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後悔の連鎖

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 というのも、需要が増えているようで、結構借りる人も多いようだった。 
 その傾向は、隣のD市にもあるようで、D市の場合は、このあたりで一番最後に市に昇格したところなので、新興住宅に最初は力を入れていた。
 だが、そのうち、駅前の開発も考えるようになり、ターゲットを、
「転勤族の単身赴任者に定めた」
 ということが成功し。今では、8割以上の部屋が埋まっている状況だということであった。
 不動産屋も、
「単身赴任の人が、最近は多い」
 というようになっていて、中には、会社の総務が探しにくる場合もあるようだった。
 D市の成功を目の当たりにすれば、本来なら、真似をするなどしたくないというのだが、プライドよりも、
「背に腹は代えられない」
 とばかりに、真似をするしかない状態になっていた。
 実際にたくさんのマンションを建てたのだが、今度は、同じような条件では、D市の方が先だったということもあり、二番煎じはなかなかうまくいかない。
 何といっても、単身赴任の人たちのほとんどは、すでにD市に住んでいるので、残りは、数が少ないというのは当たり前のことだった。
 そういう意味で、
「やはり、ただ単に、ハイエナのように食らいつくというのは、計画性が何もないということで、危険性を孕んでいるということになる」
 と言えるだろう。
 それでも、今は、どんどんマンションができていて、気づいた時には遅かったと言ってもいいだろう。
 それではということで、今度は、単身赴任者というだけではなく、遠くから通えない学生のための部屋ということで、貸し出すようにした。さすがに学生には、あまり高くはできないが、それでも、入居者がいないことに比べれば、まったく状況は違うと言ってもいいだろう。
 K市は、学生の街でもある。四年生の総合大学は一つ、短大が一つ、薬学大学に、情報大学が一つと、大学、短大だけでも、4つが存在している。そんなわけで、総合大学や、薬学大学などは、全国から人が集まってくるので、彼ら、彼女たちに必要な部屋もたくさんあるのだ。
 以前は隣の、D市にも大学があるので、そっちの学生アパートやマンションを利用している人が多かったが、大学側からも、
「もう少し、学生向けの部屋があれば」
 という話があったのも、事実だった。
 ただ、最初の頃は、まだ商店街の方ももう少し活気があり、一般住民が住む部屋でいっぱいだったこともあって、なかなか大学側のニーズにこたえることができず、D市の方の部屋を多く借りている学生が多かったが、商店街が寂れてくると、さすがに土地を遊ばせておくわけにはいかなくなり、学生向けのマンションに改造する人も増えてきた。
 大学が近くにあるからできることで、なければ、
「このまま商店街と心中」
 などと言う人も少なくはなかっただろう。
 それを思うと、マンションが増えるのは、悪いことではないような気もしてきた。
 そのためか、駅近くの道や老朽化した場所も、区画整理を含めて、市の事業として計画されることになり、今は、駅近くの道の整備、古い店舗を取り壊して、新しいマンションを建てたり、駐車場にしたりと、前のアーケードがあった商店街の時代と、まったく違った街に生まれ変わろうとしていたのだ。
 本来なら、いまさら遅いくらいである。
 そんな街並みは、昼と夜とでは、まったく違う佇まいだった。
 というのは、商店街が寂れてしまい、早朝から、通勤客を狙って、モーニングサービスを行っていた喫茶店もあったが、それも閉まりかけていた。そんな時、学生から、
「せっかくのモーニングがなくなると、寂しい」
 という声や、サラリーマンにも固定ファンがいて、存続を願う声があったので、早朝七時からの営業は行っていた。
 その分、夕方は、6時で閉店するようになった。
 そのせいもあってか、夜は、さらに寂しさを増し、近くにあるスーパーに買い物に寄る人がいるくらいで、6時を過ぎるとほとんどの店のシャッターは閉まっていた。
 通勤の人は、そんな寂しいアーケードを通って帰るので、暗い道を歩いて帰るのと同じで、町内会も、
「どうしたものか」
 と嘆いていたが、この街には、以前から、老舗のような形で、3件ほど、風俗の店があった。そして、少し駅から離れてはいるが、幹線道路に面したところには、以前から、キャバレーのような店が、眩しいくらいのネオンサインを輝かせていたのだが、いつの間にか、店じまいをしていたのだ。
 それも知らない人が多いくらい、この街への関心は、市民だけではなく、他の市からも薄れていた。
「何かないだろうか?」
 ということで、風俗を誘致する人が出てくると、瞬く間に、このあたりの夜の街は、風俗街に変わってしまった。
 さすがに、ソープランドのような特殊浴場は、
「県の条例で作ってはいけない」
 という地域になっていた。
 いや、正確にいうと、
「この地区以外では、作ってはいけない」
 と、最初から決まっていたので、それ以外の性風俗の店や、キャバクラ、スナック、バーなどの、歓楽街が、県の中でも有数の風俗街として、賑わいを見せるようになったのだ。
 無料案内所もいくつもできて、店と連携することで、まるで、吉原か、すすきのか、中洲か?
 と言われるような場所になっていたのだ。
 だが、そんな街も、10年くらい前に、急に寂れてしまった。
 これは、K市だけの問題ではなく、県庁所在地にある、有名な風俗街においても、同じことであり、いくつかの店はどんどん潰れて行った。
 県庁所在地の歓楽街ですらそうなのだから、小さな街にできた新興歓楽街など、ひとたまりもなかった。この土地が歓楽街として認知されだして、10年も経たない間に、どんどんすたれていく。
「えっ、あそこの夜ってそんなに賑やかだったんだ?」
 と、知らなかったのを残念に思う風俗ファンもいたくらいだった。
 それでは、
「なぜ、そんな賑やかで、これまでの不況を盛り返すだけの起死回生の一打であったはずの産業が、何をもって、こんなにすたれてしまったというのだろう?」
 と誰もが思うに違いない。
 その理由は、いわゆる、
「行政の事情」
 にあったのだ。
 それも正当な理由などではない。自分たちのメンツが問題なのだ。
 というのは、ちょうど。十数年前というと、二年前に帝都で行われたオリンピックがあったが、日本の代表として、オリンピック委員会に立候補する土地の最終選考に、帝都と、この年が残ったのだ。
 その年というのは、当該県であり、オリンピック招致に必死だったのだ。
 そして、日本代表になるためには、
「ふさわしい土地」
 と思わせなければいけないということで、風俗店などの一斉摘発を行ったのだ。
 当然、県の一番の風俗街も、かなり摘発を受けた。そのせいもあって、いくつかの店が、閉店に追い込まれたり、警察の手入れが激しかったりしたのだ。
 そして、せっかく、新たな産業として出来上がったこの街も、この摘発で、ひとたまりもなく、あっという間にすたれてしまったのだ。
 一年もしないうちに、前からあった店しかなくなってしまい、100軒以上はあったのではないかと思うほどの店が、あっという間に姿を消した。
作品名:後悔の連鎖 作家名:森本晃次