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連鎖の結末

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 ということであった。
 だが、それを聞くと逆に、今度は嫌な予感がしてくる。
 父親が、覚悟のうえで会社を辞めたのだとすれば、急にしかも、いきなり何の前触れもなくいなくなるというのは、解せない気がする。
「やっぱり、何かあったのだろうか?」
 ということで、もう一度警察に行って、話をした。
 この時には、会社の社長も一緒に行った。
「どういうことなんですか?」
 と、刑事から聞かれて、
「ええ、彼は行方不明になる理由がちょっとよく分からなくてですね。最初は休養すると言っていたのに、急にいなくなったのは、急激な何かによる気持ちの変化によるものか、それとも、何かの事件に巻き込まれたのではないかと思いまして」
 といって、刑事に、父親と話をした時のことを明かした。
「なるほど、ご心配は分かります。こちらとしても、捜査範囲を広げてみましょう」
 といっていた。
「どうせ、今まで捜査などしてもいなかったくせに」
 と思ったが、口には出さなかった。
 そんな警察を当てにしなければいけない自分たちが情けなく感じられるほど、警察というものがあてにならないということが分かってきたのだ。
 本気で探してくれているのか、まったくもって分からない。正直、鈴村が、
「自分で探した方が早いのではないか?」
 と思い、街はずれの、ホームレスが屯しているところを探してみると、意外と簡単に見つかった。
「お父さん」
 と声を掛けると、父親は、バツの悪そうな顔をしたが、思ったよりも元気そうなので、子供としては安心した。
 あまり見たこともないような父親の、人懐っこそうな表情を見ると、それまで心配していた自分がバカに思えてきた。
 しかも、こんなに素人が探して簡単に見つかるものを、警察は、一体何をやっているのか?
 この期に及んで、まさか、まだまともに捜索をしていないのではないだろうか?
 そんなことを考えていると、
「なるほど、こんな世の中嫌になるお父さんの気持ちも分からないわけではないな」
 と感じたのだ。
「お父さんはどうして、いなくなったりしたの?」
 本当であれば、いきなり聞くことではないのだろうが、人懐っこそうな表情を見てしまうと、どうしても、一言言っておきたくなったとしても、無理もないことだろう。
「そうだなぁ、お父さんが、前、会社の犠牲になって、辞職しなければならなかったことは知っているだろう?」
「うん、知ってる。でもお父さんは、何も悪くないんだよね? 会社の上役の命令通りになっていたんだからね」
 というと、
「そうなんだけど、お父さんは、そんな自分がつくづく嫌になったんだよ。自分でやりたくもないことを、会社のために、誰かがしないといけないなどと言われて、結局お父さんになったんだけど、あの時、家族を路頭に迷わせてはいけないと思ったんだ。お前だったら分かるだろう?」
「うん、分かるよ」
 というと、
「だけどさ、それって、自分の家族を言い訳にして、他の家族を壊そうとしているわけで、本当だったら、会社の経営陣が、すべての責任を取ればいいのに、社員をリストラしたりして、自分たちの責任を少しでも軽減しようとしていたんだ。ひょっとすると、他の会社に行くことになった時、前の会社の危機を、自分がどのように救ったのかということを手土産にして、自分だけが助かろうとしているんじゃないかと思ってね。お父さんは、そんな連中の犠牲になったんだよ。今まで会社に尽くしてきたのにね。本当なら会社が報いてくれる番のはずなのに、一体どういうことなんだってね。会社なんてそうさ、景気のいい時は、経営陣の成果であり、悪くなってくると、責任を社員に押し付けて、リストラなんかもどんどんやる。自分が表に出るとまずいとでも思ったのか、誰かを生贄にして、自分たちの保身を図ろうとする。そんな会社に嫌気が刺して、前の会社は、定年前に辞めたんだ」
 というではないか。
「お父さんがどうして定年前に辞めて、友達の会社に入ったのか、理解できなかったけど、話を聞いていると、少しは分かった気がするんだ。もちろん、すべてが分かるわけではないけど、気持ちは分かる。僕だって、今は社会人になっているわけだからね」
 というと、
「だったら、少しは分かってくれるだろう。世の中で一人が頑張ったって、結局、何も変わるわけではない。家族は確かに大切なんだけど、家族という足枷が、自分を苦しめているのも確かなんだ。つまりは、会社に、家族を担保に取られているようなものだよ。それなのに、家族はまったく分かってくれない。お前たちのことを言っているわけではないのだが、ここのホームレスの人の話を聞いていると、だんだんわかってくるのさ。ここにいる人の中には、元大会社の社長だったり、学者の先生だっているんだ。別に彼らであれば、こんなところにいなくても、ちゃんと世間を渡っていける。本当なら、一般の人を引っ張っていってほしいくらいの人なのに、まったくそういう感じがないんだよ。皆いい顔をしているし、あの顔を見ていると、ここに来る前が何であったのかなんて、関係ないって思えてくるよね」
 という父を見ていると、もう、世俗に返すのは気の毒な気がしてきた。
 それは、父親に対しても感じることであるし、
「いまさら父を世俗に返したとして、何になる」
 というのもあった。
 しかし、気になるのは母親のことである。果たして母親は父親のそんな気持ちを分かってくれるであろうか?
 鈴村が考えるに、
「それは無理があるのではないか?」
 と感じたのだ。
 父は正直、ホームレスとして、仲間もできたようで、そっちの世界で平和にやっているようだ。しかし、母親が見ればどうだろう?
 ホームレスというよりも、浮浪者にしか見えない。言葉の意味は同じなのだろうが、表現の仕方でここまでイメージが変わるものもない。
 ただ、よく考えてみると、鈴村には、ホームレスよりも、浮浪者の方が、何となく馴染みがある言葉のように感じる。
 ホームレスというと、そのまま直訳すれば、
「家なき子」
 とでもいうか、
「家のない人」
 である。
 だが、浮浪者といえば、浮浪という言葉に、どこか自由さを感じるのは、鈴村だけだろうか。
 これを、
「ふろう」
 と読むから、そう感じるのであって、
「はぐれ」
 と読むとどうだろう?
 昔、マンガで
「浮浪と書いて、はぐれと読ませる」
 ものがあったではないか。
 マンガはかなりの長寿であったし、昔、テレビ化もされたということで、再放送で見たこともあったが、何とも自由人の生き方をしめしていた。
 さらに、
「はぐれ」
 という言い方を使った刑事ドラマシリーズもあり、はぐれというものが、まるで自由の象徴のような雰囲気を醸し出していたのだった。
 ただ、これはあくまでも、言葉の遊びであって、実際に今の父親を見て、母親が一体どう感じるのか、分からない。とりあえず、母親には気の毒だが、父親の身元が分かったことは、父親と二人だけの秘密にしておくことにした。
「どうせ、そのうち、警察が見つけてくることだろう」
 と思ったが、やはり、警察は真面目に探している様子はないようだ。
作品名:連鎖の結末 作家名:森本晃次