小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

時間を食う空間

INDEX|14ページ/23ページ|

次のページ前のページ
 

 というのも、果てた後、女の子は、男性が賢者モードになるということを察してくれて、気を遣ってくれるのが分かるからだ。
 最初は、賢者モード対策をいろいろ取ってみたものだ。
「禁欲してから行こうか?」
 と思ってみたが、結局、最高潮の時の気持ちがどこまで伸びるかというだけの違いで、それが賢者モードに影響してくることはなかった。
 だが、それは、最初に感じたことであって、禁欲は意外と効果があった。
 なぜなら、果ててしまった後、いつもの倦怠感と、敏感さが身体を襲うのだが、身体の震えが、収まるわけではなかった。その震えが、今度は敏感さをマヒさせる効果があるようで、痺れがマヒを運んでくる。そうなると、寂しさがこみあげてくるのだ。この寂しさは肉体的なものではなく精神的なものであり、精神的な寂しさが、敏感になった身体をいさめようとしているのだった。
 だから、寂しいと思う分、相手の女の子も寂しさを感じているのだと思うと、相手を今度はいとおしいと思えてくる。お互いにイチャイチャすることで、心の隙間の寂しさを埋めてくれるようで、それがありがたかったのだった。
 だからと言って賢者モードが消えるわけではない。精神的な癒しを得られた分、肉体的には、その分無理が来ている。
 身体の震えが止まらないのは、身体が正直だからで、それこそ、賢者モードの頂点に昇り切っているようで、
「意識が朦朧とするほどの快感が、精神的な充実感と一緒に訪れないのか?」
 と考えると、自分でもどうしようもなくなってくるようだった。
 これは、就職してから感じたことであったが、自分で経験したことではないので何とも言えないのだが、人から聞いた話として、
「会社が嫌で、転職をしようと考えた時、仕事はないわけではないが、募集している会社は、今よりも上ということはない。現状維持なら御の字で、表に出ているだけでも、そんな感覚なのだがら、実際に入社してみると、外と中では大違いという意味で、転職など考えなければよかったと絶対に感じる」
 という話を聞いたことがあった。
 基本、
「スキルアップ、自分の能力を生かせる会社への転職などという前向きな考えでなければ、成功するわけはない」
 というものだったのだ。
 それが、頭の中に残っていて、
「よほどのことがない限り、転職は、負のスパイラルを繰り返す」
 ということでしかないと思えたのだ。
 例えば、
「家庭の事情で、転勤できない」
 などという事情も曖昧なものだ。
 会社に転勤を断れば、退社しなければいけない。入社の時、ほとんどの会社の社内規定の中に、
「会社の業務で正当な理由がない限り、会社の出す命令に従わなければならない」
 というような文章があるだろう。
 転勤を断るということは、例えば、
「親に介護が必要になったので、それで転勤を断った場合、これを正当な理由と言えるかということなのだろうが、判例では、ほとんどの場合が、正当な理由には当たらないと言われる」
 という話を聞いたことがあった。
 介護士を雇うだとか、自分の身内で介護が できる人が誰も本当にいないのか? などということが論点になり、裁判を起こしたとしても、
「他に可能性があるのであれば、まずそれをいろいろやってみてから言うのであれば分かるが、何もせずに、闇雲に、『介護が必要だから』というだけで、一方的な拒否は、正当な理由に当たらない」
 ということになるのだ。
 会社というところはそれだけ厳しいところであり、逆に、ここで、社員の言い分を認めてしまうと、それまで、会社の言いなりに転勤してきた人たちの立場がどうなるか? などを考えたとしても、そのあたりは難しい問題となるのではないだろうか?
 そんなことは、すでに課長になっている佐久間には、分かり切っていることであった。彼も、会社から、
「転勤」
 と言われ、数年、転勤したことがあった。
 その頃、実は結婚を考えていた女性がいて、その人にプロポーズすると、
「あなた、転勤を言われているらしいって聞いたけど?」
 と、どうやら、共通の知り合いの、佐久間の同僚から、ウワサとして聞いていたらしい。
 だが、彼女としては、転勤が嫌だったというよりも、
「どうして、そういう大事なことを私に相談してくれなかったのか?」
 ということが問題だったようだ。
 お互いに、彼女、彼氏という関係の頃までは、お互いに距離や高さには、別状はなかったのだが、それが、結婚を意識するようになると、その距離が明らかになってきた。
 ただ、佐久間の方では、結婚というものを、一種の、
「年貢の納め時」
 というような感覚であり、彼女の方とすれば、
「結婚というのは、もっと慎重に考えてしかるべき」
 と思っていたようだ。
 どちらも、よくある考えだが、結婚に際して、この距離感は、致命的だといってもいいかも知れない。
「どちらも歩み寄りが感じられない状況であり、どちらかが、先に進むと、追いかけられないことになるのではないか?」
 と考えるのだった。
 そこにどちらかが、隔たりを感じる。
 きっと、後ろにいる方が隔たりを感じるのだろう。なぜなら、前を向いて進んでいれば、後ろの下がった相手を意識することはできないからだ。それだけ、自分と一緒に進んでくれていると思うのであって、
「下手をすれば、そうでなかった相手とは、諦めるしかないのではないか?」
 と、考えてしまうことだってあるだろう。
 そんな相手を好きになったと、最初に感じるのは、女の方であろう、
 これは、全体として言えることではないので誤解のないようにしてもらいたいのであるが、
「女性というのは、ある程度までは我慢するけど、一度キレてしまうと、何を言っても、通用しない」
 と言われることがある。
 夫婦間で仲が悪くなった時など、そういう言われ方をすることが多いが、逆に男性は、女性との間に不協和音を感じるようになると、逆に、楽しかったことを思い出すようだ。
 それだけ、逃避という意識が強いのかも知れないが、
「自分が、過去の楽しかったことを思い出すのだから、相手も同じはずだ」
 と思い、
「説得すれば、何とかなるのではないか?」
 と、思い込むのであった。
 しかし、女性は前述のように、自分の気持ちを態度に表した時は、時すでに遅しというもので、男は、逆に女の気持ちを分かりかねることで、そこからおスレ違いは、二人の今後に対して、致命的であるだろう。
 これが、離婚問題であれば、
「修復できない仲」
 ということになり、離婚は避けられないものとなるに違いない。
 結婚したこともないのに、離婚などを口にするというのは、おこがましいことであるが、人の話などを聞いていると、何となく分かってくるところもある、
 当事者ではないということから、冷静に見ることができるというのも、ある意味、勉強になるといってもいいのではないだろうか。
 会社に入社してからも、彼女は数人いたことがあったが、なぜか長続きしない。
 相手から、決別されることが多いのだが、別にショックというわけではない。逆に、
「飽きる前でよかった:
 と思えるのは、
「半分負け惜しみで、半分は本気だ」
 といってもいいだろう。
作品名:時間を食う空間 作家名:森本晃次