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連鎖の結末

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 倒産させた会社を生かすために、零細企業を切り捨てるというと聞こえは悪いが、倒産した会社の再生も基本的には、なかなか難しい。前述の、現金仕入れというのも、問題だし、何と言っても、数社のスポンサーが必要ということで、一社ならともかく、複数ともなると、ほぼ難しいのではないだろうか。
 トップの入れ替えが行われても、その事情は、
「海の者とも山の者とも分からないトップ」
 ということであれば、銀行が融資をするわけはない。
 やはり、スポンサーがしっかりしたところがついてくれないと、企業の再建など、難しいのだ。
 鈴村健吾の父親は、そんな会社に勤めていた。何とか会社の再建はなったのだが、そのための代償はかなりのものだったという。今は、昔であれば、定年を迎えて、ひょっとすると継続して勤務していた時期なのかも知れないが、定年と同時に会社を退職し、知り合いの事務所で、細々と事務のような仕事をしている。
「さすがに、会社再建に尽力してきただけあって、かなりの手腕が期待できる」
 と、友達は言っているようだが、すでに、父親の気持ちは、余生に向かっていたのだ。
 休みの日になると、会社の社長である、友達といつも、釣りに行っていた。
「釣りだけが、俺の愉しみみたいなもので」
 といっているが、まさにその通りであった。
「竿を投げている時のあの快感は、釣りを始めた子供の頃とまったく変わっていない。お前もそういう趣味を持てるようになるといいぞ、お父さんは、お前には、そういう人生を歩んでほしい。仕事人間が悪いとは言わないが。変にのめりこむとトラウマになってしまうことになるからな」
 といっていた。
 まさにその通りで、父親が、家族を寄せ付けないあの頃の姿を嫌というほど見せつけられた。家族のために頑張ってくれているのは分かっているのだが、あそこまで卑屈になって会社にしがみついていた父親を見ているだけで嫌だった。
 だからと言って、
「そんな会社にしがみつく必要はない」
 などと言えるわけがない。
「誰のために、こんな思いをしていると思うんだ」
 と言われてしまうだろう。
 もちろん、家族のためというのは当然のことであり、父親の辛い気持ちも分からなくもないが、
「誰のためって……」
 そう、家族が悪いわけでもない。
 だから、この話になると、結論など、どこにもないのである。出るはずもない答えを探したって、それは時間の無駄でしかない。
 つまりは、平行線を描いているだけなのだ。
 絶対に出会うことのない接点を、いくら話したって、見えてくるものなどありはしない。子供や奥さんは、会社というものを知らないからだ。
 いくら、世間で、
「バブルが弾けた」
「最悪の不況と、就職難」
「リストラの嵐」
 などと言われても、分かるはずはない。
 時代的に分かるとすれば、あれは高校生だった頃だろうか。
「派遣切り」
 などと言われていた時代、年末年始など、公園でボランティアが炊き出しなどを用意して、公園で寝泊まりしてい人に振る舞っていた光景を見たくらいである。
 何となく覚えているのは、大きな駅などでは、真夜中の電車の走っていない時間帯も、コンコースに人が入れていて、ホームレスの連中が、入り込んでいて、駅の係員が困っているような姿を覚えている。
 今では、何か事件があったようで、それからは、最終が出てから、始発が動き出すまで、駅構内は、完全に締め切って、立ち入り禁止にしているようだ。
 本当なら、そんな人たちは、市役所の生活保護関係の人の手引きで、生活保護を支給させながら、仕事を探すのが、本当なのだろうが、どちらが悪いのか、なかなかうまく進まない。
 役所側も、いろいろ面倒なことを言ってくる。最初は仕方なく支給してはくれたが、落ち着いてくれば、
「家族で養ってくれる人はいないのか?」
 だとか。
「生活保護を受けるための条件」
 などと一パオ出してきて、なるべく支給しないようにしてくるのが、億劫になり、
「これだったら、ホームレスの方がマシだ」
 ということになるのである。
 支給を受ける方も、仕事についても、社員ともめたりして、なかなか定着できなかったりする。
「俺たちのような外れ者は、もう、どうしようもないのさ」
 といって、ホームレスに戻っていく。
 そんなホームレスに、いつの間にか父親はなっていた。
 最初は、会社を辞めたことを家の誰も知らなかった。
 てっきり、会社で仕事をしているものだと思っていたが、公園などで時間を潰していたようだ。
 最初の頃は必死になって、社会復帰を考えていたようだが、社会復帰を考えるまでもなく、仕事をするのが、嫌だというよりも、身体が動かないのだからしょうがない。
 当然、頭が回るわけもなく、会社に行って、仕事をしようとしても、難しかった。
 友達は、何とか助けてやろうとしたが、その友達というのが、すぐに影響されやすい人だということだった。
「このままだと、俺までどうにかなっちまうよ」
 と、父親にその辛さを話したが、
「そうだよな。お前にはもうこれ以上迷惑はかけられないからな」
 というと、
「後少しじゃないか、定年まで、それでもダメなのか?」
 というので、
「申し訳ない。会社にいるだけで、身体の拒否反応がハンパないんだ」
「それなら、どうしようもないな」
「ところで申し訳ないが、家族には黙っておいてくれないか? バレた時は、俺から黙っているように頼まれたと正直に言ってもらって構わないから」
「それはいいが、俺も知っている家族を騙すというのは、どうも、気が載らないな」
「本当に申し訳ない。今の俺はいっぱいいっぱいなんだ」
「お前がそこまでいうならしょうがない。それくらいまでは、俺の方で何とかするが、お前も無理するんじゃないぞ」
 という会話が繰り返させたらしい。
 もちろん、そんなことを知ったのは、少し経ってからのことだった。父親が行方不明になったのだ。
 いわゆる蒸発というやつで、最初は何かの事件に巻き込まれたのかということで、警察に捜索願を出したが、正直、警察に捜索願を出したくらいでは、警察は動いてくれない。
「自殺の可能性がある」
 あるいは、
「何かの事件に巻き込まれてしまった」
 などという、確固たる証拠があれば、警察も動いてくれるが、警察は本当に、事件性がないと動いてくれない。
 当然、父親の働いている会社に行って、会社の人に聞くと、
「ああ、鈴村さんなら、もう辞めましたよ。ご存じなかったんですか?」
 と言われて、何が何やら訳が分からない状態だった。
 社長に詰め寄ると、社長は、かなり落ち着いていた。こうなることは最初から分かっていて、了承したわけだから、毅然とした態度で臨むしかなかった。
「社長さんは、どうして止めてくれなかったんですか? お友達じゃなかったんですか?」
 と母親に言われて、苦虫を噛み潰したかのような表情になり、
「ええ、説得もしました。ですが、本人が拒否反応をするというんです。それを無理に止めることは私にはできませんでした。でも、彼は、ゆっくり静養すると言ったんです。まさか行方不明になるなど、最初話をした時は、そんな感じはありませんでしたけどね」
作品名:連鎖の結末 作家名:森本晃次