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もう一人の自分の正体

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 中学生くらいなら、スマホは普通に持っていて当然だ。
 さすがに小学生であれば、
「身の安全のため」
 という理由でスマホを持たせることが多いだろうが、それも必要最低限のことができるだけの、いわゆる、
「キッズケイタイ」
 としての機能しか持つことを許されないかも知れない。
 それでも、犯罪に巻き込まれないという意味での備えは、しておく必要がある。スマホ携帯は、しょうがないことなのだろう。
「自分にとって、都合のいいこと、悪いこと、それを判断するのは、一体誰になるのだろうか?」
 と、考えさせられるのだった。

                 座敷わらしの呪縛

 子供の頃から、思春期までの間、結構とんでもない少年時代を過ごしてきたといってもいいだろう、
 それは決して褒められたことではなく、ロクでもないことである。
 苛めに遭っていたりして、不登校から、引きこもりになった。
 その時、自分の二重人格性を実感したのかも知れないと感じたが、とんでもないことの中には、事実として列挙するようなこともあれば、
「事実かどうか分からないが、自分の中での、ターニングポイントになったかも知れない」
 というようなことも、同時に起こっているのだった。
 一つのことが同時に展開することで、
「二重人格になった」
 と感じたのかも知れない。
 もう一つは、
「都合の悪いことは忘れてしまう」
 ということであった。
 その内容を忘れるというよりも、その事実自体を忘れてしまうのだから、たちが悪いといってもいいだろう。
 そのせいで、宿題をいつも忘れていた。忘れてしまったことで、親にバラされることが怖くて、必要以上に親の行動が怖かった。
 苛めに遭っていたことも、親に知られたくはなかった。下手に親に騒がれると、
「せっかく、静かにしておいて、波風を立てずに、うまく嵐が去ってくれることを願うしかなかった」
 のである。
 だが、大人の理屈では、それを許してはくれないだろう。
 いじめっ子から逃げて、不登校になり、引きこもってしまう。子供はそれで、嵐が去るのを待てばいいと思うのだろうが、それを許してくれないのが、岡崎の母親だった。
 あれば、一度、学校から帰る時、筆箱を学校の机の中に忘れて帰ったことがあった。
 これは、都合の悪いことを覚えていないこととまったく関係のないことであったが。その時、まだ、小学三年生だった岡崎は、母親の命令で、学校まで筆箱を取りに行かされたことを思い出した。
「学校で持って帰らなければいけないものを忘れてくれば、取りに帰らなければいけないのは当たり前のことである」
 と思い込まされていて、実際に学校にまで取りに行かされることを苦痛でしかないのに、当たり前だと言われるのは、どこか、理不尽な気がした。
 まったく遊びの部分がないことであり、それは母親の個人的な考えの押しつけでしかないということを分かっていなかった。
「母親の行っていることは、当たり前のことであり、それに逆らうというのは、許されないこと」
 という考えで、
「嫌なら、学校から持って帰るのを忘れないようにすればいいだけのこと」
 なのだが、それが簡単にできるくらいなら、苦労はしない。
 押しつけはプレッシャーとなって、トラウマになることで、遊びの部分がないことが、いかに辛いことなのかということを、思い知らされるということであろう。
 母親には、子供をプレッシャーで追い込んで、そこから先、トラウマを起こさせ、精神的なゆとりを奪うことが、いかに子供を堂々巡りに追い込むかということを分かっていないのだった。
 それが自分に遺伝したのだろうか?
 例の障害者の友達に対して、自分が心無い態度を取ったことを、まわりは冷めた目で見ていたことを思い出させる。
「空気が読めない」
 ということになるのだろうが、自分では、後になって冷静に考えれば、自分の何が悪かったのかということが分かるのだった。
 だが、これも不思議なことに、
「もう一度同じようなシチュエーションがあっても、また同じことをしそうだな」
 と感じた。
 これも、
「都合の悪いことは忘れてしまう」
 ということに結びついてくるのだろう。
 つまり、
「自分の悪いところというのは、それぞれ、キーポイントのところで結びついているのかも知れない」
 ということになるのであろう。
 そんな岡崎だから、彼女がいても、長続きしない。
「岡崎さんって、最初は人当たりがいいんだけど、話をしてみると、ハッキリしないし、付き合っていると何を考えているか分からないことが多いのよね。前と態度が違うというか」
 ということを言われていた。
 前と態度が違うというのは、肝心なことや、都合の悪いことを忘れているので、態度が違っているように見えるのだろう。
 しかし、本人は気づいていないようだが、普通はそういう風には見てくれない。
「あの人は二重人格だ」
 と思うか、
「他の女の子と勘違いしているんじゃない?」
 と、二股、あるいはそれ以上しているのではないかということを考えるであろう。
 人と話したことを忘れているくらいのことは、一度くらいなら、愛嬌というものだが、それが何度も続くと、さすがに女の子も、そんなに忘れっぽいとは思わないだろう。それよりも、何か相手の思惑を探ってみたくなる。それは二重人格性を隠そうとしているという思いであったり、二股を掛けられているという思いであったりするのだ。
 そう思い始めると、岡崎の方も、
「あれ? 俺のことを信用してくれてないのかな?」
 と感じるようになる。
 すると、
「まただ。今までみたいに、俺のことを、変な目で見てくるんだろうな」
 と、かつてのうまく行かなくなった時のことを思い出してくる。
 すると、実際に判で押したように、いつものパターンにもぐりこんでしまうのだ。
 というのも、相手がぎこちなくなり、それがまるで自分を探ろうとしているようで、何に疑惑を感じるのか、岡崎には分からない。
「俺って、一体どんな風に見えているのだろう?」
 と余計なことを考えてしまう。
 考え始めると、余計な方向に向かっても、どうすることもできなくなる。
 というのも、相手が、自分の浮気を疑っているかのように見えるのは、きっと二股を女の方で考えるからで、これが一番、発想としての距離が近いのかも知れない。
 しかし、だからと言って、自分のことが好きだといってくれたわけではないので、付き合っているといっても、お互いに拘束力はないのだが、自分は浮気などできない人間だと思っている岡崎は、相手に浮気を疑われるのは、実に心外なことだった。
 少なくとも、よほど嫌いな相手ではない限り、岡崎は受け止めることにしている。
「自分を好きになってくれるなんて、高尚な女性を、好きにならないなんて、それはおかしいというものだ」
 という考えを持っていた。
 それが、女性にとって、
「誰でもいいって言っているようなものだ」
 ということになるとは、思ってもいなかっただろう。
 そう、岡崎は、自分に都合よく考えるところがあった。
作品名:もう一人の自分の正体 作家名:森本晃次