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もう一人の自分の正体

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「私は、それをあなたの二重人格のもう一つの性格なんじゃないかと思ったの。それは、今目の前にいるあなたとは、まったくの別人に見えたからなの。だけど、1カ月が経って、想像してみると、どの方向から考えても、やはりあなたには、もう一人の自分が存在しているとしか思えないのね。そのことを、口で説明するのは、とても難しいことで、俄かには信じてもらえないことなんでしょうね。でも、今のあなたは、私が言っている、10分前の女という話を信じてくれている。だから、あなた自分のことも知っておかなければいけないことなんだって、思ったのよ」
 というのだ。
 確かに、言われる通りなのだろうが、何を知っておく必要があるというのだろうか?
 そんな時、彼女がおもむろに口を開いたのだ。
「あなたには、冷静沈着な、もう一人のあなたがいるのよ」
 ということであった。
「冷静新着? 自分には一番程遠い性格に見えるんだけど」
 というと、
「そうなのよ。だから、もう一人のあなたがいるのよ。二重人格のもう一つなのか、今のあなたでは信じられないような、冷静なんだけど、明らかに邪悪な星の元に生まれたと言ってもいいようなあなたが、存在しているの」
 というではないか。
 彼女は続ける。
「私があなたに必死になって、10分前の自分のことを話していたのかというと、話していないと気持ち悪い自分がいるからだと思っていただけではなく、あなたにも同じようなもう一人の自分がいることを知ってほしかったのかも知れないわ」
 という。
「じゃあ、その心は君が、僕にもう一人の自分の存在を知らしめようとしたということなんだろうか? それで君に何もメリットがあるというんだ?」
 というと、
「そう、そういうところなのよ。あなたの悪いところは」
「どういうこと?」
「あなたは、損得勘定では動いていないつもりなんでしょうが、絶えず気にしている。今も無意識のうちに、メリットなんて言葉が出てきたわけでしょう? でも、もう一人のあなたは、決して損得を表に出すことをしない。表に出さなくても大丈夫だという自信があるみたいなの。だから、冷静沈着でいられるんでしょうね」
 というではないか。
 お互いに、
「もう一人の自分」
 という存在を知ることで、お互いの地位関係には、矛盾は生じない。
 そういう意味で、彼女は、黙っておくことができなくなったのだろう。

                 大団円

「それって、ジキルとハイド的な感じの、もう一人の自分なんだろうか?」
 と聞くと、
「似て非なる者という言葉があるけど、実際には逆なのよ。ジキルとハイドのように、お互いを意識しあっていて、あの話をドッペルゲンガーと結びつけるのは確かに無理がある。もう一人の自分が存在しているとしても、それは、性格的にはまったく違うもので、見た目も違っていて、同一人物だと、誰も思わない。ただ、同じ時間には存在できず、一つの身体を共有していることであり、それを二重人格という言葉で表現するしかなかったんでしょうね。でも、それがドッペルゲンガーと同じではないという証明にはならない。それをあなたが証明してくれるような気がしたの」
 と彼女はいう。
「君の場合はどうなんだい? 10分前お女とは、同じ人間だと思えるのかい?」
 と聞くと、
「私には同じ人間にしか見えない。それも、考え方が同じのね。つまりは、表に出してはいけないものが何なのかというのを考えるのが私で、同じことを考えているんだけど、何を出せばいいのかということを重視している冷静な私とがいる場合、私には、彼女の加算法な考え方、そして冷静になれるだけ、自分に自信を持っているというもう一人の自分が羨ましい限りなのよ」
 というのだ。
「どういうことなんだい?」
 と、聴かずにはおられない。
「これは、もう一人のあなたから教えられたことなんだけど、10分前の私は、実に冷静だというの、だけど、もう一人の私、つまり、この私に対して、ものすごい執着心のようなものがあって、それが怒りの元なのかどうか分からないんだけど、同じ人間なのにって私が思っていると、今度は彼女が、同じ人間だから、余計に許せないところがあるのよと言っているような気がして、考えてはみるんだけど、結局、その答えは分からない。彼女が何を言いたのかも分からない」
 ということをいう、
「そんなもう一人の君の存在を教えてくれたのが、もう一人の僕だということだね? じゃあ、君はもう一人の僕を知っているということになる」
 というと、
「ええ、そうよ。私はよく知っている。だけど、それと同時に、あなたも、もう一人の私をご存じなんじゃないかしら? それは、あなたの意識の中で、もう一人の自分という存在が、私だけではないということに気づき始めているでしょう? 私だけでもあなたとだけでもない。ひょっとすると、この世の人間、すべてに言えることではないかってね。その発想はパラレルワールドに近いものなのかも知れない。同じ次元で同じ時間に、人間は存在しえないという理屈で、問題は、本当に同じ時間に存在しえないのか? ということであって、存在そのものではないのよ」
 と、彼女はいうのだった。
 どうも二重人格であったり、ドッペルゲンガーのようなものは、人の数だけ、どちらかが潜んでいるのではないだろうか?
 そこには、パラレルワールドのようなものが存在し、それだけではダメで、そこを行き来する、トンネルのようなものが必要ではないか。
 そういえば、躁鬱になった人の話を聞いた時、
「鬱状態から躁状態に変わる時、長かったトンネルを抜けるような気がするんだ。だけど、躁状態から鬱に変わる時には、トンネルが見えてくるわけではない。そこがいつも不思議だと思っていたんだよな」
 と、言っていたのを思い出した。
「出る時の意識はあるけど、入った意識がないというのは、何となく分かる気がするな。自分にとって都合がいいように見えるということなのかも知れないな」
 ということであった。
 パラレルワールドを考えた時、その間を行き来するものとして、想像すれば、どうしても、井戸のようなものが頭に浮かんでくる。
「それは、ワームホールと頭の中で混乱していないか?」
 と言われることだろう。
「ワームホールというと、タイムトンネルのようなイメージのもので、よくあるのが、森の中に井戸があって、そこが、未来に繋がっていたり、過去に繋がっていたりするよね? 過去から未来にタイムスリップする時って、過去にはその井戸があるんだけど、未来のどこに飛び出すかという絵があまりないような気がするのは、気のせいだろうか?」
 と考える。
 つまり、ワームホールというのは、
「未来と過去を結ぶタイムトンネル」
 だと言ってもいいだろう。
 タイムマシンの開発に、タイムパラドックスの発想があり、難しいという話が多いのに、このワームホールという考え方は、矛盾している。
「ワームホールにおいて、未来の出口がないのは、その矛盾への挑戦ではないか?」
 とも、考えている。
 その証拠として、ワームホールというものは、
作品名:もう一人の自分の正体 作家名:森本晃次