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夥しい数のコウモリ

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「あの人は、息子が死んだのに、仕事のことばかりで、しかも、それを家族にも聞かれたら困るような話だったので、夫の仕事が子供の死に関係しているんじゃない? って問い詰めたら、あの人が起こって、私を叩くんです。私もキレちゃって、初七日が終わると、実家に引きこもりましたので、あの人が何をしているのか分かりません。影で何かをしているようだったので、そっちで何かあったんじゃないですか?」
 と、けんもほろろと言った感じで、奥さんはいうのだった。
 どうやら、この家庭は悲惨なことになっているようだった。
 子供のひき逃げ事件に関しては、それから少しして、犯人が自首してきた。
 その犯人というのは、実はまだ高校生で、友達数人と、酒を呑み、いわゆる、
「乱痴気騒ぎ」
 を起こしたうえでの飲酒運手を行い、飛び出してきた子供を轢いてしまったのだという。
 さすがに、無免許運転の飲酒運転を犯したうえでの、ひき逃げによる殺人ともなると、罪の重さははかり知れない。
 親が金持ちのいわゆるボンボンだったのだが、少々の事故であれば、親の力で何とかできるのだろうが、さすがに、これだけの重犯であれば、そう簡単にはいかないだろう。
 年齢的には17歳。未成年とは言え、ここまでの犯罪であれば、成人と同じ扱いになるだろう、
「下手をすれば、殺人の罪に問われる」
 いや、他の罪を重ねれば、それだけで殺人よりも重くなる。いわゆる、
「数え役満じゃないか?」
 と、冗談ではない話になるのだった。
 そんな事情があったので、なかなか自首というところまではいかなかったが、親が子供の様子がおかしいことに気づいたのだ。
 それまで、怖いものなしと言わんばかりの、いかにも、
「子供」
 だったのが、急に、かしこまったようになったのだ。
 おとなしいというよりも、何かを怖がっている様子に、父親もさすがに放ってはおけなくなり、最初はなかなか口を割らなかったが、
「そうか、じゃあ、何があったも、おとうさんは、お前の味方をしないからな」
 というではないか。
 これは父親から見放されれば、路頭に迷うだけではなく、強力な父親というものを敵に回すということを意味していた。それが恐ろしかったのだ。
 本当は息子は、長治の弱みを握っていて、脅しを掛けるつもりだった。そうすれば、巨額の金が舞い込んでくるという目論見だったものが、子供を轢いてしまったために、目論見が外れた。しかも、その子供の父親も、別のルートで、長治の研究を盗もうという組織の中にいたのだった。
 この時は分からなかったが、実は犯人の父親の、下部のさらに下部組織の中にいる、諜報やスパイを請け負っている人間が、死んだ子供の父親だったのだ。
 父親は、息子の仇を密かに探すことも考えていた。そして、息子の仇を討つことで、今後、スッパリ諜報から足を洗って、静かに暮らしたいと思うようになっていた。
 本当にそんなことができるかどうかわからなかったが、息子が死んだことで、父親は我に返ったのであった。
 そんな思惑が水面下で進んでいるなど、知る由もなかった長治は、自分の研究が明るみに出たのはなぜなのか、考えていた。
 それも、父親の目論見であり、ここからの混乱を予期してのものだった。
 だが、そのことも、すぐに長治の知るところとなった。
 他の人が想像もつかないところからのルートで、その話が漏れたのだったが、長治という男は、それでも、冷静に考えているのだった。
「この研究は、本当はもっともっと、検証を重ねなければいけない」
 と思っていた。
 だから、本来であれば、こんなところで簡単にバレてはいけないのだろう。
 しかし、長治は、
「そんなことは分かっていました」
 とばかりに、必要以上なことは考えていなかったのだ。
 至って冷静であったが、長治の中で、バレたらバレた時で、それなりに計画があった。
「バレたんなら仕方がない。このまま突っ走るしかないな」
 といって、自分が信頼のおける、
「ある組織」
 に、前々から話をしていた別の作戦を、打ち合わせ通りに行うことになったのだ。
 しかし、そのうちに、少し様子がおかしくなってきた。
 相手の、組織のトップのまわりが慌ただしくなってきたのだ。
 普通の人なら分からないだろうが、長治はそういうところに、結構頭が回るものであった。
「何かおかしい」
 と気づくと、少し、後ろに下がるような状況になってきたのだ。
 長治の研究は、以前から、いくつかの組織に狙われていた。しかも、それは日本だけではなく、海外の組織からもである。
 しかし、海外からは、細菌のパンデミックにより、外国との往来がうまく行かなくなり、海外の組織は撤退していった。今では、父親が諜報を行っている組織、つまりは、その親の親である、加害者側の親父の組織が、総元締めの組織くらいのものだった。
 長治の研究は、国家でも密かに気にしていた。
 だが、
「信憑性に欠ける」
 という意味で、国家の組織は、敬遠しているようだったので、実質、組織は一つだけになっていたのだ。
 長治はその組織の存在を分かっていた。
 といっても、被害者の父親である、孫組織の正体しか掴んでいなかったので、自分で、探ろうと思っていたようだ。
 その探りを入れながら、これまでの一人での寂しさを補うという意味で、長治が近づいたのが、
「交通事故で死んでしまった子供の母親」
 つまりは、実家に帰ってしまった、諜報員の奥さんだったのだ。
 子供があの場所でひき逃げに遭ったというのは、子供が母親の様子に気づいて、長治との密会をつけてきたことからであった。
 母親は当然分かっていた。父親とすれば、ウスウス分かってきた奥さんの、それまでの不思議な行動に、さすがにキレて、喧嘩になるというのも当然のことだろう。
 母親としては、さすがにショックは隠しきれなかったが、旦那の自分に対しての誹謗中傷に耐えられなくなり、旦那をなじった。
 当然お互いに喧嘩になれば、一歩も引くわけはなく、けんか別れになるのは当然のことだった。
 だから、実家に帰った母親に、刑事が、
「旦那さんが行方不明のようなんです」
 といっても、
「ああ、そうですか」
 と、聴く耳を持たないと言った様子だったのだ。
 警察もさすがに、これらの関係をおかしいと思い捜査を行うが、そのうちに、
「この捜査は打ち切り」
 といって上から圧力がかかったのだ。
 中途半端な状態で、ひき逃げ事件も解決しない、さすがにたまらないのは母親だろう。
 しかし、自分にも後ろめたさがあることから、それを警察に言うこともできない。夫が行方不明というのは、きっと何かを企んでいるのだろう。
「ひょっとすると、投げやりになって、私を殺して、他のことにもけじめをつけようとしているのだろうか?」
 と思い、急に怖くなってきた。
 母親も行方をくらましてしまい、彼女の母親から捜索願が出た。
 しかし、それから数日後に、事件は急転直下で、解決を見た。
 長治と奥さんの自殺死体が発見された。無理心中なのか、それとも、普通の心中なのか分からない。遺書もなければ、争った跡もない。それだけに、どちらとも取れる状況だった。
作品名:夥しい数のコウモリ 作家名:森本晃次