墓場まで持っていきたい思い
ということで、殉職を考えたり、危険な捜査でもしなければいけないということを考えると、二の足を踏むだろう。
今であれば、まず間違いなく、
「警察官になりたい」
などという人は、ほとんどいないのではないかと思うが、この数十年でどのように変わってきたのか、数年おきくらいに見てみたいものだった。
そんな警察官になってから、この門松署に赴任してきてからというもの、それほど凶悪犯の事件が起こったことはなかった。
隣の、酒殿署では、結構いろいろな事件が起こっていた。
といっても、県庁所在地で事件を起こした犯人が、この地に潜伏していることが多かったからで、それは、今はなくなったが、酒殿署管内に、昔の暴力団事務所があったからだった。
今では解散してしまったが、その残党と思えるような連中が、今も、裏で暗躍をしているようで、そんな連中に対して、犯罪を犯した連中が頼っていくようだった。
いや、逆に、そんな連中から頼まれたり、命令された連中が事件を引き起こし、一時的な滞在をここで行い、後は、ルートに乗って、海外に高飛びなどという出来上がった路線に乗っていたのかも知れない。
それを思うと、すでに確立された計画の中で行われてるということで、警察も後手後手意回ってしまい、組織の枠組みが分かっていないと、どうしても、謙虚には及ばないことになるだろう。
そういう意味で、本部は必死にその経路を探っているようだが、相手もなかなか頭がいいのか、そう簡単に尻尾を出さない。
今のところ、警察組織が、
「組織に踊らされてしまっている」
というのが、関の山のようになっているようだった。
それをどう打開するかというのが、県警本部の方でも、大変なようで、内偵を酒殿署管内に送り込んで、スパイ工作をしているようだ。
かつては、その内偵が殺されるという事件が、酒殿署管内で起こったが、さすがに所轄にもシークレットな内容だったので、所轄が納得いかない形で、事件が曖昧にされてしまったことがあったようだ。
隣の署なので、何も言えないし、縄張り意識からすれば、
「いい気味」
なのだろうが、警察官としての気持ちとしては、どこかやり切れない思いに至っていたのだ。
拉致誘拐
そんな状態がずっと続いていたのだが、なぜか、お隣の門松署管内では何も起きていなかった。
ちょっとしたことはあったりするのだが、組織が絡むようなことはあまりなかった。だが、ここ最近では、凶悪犯と呼ばれるようなものはそれほどないのだが、詐欺事件であったり、金銭に絡むような公金横領的な犯罪はちょこちょこあった。
福岡刑事が関係する事件とは少し種類が違うので、それほど意識はしていなかったが、そうもいっていられないことが、最近増えてきたようだったのだが、いまだ刑事課では、その意識はなかったのだ。
そもそも、県警本部もそれほど意識しているわけではなかった。あくまでも、酒殿署管内での事件を中心に考えていたのだが、それは、ある程度まで、組織が解散した後の残党が、今どのようにしているかということが、分かってきたからだった。
他に移り住んだ人間もいるが、それは隠れ蓑であって、活動拠点を、酒殿署管内において、裏で暗躍している連中が多かったのだ。
そのことは、内偵捜査などである程度までは分かってきたが、その割に、本部管轄で出た犯罪者の足取りが途中から、まったく分からなくなっていることに、変わりはなかったのだ。
「どこで、どのようになっているのか、すっかり分からなくなってしまっているのは、どうしたことなんだろうか?」
と、本部の刑事もすっかり困っていたのだった。
門松署の連中は、気にはなっているが、気持ちとしては、
「対岸の火事」
である。
「世の中が平和ならそれに越したことはない」
と思っていて、
「その火の粉が降りかかってこないことが一番だ」
と、大っぴらい口にしている。
ただ。最近増えてきている詐欺事件には、注意をしているのだが、それは、
「組織の活動資金に回っているのでは?」
と考えられたからだ。
昭和の頃の、組織の活動資金とは、かなり変わってきている。
昭和の頃というと、一般的に考えられるのは、
「密輸した麻薬によっての利益」
であったり、
「パチンコ屋や風俗店などから上がる、いわゆる、「みかじめ料」だったり」
そんなものが、主な資金源だったりするだろう。
風俗も経営もその一つなのかも知れないが、最近は、ギャンブルも、風俗も、昔のように、あからさまに、
「組織がやっています」
などというのは、通用しなくなってきている。
法律も厳しくなってきているのもあるが、昔のような、
「極道による任侠」
というのが、流行らなくなってきているのだろう。
そういえば、同じ組織と言われるものでも、ある時期、宗教団体も、
「反政府組織」
という括りで、大きな社会問題になったこともあった。
それまでにも、
「赤軍」
と呼ばれる組織であったり、宗教団体というわけでも、暴力団関係というわけでもない組織が大きな犯罪を起こしたりというのが定期的にあった。
食品業界を同時に脅迫するという事件もあったりして、結局、未解決だったので、あの事件の主犯が、
「どういうグループだったのか?」
ということも分からずじまいであった。
あれは昭和の最期の時期だっただろうか?
何が目的なのか分からない、食品メーカーへの脅迫事件と似た時期に、まったく違う事件が、社会を震撼させたことがあった。
もっとも、この二つの事件は、県警本部があるこの県とは、関係のない、帝都であったり、大阪などの大都市で起こったことであった。
どちらが先だったのか、ハッキリと覚えていないが、もう一つの事件というのは、完全な詐欺事件であり、しかも、やり方のえげつなさが、世間の注目を浴びたのだった。
今でこそ、
「オレオレ詐欺」
であったり、ネットを使った脅迫などの犯罪があるが、当時は、ネットなどもなく、携帯電話などもない時代だった。
ただ、これは組織が暗躍をしたわけではなく、表向きは普通緒商事会社なのだが、そこの人間が、他人の家に入り込んで行った犯罪である。
何が汚いかというと、
「お金を持っているが、家族から相手にされなかったりする、老人をターゲットにしていた」
のだった。
その頃になると、核家族化してしまい、それぞれの家族が別々に住むというのが当たり前になってきていた。
息子たちも、親の資産を知らなかったのだろうが、それよりも、親との同居を鬱陶しいと思うからだろうか。親を放っておいて、自分たちだけで、都会でマンションを借りて過ごすということは当たり前になってきた。
会社の事情もある。
会社は、社員を定期的に転勤させ、そこで、キャリアを積ませようというのが、当たり前であり、転勤ができないというと、出世ができなかったり、就業規則違反ということで、窓際族となったりしていた。
だから、転勤覚悟ということで、すぐにでも引っ越せるようにm賃貸マンションに住んだりしていて、気が付けば、
「息子夫婦は、北海道にいる」
作品名:墓場まで持っていきたい思い 作家名:森本晃次