墓場まで持っていきたい思い
「日本という国は、戦争を継続していけるほどの資源がない」
ということであったので、負けないシナリオをして、
「まず、東南アジア、特にインドネシアの油田を手に入れて、半年か一年くらいの戦争継続が可能なだけの燃料が手に入れば、後は、奇襲攻撃などで、当初のうちに、圧倒的な勝利を収め、あまつさえ、相手が戦争継続意思がなくなるほどに戦意喪失でもしてくれれば、最善のところで、和平交渉ができる」
というものであった。
日清戦争でも日露戦争でも、勝つには勝ったが、北京やモスクワに攻め込んでの、占領という、
「完全勝利」
だったわけではないだろう。
だから、連合艦隊の山本五十六司令長官が、近衛ソーリに、
「戦争には反対ですが、もし、どうしてもやれと言われれば、最初の半年や一年は、大いに暴れてお目にかけましょう。しかし、そこから先は、責任は持てません」
と言った話は有名である。
実際に、大東亜戦争が始まって、最初の半年は、日本軍には、向かうところ敵なし、全戦全勝だったのだが、問題は二つあった。その根本は一つなのだが、要するに、
「戦線が伸び切ってしまった」
というのが大きかった。
つまり、戦争を起こしても、あまりにも支配したのが、広すぎて、食料や船団による、兵の補給ができなくなるということである。
つまりは、
「日本から遠すぎて、その間に、待ち構えているアメリカ軍に攻撃される」
ということである。
輸送船団を狙われれば、戦わずして、兵を海に沈めることになってしまい、しかも、船や武器まで、無駄に消耗するということだ。
だから、本来であれば、最大に占領したあたりで、和平交渉を進めればよかったものを、あまりにも景気よく勝ちすぎたために、世論の後押しもあって、
「引き下がれなくなってしまった」
というのが本音でもある。
そういう意味では、あの戦争は政府が悪いわけではなく、最初に国民を扇動して、戦争を煽ったマスゴミにも責任はあるのだ。その後、
「情報統制」
などが行われ、
「ウソで固めた大本営発表の犠牲者」
がマスゴミのように言われたが、マスゴミは犠牲者でも何でもない。
「自業自得なのだ」
と言えるのではないだろうか?
警察は、まず、被害者宅に赴いて、奥さんから一応の事情を聴きながら、電話を受ける準備をした。今は昔のように逆探知なども無理だし、GPS機能をすべて、ロックしてしまえば、位置情報も分からない。それでも、とりあえず、会話の中や、まわりの音などを解析し、どこから電話しているのかくらいは収拾できるというものだ。
これをもしネットでやれば、今度はIPから位置情報が分かるだろう。ただ、それもいくらでも逃げ道はあるというもので、ネットカフェだったり、不特定多数の利用する場所であれば、場所は特定できても、誰なのかまでは到底特定できない。とりあえずの装置の設置というところであろうか?
そうしておいて、奥さんと、会長となる父親から話を聞くことにした。
話としては、あらかじめ、奥さんから少々のことは聞けていたのだが、会長とは初めての話になり、そこで会長に、
「何か、恨みに思われるようなこと、息子さんにあったんですか?」
と聞かれると、
「いいえ、そんな話は聞いていません。むしろ、今は会社も安定していて、どちらかというと、息子は優しすぎる方で、恨まれるというようなことは今は考えられないねすね」
と会長がいうと、奥さんもそれを聞いて、必死に頷いている。
すでに前日から、かなり気を揉んでいるのだろう。奥さんは、かなり疲れているようで、顔色もかなり悪い様子だった。
「ですが、人間いつどこで人の恨みを買うか分かりませんからね。恨まれていないと思うようなちょっとしたことでも、逆恨みということもあるし、何かしらあれば、おっしゃっていただければ、そこから、犯人を割り出すということもできるかも知れませんからね」
ということであった。
それを聞いた会長は、
「私ならいざ知らず、息子にはちょっとわかりかねますね」
という、意味深な言い方をしたので、
「会長、今の私ならというのは、どういう意味ですか?」
と福岡刑事が聞くと、
「ああ、今の逆恨みという言葉でいえば、私にならあるかも知れないけどもという意味なんですよ」
というではないか。
「というのが?」
「いえね、あれはもうかなり前のことですね。昭和から平成に移ってすぐくらいのことだったから、かれこれ、30年近く前のことですね。ちょうど、私の父の先代、つまり創業者が、そろそろ引退して、私に社長業を継がせようかという頃のことだったんですよ」
というので、
「ああ、じゃあ、今の息子さんくらいの頃でしょうか?」
と刑事が聞くと、
「そうですね。もう少し若かったかも知れません。当時、世間では、大きな事件があってですね。老人が詐欺に引っかかるという社会問題になった事件があったのを、刑事さんはご存じですか?」
と言われ、誘拐事件と聞いて思い出したのが、同じ頃の、食品メーカー社長誘拐だったことで、この事件のことも、本当に久しぶりに頭の中から引っ張り出したのを思い出したのだった。
「ああ、そんな事件もありましたね」
と、少し煙に巻く形で話した。
会長は、そんな刑事の素振りに気づいたのか気づかないのか、構わずに、話を続けたのだ。
「ちょうど、その時、私は社長になる前の最終試験という意味なのか、先代から呼ばれて、今回の事件の手助けをしなさいと言われたんです。その時、弁護士の人がいて、その人の話としてですね。被害者の会を立ち上げたいんだけど、会長には、被害者とゆかりのない人に就任してもらいたいということで、相談に来たというんですね。しかも、その弁護士というのが、次期の顧問弁護士の候補の人だったので、ここで、私を目立たせておこうという考えがあったんでしょうね。先代社長とともに、私を説得に罹ったんですよ」
というではないか。
「会長さんは、引き受けられたんですか?」
「ええ、まあ。私の方としても、社長就任の前に、手土産でもあった方が、今後の社長業がやりやすいと思って、気軽に引き受けたんです。社長がこれだけいうんだから、当然、会社を上げての会長就任ということになるわけでしょうから、頑張ろうという気になったわけですよ」
というではないか。
解放
「被害者の会」
というと、どうしても、弁護士の力が有力だったのではないかと思ったので、刑事とすれば、
「誰か、優秀な弁護士さんがついていらしたんですか?」
と聞かれた会長は、
作品名:墓場まで持っていきたい思い 作家名:森本晃次