連鎖の結末
日本の捜査能力を考えれば、こんなにかかるはずはない。それを思うと、
「やはり、警察なんて、しょせんそんなものなんだ。期待するだけバカを見る」
というものだった。
今回に限ってはそれでよかった。どうせ母親も、警察にも見つけられないものを、息子が探せるなどとは思ってもいないだろうからである。
そんな鈴村だったが、父親とは、定期的に様子を見に行くということで、とりあえずは、「もう、気にしないでおこう」
と思うようになった。
そして、やっと、自分の仕事に戻ることにしたのだが、鈴村が勤めている会社も、実はいろいろ厄介なことに巻き込まれるようになっていた。
最初は、他愛もないことだったのだが、その他愛もないことから、少しずつ、問題が大きくなっていく。
「大きな山も、アリの巣のようなものから崩れていくというからな」
ということなのであろう。
もっとも、今の世の中、順風満帆で世間を渡っていける会社など、そうあるものではない。
その会社も、大なり小なり問題を抱えている。
そのことは誰もが分かっていることであり、何も鈴村の会社に限ったことではない。
ただでさえ、コンプライアンスや、個人情報保護など、法律や、世間の風でがんじがらめになっているところに、自然現象の波が襲ってくるなど、思ってもいなかったからだ。
屋上の祠
いや、自然現象というのは、本当にそれが正しいのかどうか分からない。定期的に起こることではあり、それまでは、本当に自然現象だったのだろうが、
「今回ばかりは、そうとはいえないのではないか?」
と言われているが、そのことを決して口にしないのは、これが、国際問題になったりする可能性もあるからなのだろうが、それ以前に、すでに全世界に広がってしまっていて、元々の原因を探る余裕など、世界全体になかったのが、曖昧にされてしまった最大の理由だったのだろう。
というのは、
「世界的なパンデミックの発生」
が問題だったのだ。
数年前、突如として、現れた謎のウイルス、あっという間に世界各国で蔓延してしまった。
日本政府は、バカの集まりなのか、最初から、
「その国による細菌兵器培養説」
があったにも関わらず、その国からの入国を相変わらず受け入れていた。
先進国では、その国以外の他国からも、入国制限を行い、ウイルスに感染した人を、隔離するという、
「伝染病マニュアル」
に沿って、行動していたにも関わらず、日本では相変わらず、水際対策がザルとなってしまい、悪戯に感染者を増やし、社会不安を巻き起こした。
第一波こそ、そこまで感染者が多くなかったので、最初は国民も、
「そんなに大げさにする必要はないのでは?」
ということで、マスクすらする人はすくなかったが、ニュースで死者の数が報道されていき、その中で、有名なコメであんの人がウイルスに罹って死んだということが
報道されると、それまでと、手のひらを返したかのように、皆慌て出したのだった。
しかも、2人、3人と、どんどん、聞いたことのある芸能人が死んでいく。それを聞いた時、世間は震え上がったのだ。
しかも、政府がいきなり、
「全国の小中学校と休校にする」
と言い出したのだから、それまで無関心だった人も、どんどん気にするようになり、いろいろな社会問題を引き起こした。
まずは、マスクの世界的な不足であった。
何といっても、マスクの生産は、
「この伝染病の発症の地」
である国が、一番の生産国であるということで、結果、生産が追い付かず、世界的に手に入らなくなっていたのだ。
しかも、専門家の発表によって、
「布マスクは、ほとんど効果がなく、使い捨ての不織布マスクが有効だ」
と言われたものだから、余計に需要が増えたのであって、どうしようもなくなったのだ。
そんな状態に輪を掛けて、当時のソーリが、
「マスク不足を補うため」
ということで、布マスクを、自分の
「お友達」
である、聞いたこともない企業に発注を掛けて、それを作らせ、全国に、
「一家に2枚」
を配布すると言い出したのだ。
しかも、そのマスクの評判は、
「小さくて、使い物にならない」
ということで、結果、世間から、
「税金の無駄遣い」
と言われ、マスゴミからも、かなり叩かれていたようだ。
さらに、追い打ちをかけるように、今度は、皆に、
「ステイホームを呼び掛ける」
という理由で、ネット配信動画を作成した。
といっても、それは、
「有名アーチストとのコラボ」
という形であったのだが、実際に制作した有名アーチストは、
「聞いていない」
ということで、勝手に使われる形になった。
しかも、その内容が、椅子に座って、ペットを抱きながら、コーヒーを飲んでいるというような、実に平和な動画で、
「皆さん、私のように、家でゆっくりしましょう」
とでも言いたげな、映像だった。
それを見た国民が、
「お前はどこぞの貴族化?」
であったり、
「お前が家でゆっくりしていて、そうすんだ。こうしている間にも、人がバタバタと死んでいるんだぞ」
という批判を浴びることになり、この政策も企画倒れというところだった。
「よくもまあ、こんな奴が、国の代表で、恥ずかしくないのか?」
ということなのだろう。
結局、最期は2度目の、
「病気ということにして、入院し、病院に逃げ込む」
という常套手段を使い、さっさとソーリを辞めたのだが。その後のソーリは、また、それに輪をかけたひどい奴がなったものだった。
今度のソーリは、第2波が収まった頃に、経済復興の切り札として、キャンペーンをぶちまけたが、それも、専門家から、
「時期尚早ではないか」
と言われていたにも関わらず、行った結果が、第3波を巻き起こすことになった。
2度目の緊急事態宣言を発令し、国民の自由を奪ったのである。
しかも、この男の罪はもっと深かった。
翌年には、1年延期した国内開催のオリンピックを、強行するという暴挙に走ったのだ。
世界オリンピック委員会の金の亡者の連中の言いなりになって、
「私が、オリンピック開催の時の総理大臣だったんだ」
という名前を刻みたいがために、国民を犠牲にしてもかまわないというほどのやり方に、国民は、
「オリンピック反対」
という声を挙げて、国は、真っ二つに割れてしまっていた。
オリンピック賛成派も、反対派もそれぞれに意見があるようだったが、当のソーリは、何も考えることなく、ただ、
「安心安全」
という言葉だけを口にしていた。
誰が信じるというのか。
さらに、伝染病以外のところでも、問題が山積していて、伝染病がなくても、
「かなりケチのついたオリンピック」
ということで、汚名だらけの大会だったのだ。
そんな状態において、誰がもうソーリや政府のいうことを聞くというのか。
何しろ、オリンピックも不祥事続きだった。