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時間を食う空間

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「佐久間盛政みたいな名前だな」
 というので、頼政も嬉しくなって、
「ええ、そうなんですよ。父が好きだったらしいんですが、私も好きな武将です」
 といった。
「私は、北陸地方に昔住んでいたことがあったので、前田利家だとか、柴田勝家、佐久間盛政や、佐々成政などの武将は、よく知っているんだ。佐久間盛政というと、鬼玄蕃で有名な武将だよな」
 と言われて、
「はい、よくご存じですね?」
 と聞くと、
「たぶん、あなたもそうなんだと思うけど、あまり名前は知られていないけど、実際にはすごい人だったという人物だったり、ナンバーワンよりも、むしろ、ナンバーツーの人間の方がいいと思っているからだと自分では感じているんですよ」
 と、まさに、自分と考え方が同じだと思う人に、出会った気がした。
 今までに、そんな人と出会ったことはほとんどなかったという意識を感じていたので、少し油断していたが、
「本当にこんなに似た考えの人が、肉親以外にいるんだ」
 と思うと、嬉しくなってきた。
 最近では、仕事で、孤立した気分になっていただけに、その思いは余計に深くなってくるのだった。
「私は、結構サラリーマンだった頃は異端児だったようで、よく孤立していましたけどね」
 といって、老人は笑っていた。
「もう、第二の人生なんでしょう?」
 と聞くと、
「ああ、そうだよ。定年後に5年間働いて、今は年金暮らしだよ。一日の終わりにここに来るのが楽しみでね」
 といって、老人はマスターと顔を合わせていた。
「ところで、ここは、時間を食われるというようなことを少し話されていたと思ったんですが、あれはどういうことだったんでしょう?
 と聞くと、
「さっきも言ったように、夢のような感覚がここにあると言っただろう? 普通の人だったら、それ以上は聞いてこないんだけど、何か、さっきの話で納得のいかないことがあったのかな?」
 と聞かれて、
「納得がいかないというよりも、もっと他に何かありそうな気がして、何か中途半端な気がして、どこか気持ち悪さがあるんですよ」
 というではないか。
「夢というのが、あっという間に感じることであることから、ここにいて楽しい会話をしていると、表に出ると、たまに次の日になっていると思うことがあるんだよ。つまり、毎日を同じパターンで過ごしていると、どれがどの日だったのか分からなくなるだろう? それこそ、おじいさんが、おばあさんに、『ごはんまだ?』 と聞くと、おばあさんが、『さっき食べたじゃないですか?』 って会話になるだろう? あれと同じで、それが昨日のことなのか、今日のことなのか分からなくなるんだよ。知らない人が聞くと、ボケたかのように思われてしまうが、実はそうではない。毎日を同じパターンで暮らしていると、毎日というものが、本当にあっという間に過ぎていく気がするんだ。それを、わしらは、『時間を食われた』と感じるようになり、この店にいる時は、年寄りだけではなく、若い人も似たような感覚に陥ってしまう人が結構いたりするんだよ。だから、『この店は、時間を食う店だ』と言われるようになったのさ」
 と、老人は言った。
 それを聞きながら、マスターも頷いていたが、
「ここまで話をすると、気持ち悪がる人もいるので、最初は夢の話で、納得させようとしていたんだよ。もちろん、今の佐久間さんのように、質問をしてくると、こうやってちゃんと話をしてあげるんだけどね。でも、なかなかここまで聞いてくる人って少ないんですよ。余計なことを考えたくないと思う人が多いのか、納得できることがあれば、それでいいとして、必要以上なことを考えないようにしているのか、そのどちらかなのではないだろうか?」
 と、マスターは言った。
 やはり二人は、それぞれに考え方は似ていて、話も分かってくるのだった。
「時間を食うという表現は、少し大げさなんだけど、昔見た映画で、空間がまったく止まったように見えるという映画があったんだ。だけど、実際には止まっているわけではなく、実に遅いスピードで動いているんだ。なぜ分かったのかというと、警官がそこに何かがいたんだろうね。空間に向かって、拳銃を発砲したんだけど、その瞬間の煙をついて、弾丸が、ゆっくりと空間を異動しているんだ。しかも、一瞬一瞬が、一度止まってから、すぐに動き出すというような感じなんだ。それで止まっているわけではなく、微妙に動いているんだってね。しかも、その動きは滑らかにではなく、まるで、階段を上るかのような動きで、尺取虫を見ているようだった」
 と、老人が言った。
「興味深い話ですね?」
 というと、
「ああ、私が、まだ学生くらいの頃は、そういうSFチックな映画が結構あったんだよ。しかも、当時は特撮もさほど発達もしておらず、怪獣映画などでは、ピアノ線が見えたりしていたんだ。子供心には、却ってリアルな感じがして、却ってモノクロの方が、リアルさが演出されていたんだよ」
 というではないか。
「僕が子供の頃には、かなり特撮もアニメも今に近い形だったですからね。でも、たまに、有料放送の番組などで、昔の特撮などを見ると、確かにそんな感じがしましたね。ただ、僕にはリアルという意味がよく分かりませんが」
 というと。
「それは分からないだろうね。当時はあれが当たり前だと思っていて、どんどん発達していく技術に舌を巻くという感じだったんだけど、そんな状態を見ていると、今度は最近の特撮を見ようとは思わないんですよね。大人になったから、恥ずかしくて見ないというのとは理由が違うんですけどね」
 というのだった。
 ただ、今の老人の話、自分が子供の頃のアニメで似たような話を見たことがあった。
 ただ、それは、襲いスピードの世界があるわけではなく、あっちの世界が、本当の今まで活きていた世界で、普通のスピードに感じる今の世界が、実は、高速の世界だったのだ。
 だからこそ、そのスピードに耐えられず、やたら疲れたり、身体が痛かったりした。その理由がわからなかったのだが、ただ、身体だけは軽いという気はしていたのだった。
 身体の重たさをいかに感じればいいのかというと、そのことを考えると、自分がいる世界が実は違う世界であることに気づき、自分がいた世界が、完全に凍り付いたように見えるのは、目の錯覚だったのだ。
 つまり、
「自分がいた世界から他の世界に行くと、そこが元いた世界だと思わせたくないという感覚から、凍り付いたような世界に見させるのではないかと感じた。何か自分の知らない力が働いていて、それが、錯覚を見せるのだろう」
 と感じたのだ、
 しかし、もう一つ考えることとして、
「本当に、これって錯覚なのだろうか?」
 夢の世界は、あくまでも夢であり、現実の世界ではないと思わされているが、それは思わされているだけで、実は隠したいことをごかましているだけなのかも知れない。
「木を隠すには、森の中」
 というではないか。
 本当のウソは、周りがすべて本当の中に隠す方がバレることはないというが、まさにその通りで、夢だと思い込ませてしまえば、疑われることもない。
 昔の、探偵小説などで、
「一度警察が捜査して、何も発見されなかったその場所が、一番安全なんだ」
作品名:時間を食う空間 作家名:森本晃次