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連鎖の結末

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 下を見れば見るほどに、意識が薄れていって、顔色が真っ白になっているらしい。過去に、どこかから落ちたというような記憶もないのに、一体どうしたことなんだろうか?
「その自殺をした人もね。君と同じように、怖い怖いって言っていたのさ。ここから下を覗くのがね。でもその人は、この場所で、前にも自殺をした人がいるんじゃないかって言い出したんだよ。実際にそんなことはなかったはずだったのにね」
 というではないか。
「じゃあ、その人のために、この祠を作ったんですか?」
 と聞くと、
「いいや、そういうことではなく、この祠は、元々このビルを建てる時からあったみたいで、地鎮祭の時に、神主が話す中で、
「この祠を壊すことは危険すぎるので、屋上を作って、そこに移せば、呪いとかがなくて、うまくいく」
 と言われたという。
「でも、結局自殺をする人が出たんでしょう?」
 というと、
「それはその通りなのだが、その人は死ぬことで、救われたのではないかという考えもできたんだ。借金で首が回らない。家族は崩壊。会社からは、いろいろな責任を背負わされ、一人のせいにされて、結局自殺ということになった。このまま生きていても、ロクなことにならなかったのは間違いないことなんだよ」
 とその人はいった。
 鈴村は少し疑問を感じていた。
「この人、よくここまで分かるな? まるで死んだ人が乗り移っているかのようじゃないか?」
 ということであった。
「まるで見てきたことのように聞こえますけど」
 と聞くと、男はそれに答えず、
「ここから飛び降りると痛いんでしょうね? 飛び降りる時、何を考えたんでしょうか? どっちに落ちれば、どんな形で落ちれば、痛くないとか、考えたんでしょうね?」
 といって笑うのだった。
 その顔があまりにも気持ち悪くて、本当なら、もう屋上になど来たくないと思いながら、ある一定期間、この屋上に来ていた。期間としては、三か月くらいだったか、そのうちに来ることはなくなったのだが、なぜあの時の三か月間が存在したのか、今では覚えていないのだった。
 だが、その間に、その人と一度も会うことはなかった、どこの誰かも分からないまま、季節は過ぎていたのだった。

                 連鎖の範囲

 そんな不思議な時間が過ぎると、そのおじさんのことが、今度は忘れられなくなった。意識をすることはなくなったのだが、心の奥のどこかに潜んでいるのだ。その男の正体など分かるわけはないのだが、間違いなくその男が存在したのだという意識はあるし、屋上に行かなくなったというのも、無理もないことであった。
 そのうちに、世の中の問題が、いよいよ、この会社にも、波となって押し寄せてきたのだろうか? 問題がちょくちょく起こり出した。
 今までのような営業ではものが売れなくなり、下手をすると、
「帳合替え」
 などということを言ってくる得意先もあった。
「そんな、今までのお付き合いじゃないですか?」
 といっても、
「こっちだってね。慈善事業じゃないんだ。そのことを、末端の客から思い知らされているのは、我々小売りなんだからね。本当に、並べているだけの我々としても、困っているんだ」
 ということであった。
 しかし、まだ、商品がある間はマシだった。
 店頭に並んでいる食品など、値段はどんどん上がっていくが、そのせいで売れずに売れ残ってしまっている。
「どれだけの在庫を廃棄処分にしたか。生鮮食品や日配などは、ほとんど売れずに全滅ですよ。本当だったら、補填してほしいくらいだよ」
 というではないか。
 もちろん、店のバイヤーのいうことはよく分かる。一般消費者が相手であれば、問屋が小売りに営業を掛けるようなわけにはいかない。特に、メーカーか代陳保障のようなものもなく、しつこくすれば、客は寄ってこない。
 いくらうまく説得しようとしても、実際に、物が高いのだから、説得材料がまったくない。
「夕方の八時近くになっても、陳列台にいっぱい並んでいる生鮮食品など、普通ならありえない。タイムサービスで売り切れるくらいが一番いいのに」
 というのであるが、実際には。何も売れない。
 この半年で、ほとんどの商品が、三割以上の値上げ。
「昨今の政治事情により、心苦しくも値上げさせていただきます」
 と書いたとしても、客からすれば、
「心苦しいのはこっちだよ。足元を見て」
 ということになる。
 買い物に来る、主婦連中は、中途半端に政治のことは、一般常識としてくらいは知っているだろう。ネット情報だったりするからだ。
 だが、ネット情報だからと言って、必ずしも合っているわけではない。中には、ウソではないのかも知れないが、かなり偏った情報もある。
 そもそも、地上波の民放の放送局などは、それぞれに主張があり、それに沿った報道を行うので、放送局ごとに、細かい情報が違う。特に、考え方やイデオロギーなどは、完全にその会社の考え方だったりするのだ。
 つまり、右寄り、左寄りなどと言った、
「右翼左翼」
 の考え方だったり、与党、野党の党派だったり、同じ党内での派閥だったりと、同じ報道をしているのに、コメンテイターの話も違っている。
 特に、コメンテイターというのは、曲の方針に合う人をあらかじめリサーチして、アポを取っているのか、それとも、コメンテイターの方で合わせているのか、どっちなんだろう?
「そりゃあ、どっちもさ。コメンテイターによっては、一つの局からしかお呼びがかからない人もいれば、いろいろな放送局に顔を出す人もいる。前者は、放送局によって都合のいい人であって、後者は、そうではなく、局の方針に合わせられるから、いろいろな放送局からお呼びがかかるのさ。いや、正論に対しての反論という形で呼んでいる場合もあるな。正論のコメンテイターの意見を生かすための、当て馬のような形で使うというやり方だよな」
 という話を聞いたことがあった。
 その人は、また面白い話をしていて、結構テレビに関してはいろいろ自称だが、博識だといっていた。
「最近のテレビって、昼は結構ワイドショーが多いじゃないか? 昔だったら、奥様劇場のような、昼メロだったりが、正午から、2時くらいまでやっていたはずなんだ。しかもだよ、そこに出てくるコメンテイターや、MCまでが、昔のお笑いタレントだったりするんだよな。一体どういう時代になったっていうんだろうな?」
 というではないか。
 確かにそうだ。昼間の時間、どのチャンネルを見ても、ほとんどがワイドショーで、しかも、内容は真面目な話をしているではないか。
 それなのに、MCにしても、コメンテイターにしても、毎回同じ、お笑いタレントだったり、中には、
「真昼間から、地上波で出していいのか?」
 と思えるような人が出てきて、気分が悪くて、チャンネルを変えたりしていた。
 そもそも、そんな連中に何を語らせるというのか?
作品名:連鎖の結末 作家名:森本晃次