感じるようになってきたんですよ」
 というと、老人はにっこりと笑って、
「そうでしょう? でも、それ以外にも感じていることがあるんじゃないですか?」
作品名:時間を食う空間 作家名:森本晃次