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もう一人の自分の正体

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 そんな状態で、おだてに乗って、どんどん本を出す人が増える。
 その時、岡崎のおじさんで、自費出版社に自分の作品を送って、
「自分でお金を出さなくとも、いい作品であれば、出版社が、金を出す」
 という企画出版なるものがあるのだが、それを狙っていた。
 だから、共同出版を相手が勧めてくると、
「いや、企画出版ができるまで、送り続ける」
 といったそうだ。
 しかし、相手も商売、そのうちに、じれてきて、営業の化けの皮が剥げてくる。
「今までは自分があなたの作品だからということで出版会議に図っていたんですが、今度が最後です。もうあなたの作品だけを贔屓はしません」
 と言い出したのだ。
 これまでの言い方とはまったく違う言い方で、
「それでも、僕は送り続ける」
 というと、相手は完全にキレて、
「正直にいって、あなたレベルでは、企画出版は無理です。できるとすれば、名前が売れた、芸能人か犯罪者だけで、それ以外の一般の人は、100%無理です」
 と言い切ったのだ。
 それこそ、宣伝で言っていることと、まったく違うではないか。
「なるほど、これなら、出版社の人間と、本を出したい人の間で、詐欺問題が勃発するのも、時間の問題だ」
 と感じたのだ。
 案の定、そうなるまでにそれほど時間はかからなかった。まるで判で押したような。転落を絵に描いていくことになるのだった。
「やっぱり、著名人というのは、それだけ影響力が強いんだ」
 ということを思わせた。
 いくら相手がキレて、暴言を吐いたことであり、あまりにも露骨なことだったので、こちらも頭に血が上るほどの気持ちになったとはいえ、言っていることに間違いはない。間違っていないからこそ、その言葉にウソがないからこそ、
「そんなことをいうなんて、あまりにも直球過ぎるとして、怒りのこみあげ方も、尋常ではなかった」
 ということなのだろう。
 だから、余計に、ドッペルゲンガーの話を信じてしまうのだろう。
 彼女が言ったという、自分が、
「10分後の女」
 という話も、あまりにも内容が弾けすぎていて、俄かに信じられることではないが、
「ドッペルゲンガーを信じるのであれば、この話を信じないというのは、矛盾している」
 という考えであった。
 それよりも、岡崎は、
「彼女の話を信じてあげたい」
 という気持ちがあるのであって、何とか話の辻褄を合わせようとしてしまう。
 そのために、自分の気持ちをいかに整理するかということになるのだが、この10分とドッペルゲンガーの存在に結びつけるには、ある意味、都合がいいような気がした。
 10分という時間が、
「交わることのない平行線」
 を永遠に作り続けることで、それぞれが、この次元で出会うということはありえないだろう。
 そう考えると、もう一つの疑問が浮かんでくる。
 それは、
「彼女がいかにして、10分前の自分を知ったのかというのが、気になるのだったが、それよりも、まずは、このようなことを考えている人は彼女だけなのだろうか?」
 ということであった。
「交わることのない平行線」
 として、例えば、時間による縛りがあれば、二人が出会うということはない。
 出会わなければ、この世にもう一人が存在しているなどという馬鹿げたことを信じることはない。
 よほど、相手に、
「動かぬ証拠」
 のようなものを突き付けられれば分からないが、そうでなければ、いくら人が言っていると言って、そう簡単に信じられることではない。
 そんな話を聞いて、
「信じられるような気がする」
 と感じている自分が怪しくなってきた。
 それはあくまでも、自分の意思に反するものであるような気がするからだ。
「普通に考えて、そんなことはありえない。ありえると考えるのは、まるで、自分の首を絞めるかのようではないか」
 と考えたのは、自分の彼女にしようと思っている相手が、こんなヤバイ妄想に取りつかれていると思うと、当然、彼女への気持ちを躊躇する自分がいるのも、当たり前のことではないだろうか。
 彼女が、どうして

「もう一人の自分を知ったのか?」
 ということを知ったのは、ごく最近だった。
「10分前の女の存在を口にするようになってから、1か月ほど経っているが、なぜ、その存在を知ったのかということには、頑なだった」
 と言ってもいいだろう。
 その女のことを、しつこいほど言っているのを見て、
「ああ、彼女は、この女の存在が、本当に恐ろしいんだ」
 と感じたことだった。
 彼女にとって、恐ろしい存在である、
「もう一人の自分」
 そのことに気づいたことで、口にしないと気が済まないのか、ここまで何度も、しつこいくらいに口にしているというのは、
「やはり、どこかおかしい」
 と言えるのではないだろうか。
 それを思うと、彼女が、一生懸命に言っていることで、一つの仮説が生まれてきた。
「これは、彼女にだけ言えることではなく、本当は誰にでも起こりえることで、実際には起こっているのかも知れない。ただそれを信じられないという理由でからなのか、何なのか、誰も信じようとはしないだけのような気がする」
 という考え方だった。
 それはそれとして、いや、大いに関係はしていることなのだが、それよりも、もう一つの、
「考えられること」
 の方が気になっていたのだった。
 それは、彼女が、どうして、会うことができるはずのない、
「もう一人の自分」
 という存在を知ったのか?
 彼女がいうには、
「人に教えられたのだ」
 というではないか。
 最初はそれが誰だか言わなかった、話が佳境を迎えるにしたがって、確かに彼女のいうとおり、
「誰かに教えられたわけではないと知りえないことのはずだ」
 ということに気づいてくるのだが、
「それが誰なのか?」
 ということが、分からない。
 それよりも、
「どうして、この俺に話すのだろう?」
 と思った。
 確かに、彼氏なので、知っておいてもらいたいのか、それとも、言うべきことだと思ったのか? 考えられるのは後者だった。
 普通に考えると、いくら彼氏であっても、秘密にしておきたい、あるいは、秘密にしなければいけないことは、いくつか散見されて当然ではないだろうか?
 それを考えた時、
「やっぱり他人ということなんだ」
 と思い知らされるに違いない。
 そんな時、彼女がまるで意を決したかのように、なぜ、もう一人の自分の存在に気づいたのかを話してくれると言い出した。
「これは私が気づいてちょうど一か月経ってからのことなんだけど」
 というではないか。
「私は、というか、私の方が俄かに信じられないことだったので、1カ月考えてしまったというべきなのか。それは、あなたにももう一人の自分が存在しているということなのよ」
 という。
「ん? どういうこと?」
 と、ビックリして聞くと、
作品名:もう一人の自分の正体 作家名:森本晃次