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後悔の連鎖

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 だから、ちょうどいい塩梅のところで手を引けば、詐欺として訴えられることもなく。もし、誰かが詐欺だと気づいて騒ぎだしたとしても、そこは、実体はないということで捕まるわけはないという考えだったのかも知れない。
 しかし、世の中、うまい商売を、まわりが放っておくわけもなかった。二番煎じの会社がいくつもできて、
 誰もが、ハイエナを狙ってくるのだ。そうなると、本当は、地道に会員を増やそうと思っていたところに、ライバル会社が増えたことで、危機感が増してきてしまい、引っ込みがつかなくなるくらいに、他の会社をライバル視し、少しでも、
「相手よりもたくさんの売り上げや利益を」
 と考え始めると。最初に考えていた、
「うまいところで手を引けばいいんだ」
 という考えが完全に瓦解してしまうことになるだろう。
「目標を見失ってしまった」
 といってもいいかも知れない。
 それは、ある意味、
「大東亜戦争の失敗」
 を、地でいっているようなものだ。
 というのは、あの戦争が、
「かなうはずのない強敵に対し、どうしてもしなければならない戦争だった」
 ということであり、
「勝つための戦争ではなく、負けないようにするための戦争」
 ということだったのを、忘れてしまい、最終的に、国土は焦土となり、最終的には、無条件降伏を受けれなければならなくなり、
「負けないための戦争」
 というものが、最期には、
「破滅を迎える戦争」
 になってしまったのだ。
 それは、戦争当初での、
「連戦連勝による不敗神話が、傲慢に繋がり、相手に情報が洩れていることも分からず、視界として見えている部分も、見えない部分も、盲目となり、戦争を遂行しなければならなかったことが、敗因だった」
 と言ってもいいだろう。
 それと同じことが、戦争が終わってから、60年経ってから、
「いまさら」
 とばかりに、起こったのだ。
 しかも、バブルの時代の反省もないままに、突き進む、どちらの反省も考慮していなければ、しょせんは零細企業、まわりの人間が詐欺だと気づけば、ひとたまりもない。
 むしろ、
「よく、数年とはいえ、こんな繁栄がもったものだ」
 と言えるのではないだろうか。
 一時期は、自費出版社系の会社が、出版部数だけでは、日本一というのが、2年ほど続いていたのだ。
 それはそうだろう。
 有名出版社は、有名作家を抱え込んでいて、その人たちに正規の原稿料を払うことで、厳選した作品を世に送り出してきたのだ。
 しかし、自費出版社系の会社が出す本というのは、素人は趣味程度に書いた本を、作者のお金で出版させるという形を取っているから、部数だけなら、多いのは当たり前だ。ただし、それらの本は、決して本屋の店頭に並ぶことはない。あくまでも、
「本を作るだけ」
 なのだ。
 そして、それらが在庫となって、在庫を抱えることで、倉庫代もかさんでくる。
 そのことも、どうせ最初から考えていたわけではないのだろうから、考えが浅いと言われても仕方がないだろう。
 そんな自費出版社のライバルは、有名出版社ではない。後からハイエナのように出てきた連中だった。
 そうなると、当初の目的だったはずの、
「ある程度のところまで稼げれば、撤収すればいい」
 と考えていたことなど頭の中にあるはずもない。
 当初に連戦連勝で勝ちすぎて盲目になった、大日本帝国の戦争指導者と同じではないか。いや、大日本帝国の場合は、仕方のない部分もあった。
 なぜなら、連戦連勝をマスゴミが宣伝することで、
「日本は負けるはずがない」
 という不敗神話を証明した形になり、実際には、
「引くに引けない状態になってしまった」
 と言ってもいいのではないだろうか。
 それが、大東亜戦争における、大日本帝国と、バブルが崩壊したにも関わらず、いまだに、詐欺と自転車操業で、やっていこうと考えた連中の大きな違いではないだろうか。
 そういう意味で、自費出版社系の会社の罪は、
「救いようのない罪」
 として、語り継がれることになるだろう。
 そんな自費出版社系の会社の罪を全体的に考えると、
「騙されるやつらがいるから、騙す奴が出てくる」
 という考えに落ち付いてしまい、まるで、
「ニワトリが先か、タマゴが先か?」
 という禅問答の回答が出ない限り、永遠にこの負の連鎖、つまり、
「負のスパイラル」
 は、続いていくものではないかと思うのだった。
 そんな時代、何も自費出版社系の会社だけが、詐欺を行っていたわけではない。ネットの普及により、爆発的に詐欺が横行していた。
 それまでは、騙されるべくして騙されていたという詐欺だったが、いつの間にか、
「誰だって、引っかかってしまう。詐欺はあなたのすぐそばまでやってきている」
 と言われるようになった。
 逆にそんな時代だから、自費出版社関係の会社に対し、
「これくらいは、詐欺なんかじゃない」
 という詐欺に対して、感覚がマヒしているところに付け込んできたことが、最初の成功にも拍車をかけたのかも知れないのだった。
 そんな詐欺に近いような連中なので、破綻する時はあっという間だった。
 しかも、誰の迷惑をかけることなく破綻するのならいいのだが、やつらの破綻が、人に迷惑をかけっぱなしだった。
 一般企業が、破綻して、民事再生を申告した時、基本的に、民事再生を申請した会社を助けることを基本とするので、いわゆる、
「債権放棄」
 の方法を取る。
「例えば、一年以上前の債権は、放棄する」
 というようなやり方だ。
 もちろん、債権には、時効というものがあるので、期間はそれによって決まってくうのだろうが、そして、民事再生を申告した会社と取引をする時は、
「基本現金払い」
 とするのだ。
 要するに、お金がないと、商売ができないということである。
 そして、再建するために、いくつかの、
「スポンサーと言われる企業を見つける」
 ということが大切だ。
「今後、この企業がやっている事業は、これから伸びるので、出資してもいいという会社がなければ、再建はできないということで、一種の銀行側が融資するための、連帯保証人というか、会社としての担保」
 のようなものだということだ。
 つまり、民事再生というのは、民事更生のように、
「経営陣の総入れ替えが必要」
 であったり、それなりの厳しい処置があるわけではない。
 あくまでも、その企業が存続できるかどうかということだけが問題なのだ。
 ただ、さすがに詐欺でなりたっていた会社のスポンサーになるところが現れるはずもなく、完全破綻してしまったのだが、問題は、
「倉庫に山のように残った在庫」
 だったのだ。
 このまま放っておいても、賃貸料だけが発生する。弁護士が作者に対して提案したのが、
「本となったものは、定価の8割掛けで、皆さんにお売りします。買い手がなければ、廃棄します」
 というものだった。
 これには、さすがに著者はたまったものではない。
作品名:後悔の連鎖 作家名:森本晃次