後悔の連鎖
「これは共同出版なんだから、企業が破綻したのだったら、在庫をただで引き取るのが当たり前じゃないか。そもそも、そっちが売るということで、本にしたのだから、売り切ってもらうのが筋じゃないか? それができないのだったら、そっちで買い取ってもらうというのが、本当じゃないのか?」
と被害者の会の会長はいう。
しかし、企業側の弁護士はいろいろ言って、結局、企業側の言い分を呑むしかなく、
「破棄もやむなし」
と考えた人も多いだろう。
「確かに、頑張って書いた作品ではあるが、こんな詐欺の会社で本にされて、さらし者になるくらいだったら、ここで葬ってあげた方が、いいかも知れない」
と感じる人もいるだろう。
しかし、作品に未練のある人は、泣く泣く買い取ったという人もいるだろう。
最初に、200万払った人は、追加で150万払うというものだ。
しかも、もう存在していない会社から出た本である、価値は正直言ってないだろうし、いわくつきという意味では、マイナスしかないので、破棄した人が本当は正解なのかも知れない。
ただ、これも、詐欺ということを分からなかったことが招いた悲劇であり、自業自得とも言えるだろう。
そういう意味では、決して同情されるべきっことではない。もし、これが同情されるような出来事だとすれば、このような事件は、この世から決してなくならないだろう。それだけ詐欺を行う連中は、あの手この手で、人を騙すことしか考えていないからではないだろうか?
バブルが崩壊したそのツケを、
「負のスパイラル」
という形で、表した、時代の新しい形を、
「負の遺産」
として、後世に残す結果となった一つの例であっただろう。
悪徳弁護士
この時の弁護士は、民事で争っていた。その時には泣き寝入りする羽目になってしまい、その時の被害者の中に、実は自分のおばさんがいたのだった。名前を、
「岡崎治子」
といい、今は、44歳になっているので、当時は、30歳とちょっとくらいだっただろうか?
元々、商事会社に入社して、大卒で入社したのだが、バブル経済の影響を受けている時代で、
「残業はしてはいけない。経費節減は至上命令」
という時代だった。
アフターファイブをいろいろなことに熱中する人がいる中で、叔母は、大学時代に文芸部に所属していた関係で、小説を書くということに、違和感はなかった。
そのおかげで、
「また小説を書いてみようかな?」
と思うのだった。
「せっかくだから、どこか、同人誌のようなところでもあれば、そこで細々と活動すればいいか?」
というくらいに思っていた。
もちろん、小説を書いて、書いた作品をどこかに持ち込めばどういう運命になるかということは分かっていた。
それはそうだろう、素人が書いた作品など、誰が忙しい立ち場の編集者が見てくれるわけなどない。自分の受け持ちの先生だけで手いっぱいなのに、別に素人を発掘したからと言って、給料が上がるわけでもm臨時ボーナスが出るわけでもない。そんなものは、バブルの時代でもなかったことだろう。
それを思うと、
「細々とやっていくのが、一番似合っている」
と言えるのではないだろうか。
下手に必死になって、あわやくばなどと思うと、痛い目を見るのは自分だろう。
というところまでは分かっているつもりだった。
しかし、そんな叔母でさえ、騙してしまうのが、あの自費出版社系の会社だった。
「私はそんな手には引っかからない」
というような凛々しさを感じていたのに、なぜ引っかかってしまったのか。岡崎は驚きを感じえなかった。
だが、実際には引っかかった。
「少しくらいは、どんなところなのか、覗いてみるか?」
という興味本位で、まずは、原稿を送ったのかも知れない。
一度おばさんが言っていたのは、
「この出版社は、ちゃんと原稿を読んで、それに対して批評を的確に返してくるのよ。しかもね、褒めるばかりではなく、最初に、欠点を指摘しておいて、徐々に褒めてくる。つまり、自分たちはちゃんと見ているんだということを、敢えて、批評することで表して、しかも、短所は長所の裏返しとばかりに、ちょっとここを変えれば、素晴らしい作品になるという具体例を示し、そして、徐々に持ち上げていくのだから。読み終わった時は、自分が天才にでもなったのではないかという錯覚に陥ってしまうほどなのよ。実に上手だと思うけど、評価されているのが、自分の作品でしょう? 自分ではそこまで気づかなかった部分を指摘してくれるので、完全に信用してしまうのよ。それが、彼らの思うつぼと言ってもいいのかも知れないわね」
というのだった。
「なるほど、短所を最初に指摘されれば、ちゃんと読んでくれているということを、自分にいいように考えようとするから、十中八九、そういう考えになりますよね。だから、騙されやすいんだろうか?」
というと、
「一応大学時代に文章を書いた経験のある私でも、コロッと騙されるんだから、本当の素人は、完全に手のひらの上で転がされてしまったかの如くって、漢字なんじゃないかしら?」
と、おばさんは言った。
そのおばさんは、ちょうどその時、学生時代から貯めていたお金があったので、借金などすることもなく、しかも、詩集のようなものだったので、数十万円で本を作ることができた。
だから、他の人のように、
「借金してまで」
ということもなく、
「貯金で本が出せた」
と、貯金の使い道を本を出すことで、夢を叶えたと思えば、損をした気分になるどころか、本人としては、大満足だったのだ。
しかも、大学時代に文芸部にいたこともあって、
「安価でできたのだから、まるで同人誌でも発行しているような感覚だ」
と思っていた。
同人誌であれば、別に売れなくても気にはならない。
「売れれば儲けもん」
というくらいにしか思っていなかったので、出版社と本を出した他の人に感覚とは、まったく違っていた。
だから、他の人が弁護士を雇ったり、被害者の会を立ち上げたりするのを、まるで他人事のように見ていた。
それでも、その中に自分の本もあることから、一応、
「被害者の会」
には顔を出していた。
本人は、
「別に被害者ではないんだけどな」
と思っていたので気が楽だったが、他の人は、とにかく、
「許せない」
と必死で叫んでいたのだ。
「他の人たちの目的って、何なのだろう?」
と考えた。
「お金が返ってくることなのか?」
それとも、
「あの詐欺師連中に天罰が当たることなのか?」
そのどちらもであろうが、どっちが切実かというと、おばさんの立場からは分からなかった。
実際に損をしたと思っているわけではないので、お金が戻ってくるなら御の字で、損をしたという気持ちになっているわけではないので、別に、
「詐欺師連中に天罰を」
という気持ちにもなっていないのが事実だった。
だから、自分だけが蚊帳の外という気持ちで見ていたが、その気持ちを見破った人がいた。
その人は同じ会社の人で、元々は、