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時間を食う空間

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 しかも、部屋に入れば密室で、どうすることもできない。店舗型であれば、女の子が自部で危ないと思えば、ベッドわきなどにナースコールのような非常ベルがあったりして、すぐにスタッフがやってきて、対応してくれるのだが、デリバリーのように、出張型ではどうすることもできない。
「女の子は本当にそれでいいのだろうか?」
 考えただけでも、怖いというものだ。
 ただ、風俗遊びをする中で、佐久間は、デリヘルの利用をしたことがない。どういうものなのかは、テレビドラマやAVなどで、基礎的なことは分かっていたが、それを見れば見るほと、
「何が楽しいんだろう?」
 と、思っていた。
 確かに、自分も若い頃であれば、デリヘルの方がよかったと思うかも知れない。しかし、若い頃、そのようなものはなく、店に通うことだけしかなかったことで、楽しみも、賢者モードもすべてが、お店に通うことでしか味わうことができなかった。
 若い頃であれば、待合室で長いこと待たされるのは、苦痛でしかなかった。しかも、他の客がいれば、何となく、
「その場が持たない」
 と思っていたことだろう。
 さらに、タバコの煙も結構ひどく、そんなに広くない待合室は苦痛だったこともあった。しかし、最近は待合室も、結構早いうちから禁煙にしてくれていたところもあったし、喫煙ルームを別にしている良心的な店もあった、
 そして待合室を決定的に楽しみにしてくれた店があり、その店では、
「他に待合室に客がいなければ」
 という条件つきの場合もあるが、女の子によっては、待合室までお誘いに来てくれるという、サプライズ的なことをしてくれる店もあったのだ。
 普通であれば、待合室から、番号札順に呼ばれ、受付か階段の近くにカーテンがあったりして、
「カーテンの向こうで女の子がお待ちです」
 とスタッフに言われて、カーテンがオープンになった時点で、
「ごたいめーん」
 ということになるのだった。
 それも悪くはないのだが、サプライズ的な待合室まで来てくれるのは、反則に近いくらいのサプライズだった。それが嬉しかったのだ。
 しかし、これも、あくまでも佐久間という人間の性なのか、これも、実はすぐに飽きてしまった。
 たとえが変かも知れないが、野球観戦が好きな人がいて、今でこそ、日本のプロ野球のフランチャイズの球場の半分近くが、ドーム球場になっているが、最初は東京ドームが開業し、数年あいて、福岡、さらに、名古屋、大阪と続々とドームができてくる。
 場所的にしょうがないのだろうが、札幌もドームである、
 さらには、埼玉の所沢では、元々、屋根なしの球場の上に、屋根を設置するという、ビックリするようなことをやっておけた球団もあった。
 最初は、
「すごい、ドーム球場だ。屋根があるんだ」
 ということで、物珍しさで見に行ったものだが、そのうちに、
「野球はやっぱり、空を見ながら、夕涼みに浸りながら見るものだ」
 という気分にもなってきた。
「フランチャイズのチームが勝利すれば、花火の演出がある」
 という球場があるが、それも、ドームの中では、どうしても、こじんまりとしている。
 花火というと、やっぱり、夜空に打ちあがる花火を見たいではないか? ドームで見る花火のバックは、ドームを支える鉄骨である。しかし、屋根なし球場であれば、天然の夜空なのだ。星がきらめいていた李、月がきれいだったりする。
「どうしても、ドームで花火をみたいのであれば、球場のマウンドのせり上がりを利用して、プラネタリウムの機械を設置するくらいの、大盤振る舞いをしたりすれば、大きな話題になりそうなものではないか」
 と思ったりする。
 花火なしでもいいから、プラネタリウムのような星がみたい」
 という人もいるかも知れない。
 それでも。ファンは、花火が見たいのだろうか?
 とは言っても、プラネタリウムだって、結局は、
「作られた夜空」
 なのだ。
 究極としては、本当の夜空にかなうものがあるはずはないだろう。
 それこそ、真理であり、ひょっとすれば、飽きがこないというものは、
「本物であれば、飽きがこない」
 ということであろうか?
 それが、本当に自分の欲するものなのかどうか、そのあたりが問題といえば問題なのであろう。
 ドーム球場は、確かに最初は物珍しく、皆で楽しもうとしていくものだが、昔の野球を知っている人間には物足りない。
 ドームのまわりは、レジャーランド化してしまって、ホテルがあったり遊園地があったりというのが、普通であろう。しかし、昔のように、ダフ屋が、
「兄ちゃん、券余ったら買うよ」
 とか、逆に、
「安く入れるから、買わんかい」
 などと言って寄ってきた時期が思い出されるというものであった。
 屋根にない球場が、懐かしく思い、屋根がなかった時は、飽きるということがなかった。とにかく野球場の中にいると、座った場所によって、打球の角度で、ホームランになるとっすぐに分かるところもあれば、錯覚して、キャッチャーフライが、ホームランに見えたりする。それが、面白かったのだ。
 ドームであれば、天井は空ではなく、金属の柱のようなものだったり、東京のように、プラスチックのようなものだったりする。次第に面白くないと思ってくるのも、無理もないことだ。
 風俗でも待合室もそうだった。
 最初は、気が急いているので、待たされていると、10分が一時間くらいに感じられ、イライラしてくるものだった。
 中には、いかにもイライラしているのか、咥えたタバコを、ぷかぷかさせる間隔が非常に狭い人もいる。
 それを見ていると、最初の頃は、
「気持ちは分かるが、他にも客がいるんだから、もう少し落ち着けばいいのに」
 と思い。気が付けば自分もイライラしているのが分かると、待たされていることに苛立ちを覚えたものだった。
 だが、そんなことが何回かあって、自分が店の常連のようになってくると、苛立っている人を見ると、気分的に見下しているように見えていた。
 マウントを取ったという意味で、別に、軽蔑しているという感じではない。
「昔は俺もあんな感じだったんだな」
 と思うと、そんな連中が、
「風俗素人」
 なのではないかと思えてくるのだった。
 ただ、呼ばれた時のホッとしたような感覚はほほえましさがあり、
「皆さん、お先に」
 というような余裕を見せているが、本当は、
「これでやっと自分だ」
 ということで、次第に、まわりのことなどどうでもいいと思ってくることだろう。
 自分も店の常連とまでなってくると、待合室にいるのが、実は楽しくなってくる。女の子と遭ってから、することは決まっているのだ。だから、それ以外に、
「今日はどういうことをしようか?」
 と、会話としての話題をどこに持って行こうかということを考えるのである。
 もう、その頃になると、いつも同じ女の子とは限らない。最初に、
「この子だ」
 と思って入った時、
「ああ、この子でよかった」
 と思ったし、最期には、
「今度はどういう話をしようかということまで決めておいて、お互いに、話題を宿題として探しておく」
 というような、約束までしているのだから、その頃は、
「一人の子で満足だ」
作品名:時間を食う空間 作家名:森本晃次