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時間を食う空間

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 といって、さりげなく、腕を組んできてくれた時は、正直、ドキッとしたのだった。
「だいぶ待たれました?」
 と、差しさわりのない話から入って、気が付けば、お部屋の中に入っていて、ベッドに横座りになって、世間話をしていたのだ。
「何か、飲まれます?」
 といってくれたので、
「じゃあ、ウーロン茶を」
 と答えた。
 正直、こういう店では、いきなりプレイが始まるものだと思っていたので、少しビックリした。まるで、仕事を終えて、新婚の家に帰ってきたような雰囲気が味わえたのだ。世間話であれば、緊張することもなく、できるというものだった。
 佐久間は人と話すことは嫌いでもなく、相手が女性だから、緊張するということもなかった。
 だから、普通に会話ができている自分を、
「この人、本当に童貞なのかしら?」
 と、あやねさんは思ったかも知れない。
 そう感じると、こちらも緊張が次第に薄くなってきて、待合室で感じた緊張感とは少し違った。それでも、密着して女の子がそばにいるのだから、冗談抜きの緊張感が違った形で襲ってきているのを感じた。
 当然、下半身は反応していた。
 あやねさんは、そんなことはちゃんとわかっているだろう。そばにいて、佐久間の胸のドキドキが分かっていると思われたからだ。
 なぜなら、自分で感じる胸の鼓動と、あやねさんの呼吸が合ってきているように思えた。
さすがに胸の鼓動と同じリズムであれば、息切れっぽいので、心拍数2に対して、呼吸1くらいの割合を示していたのだ。
 そのことを佐久間が分かったと感じたのか、あやねは、怪しく笑みを浮かべたのだった。
 その笑みが、妖艶に感じられ、すっかり、あやねのとりこになっている自分が感じられた。世間話に花が咲いたところで、
「じゃあ、お風呂に行きましょうか?」
 といって、服を脱がせてくれた。
 恥ずかしいという気持ちはなくなっていた。
 最初から、童貞喪失というのは覚悟の上であったし、このあたりの流れは頭の中でシミュレーション済みであった。
 だからこそ、そこから先は、彼女の流れにしっかりと乗ることができ、違和感のない時間を過ごすことができた。
 童貞ではなくなった瞬間、正直、
「こんなものなんだ」
 という思いがあったのも、事実だった。
 ただ、それが、今まで、ずっと一人で悶々としていたこと。そして、我慢できなくなったら、自慰行為をしていたことなどから、比較してしまうのだった。
 確かに、一人だと、自分のリズムで自由なのだが、やはり、相手がいるのといないのでは、まったく違ってくる。肌のぬくもりというのは、快感のレベルというよりも、寂しさを埋めてくれる、癒しという意味でも、最高のものだった。
「身体が重なることの快感については、こんなものかと感じたが、それは、自分が賢者モードに、気づかないうちに入ってしまったからなのかも知れない」
 と感じた。
 賢者モードは、自慰行為の時に散々感じていることなので、予感はしていた。しかし、「さぞや相手がいると、自慰行為とはまったく違った感覚なんだろうな」
 と感じていたのだが、思ったより、近しいものだったことに、少しビックリしたのだった。
 賢者モードに関しては、覚悟はしていたもで、あまり気にならなかった。ただ、自慰行為に比べて、相手の肌を直接感じるということに、正直違和感があった。
「あやえさんに悪い」
 とは、思ったが、肌を感じてしまうと、急に鬱状態に陥ったような気がしたのだ。
 これが、自分だけのことなのか、それとも男なら皆同じなのか、そのあたりが気になるところではあった。
「どうせ、童貞だって分かっているんだから、聴いてみるか?」
 と思って、疑問をあやねさんにぶつけてみた。
「うーん、そうね。私は女なので分からないんだけど、他の人も、いった後には、身体を触ると嫌がる人は結構いるわ。でも、これも、個人差なんだけど、少しの間、時間を取ってあげると、次第にその敏感な身体が落ち付いてきて、ちょうど心地よい時間が来るらしいの。男の人も、触ってほしいって思うらしいのよ。でも、そんな時が来るまで、身体に少しでも触れると、くすぐったいといって、反射的に身体をそらす人もいるらしいわ。それはそれで、可愛いんだけどね」
 といって、あやねさんは、舌を出して、おどけた態度を取った。
 そんなところが、あやねさんの魅力なのだろう。
 あやねさんは確かにおねえさん肌の頼りがいがありそうな人なのだが、時折見せる少女のような純粋さが、本当に魅力だった。
 さらに、吸い付いてくるような肌のきめ細かさと、包み込んでくれる快感は、しばらく忘れられなかった。
 調子に乗って、それから、何度か、あやねさんに通ったものだった。まだ大学生という身分なので、そんなにしょっちゅうというわけにもいかないが、あやねさん目当てで、必死でバイトをしたものだった。
 だが、それも、何度かあやねさんに通い詰めると、急に自分が冷めてくるのを感じたのだ。
「こんなものだったのかな?」
 と感じたのだ。
 通うたびに、嬉しくなって、
「また来よう」
 と考えるのは、最初の3回くらいまでだった。
 それ以降は、何か物足りなさのようなものがあり、
「必死でバイトをしてつぎ込むほどのものなのだろうか?」
 と、考えさせられた。
 確かに、あやねさんは、
「痒いところに手が届く」
 というような、気遣いができる人だった。
 先輩が、
「童貞なら、彼女に入っておくのが間違いない」
 といっていたことが、よく分かった。
 だが、それも、3回目までだったのだ。
 どうして、急に冷めてしまったのか、すぐには理由がわからなかった。しかし分かってしまうと、
「どうして、こんな簡単なことにすぐ気づかなかったんだろう?」
 と思った。
 考えられるのは、
「そんなことを感じることが恥であり、悪いことなのだ」
 と思っていたからだろう。
 それを、
「あの父親から生まれた俺だから、こんな気持ちになったのだろうか?」
 とその頃から、父親の偽善者的なところに嫌気が刺し始めていたのかも知れない。
 どうして、急に冷めだしたのかというと、それは、単純に、
「飽きた」
 からであった。
 どんないい女でも、何回も抱けば、飽きが来るというものではないか?
 ことわざでもあるではないか、
「美人は三日で飽きる」
 とである。
 そんなことに気づき始めると、
「自分の味覚が肥えてきた」
 という感覚になってきた。
 それとも、思春期の時代に、あまりにも、ハードルを上げすぎたのかも知れない。
「セックスというのは素晴らしいものだ」
 ということである。
 正直、相手のいることであり、相手との相性だってあるだろう。自分がしてほしいことを確実にしてくれるわけではない。何十回、何百回と抱き合ったとしても、どこまで相手のことが分かるというのだろうか?
「分かる前に飽きの方が先にくるんじゃないか?」
 といっていた人がいたが、まさにその通りだ。
 しかも、一度、その飽きを我慢してしまうと、余計に飽きがひどくなる。たとえは違うかも知れないが、
「トイレに行きたいのを何とか我慢していると、今度は、すぐに行きたくなる」
作品名:時間を食う空間 作家名:森本晃次