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墓場まで持っていきたい思い

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 ひょっとすると、昭和最後のあの事件でも、
「最初の誘拐というのは、捜査を攪乱させるための、ダミーのようなものだ」
 と思っているとすれば、事件が迷宮入りになったのは、この時のダミー事件が、最初に警察を攪乱させるという意味での目的を、これ以上ないというくらいに満たしていたのかも知れない。
 それを考えると、この事件は、ある意味、犯人側にとって、
「成功した」
 といえるのではないだろうか?
 ただ、何と言っても、それは、
「迷宮入りした」
 ということでの成功ということであって、本来の目的を達成できたのかどうか、それは犯人側にしか分からない。
 それを警察や世間に分かってもらおうとすると、今度は、犯人を特定させる必要がある。そうなってしまうと、犯人グループは自分たちの身元をバレさせることになるだろう。
「自分で自分の首を絞めている」
 ということと同じことになるだろう。
「本当は、言いたいのにいうわけにはいかない」
 というジレンマが横たわっているとすれば、犯人グループにとって、
「この犯罪は、それでも行わなければいけなかったのだ」
 ということになり、結局、動機が大いに問題になってくるだろう。
 もし捕まってしまったとするならば、覚悟が決まっているとして、彼らには、それを大っぴらにいうことができる。果たして、証拠に繋がりそうなこと、口にできるだろうか?」
 それが、事件に重たい空気をもたらせるのであろう。
 同じ時代に起こった、
「老人をターゲットにした詐欺事件」
 というのは、この事件と、まったく正反対の部分があった。
 それは、被害者側に、
「被害者意識がまったくなかった」
 ということである。
 そのために、二つの大きなことが出てきた。一つは、
「うまくやりさえすれば、完全犯罪に近づけたかも知れない」
 ということである。
 それは、被害者に被害者意識がなかったのだから、誰かに、
「それは詐欺だ」
 と指摘されない限り、世間も、本人ですらも、気づくことはなかっただろう。
 それだけに、被害者は、頑なに相手を信じていることで、たとえ指摘されたとしても、
「私は、あの人を信じる」
 といって、さらに態度を硬化させることになるかも知れない。
 そこまで犯人側が、被害者を洗脳していたということだろうから、もし、詐欺が明るみに出ても、本人に被害者意識がなかったとすれば、それは、犯人側にとって、
「いざとなった時の逃げ道」
 も、うまく作っておくことに成功するだろう。
 少しでも時間稼ぎができれば、それだけの時間を使って、逃亡することも可能だからである。
「海外にでも逃亡されると、手の付けようがない」
 と言われるが、もし、これによって、日本国内における時効を狙っているとすれば、犯人側も気をつけなければいけない。
 時効というと、殺人などの凶悪犯などでは、十数年前くらいに、廃止されたが、そこまででもない犯罪には、まだまだ時効というものがある。
 その時効であるが、警察の捜査において、海外に逃げてしまえば、時効のある犯罪くらいであれば、ほとんどのものが、日本の警察が介入できないということになる。
 だから、
「海外への高飛び」
 ということが有効になるのだ。
 しかし、ここには、実は盲点が存在していて、
「時効の経過において、海外に滞在していた期間を、除いた期間が、時効となる」
 ということになっている。
 つまり、時効が10年の犯罪であれば、たとえ、海外で3年いて、帰国すれば、あと7年ということになるのだろうが、実はそうではなく、10年のままなのだ。海外にいた時の期間をカウントしないで日本に帰ってきて、時効だと思ってしまい気を抜くと、どうにもできなくなってしまうことになるだろう。
 そんなことを考えていると、
「犯罪において、ある意味一番安全なのは、相手が被害者意識を持たないということになるのだろう」
 という意識から、今回の犯罪を成功させる裏付けにもなったのかも知れない。
 しかし、この犯罪にも、デメリットはある。
 何と言っても、
「疑うことを知らない」
 といってもいいような、寂しがり屋の老人をターゲットにしたという、卑劣でえげつないやり方に、世間は驚愕を受けたことだろう。
 しかも、そこに、
「被害者意識が絡まなければ、完全犯罪もありえたかも知れない」
 と考えると、犯人はどのようにして、犯行に及んだのかということを、世間の人が想像すると、それは、大いなる社会問題になるのは必至であろう。
 犯人が目立ちたがりであれば、それもいいのだが、あくまでも、
「詐欺行為によって、金銭を得るということに、自分の才覚を感じていたり、単純に、詐欺行為がうまくいけないいというだけの犯罪であれば、後から生まれてくる、社会問題的な意識というのは、余計なお世話だといってもいいのではないか?」
 と考えられるのではないだろうか?
 特に、見事に騙していることが、どれほど卑劣なことかと考えれば、重大事件であることに変わりはない。
 ただ、共通していることは、
「この二つの事件で、犯人側が行った犯罪には、殺人罪というものが含まれてはいないということ」
 であったのだ。
 それでも、一番の大きな違いは、詐欺事件の方では、最後まで、被害者には被害者意識がなかったということで、中には、
「何も知らずに、死んでいった被害者もいた」
 ということだったのだろう。

                 被害者の会

 福岡刑事は、とりあえず、事件の概要だけを聞いておいて、まもなく出勤してくる刑事たちが集まってくるのを待った。電話を切ったのが、5時を回っていて、6時近かったくらいかも知れない。あまり騒が立ててもいけないと思い、とりあえず、早朝の通勤は平常通りに行い、出勤してきた刑事に、それとなく少しずつだが、話をしておいた。
 刑事部長が出勤してくると、いよいよ報告に入った。内容を聞いた刑事部長は、
「よし、分かった。電話を掛けてきた人も、直接刑事課にかけてきたということは、大っぴらにすると、危ないと考えたんだろうな。こちらも、秘密裏に動かないといけないな」
 といって、今回の福岡刑事の対応には、一定の評価を寄せていた。
「恐れ入ります」
 といって、刑事部長の報告が終わったが、その時に分かった情報を、できるだけ簡潔に、刑事部長に話した。
 電話を掛けてきたのは、清川朝子という女性で年齢は、40歳になるという。そして、今回誘拐された人は、彼女の旦那で、清川平蔵という、45歳になる人だった。
 彼は、前述のように、有名会社である、
「清川エンタープライズ」
 の社長であった。
 2代目となる社長が会長に退き、平蔵は社長に就任したのは、3年前だという。会社の実権は、社長に就任しても、最初は会長にあり、やっと3年目になってから、社長として一人前になったということで、
「これで、わしもゆっくりできる」
 と、会長の座についてはいたが、実権はすでに息子に譲っていて、名前だけの会長となり、ほぼ、隠居生活状態であった。
 会長の名前は、清川竜彦といい、年齢とすれば、もう70歳を超えているという。それでも、
「まだまだ、若い者には負けん」