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連鎖の結末

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「危ない危ない」
 と、少し我に返る場面もあったが、それも、この石橋の計算ではないかと思うと、どこか末恐ろしさを感じた。
「しょせん、陰陽師も人の子」
 ということなのであろう。
 陰陽師は鈴村という男と会った時、何か、一瞬ゾッとしたものを感じた。
「初めて会うはずなのに」
 という思いがあったのだ。
「誰かにイメージが似ているのだろうか?」
 と感じたが、実はゾッとしたというのは、他の人手あれば知らないことを、この男が知っているというよりも、思い出させてくれたような感じである。
 まったくのオフレコで、このことが発覚すると、ただの社会問題では済まなくなるし、政治家一人や二人の首ではすまず、政権交代になりかねない。
 もし、今政権交代などすれば、世の中がどのようになるか、想像もつかない。もし、今の政府のやっていることをすべて否定して、ひっくり返しでもすれば、一か月もしないうちに、日本の国は滅亡してしまうだろう。
 それがどういうことなのかというと、この陰陽師の男は、表は陰陽師を名乗っているが、裏では、影の組織と結びついているのだ。
 しかも、その影の組織というのが、まさに、今回石橋が持ってきた案件である、
「スパイに関わる」
 ことであった。
 自分でスパイをしているわけではないが、スパイ養成の組織があることは前述で話をしているが、そこの講師と、親しいのである。
 そもそも、政府に、
「スパイ活動を活発にすれば、世間の目をごまかすこともできるし、政府の都合がいい組織を作ることができる。他の政党がのし上がってきた時などに、役に立つのではありませんか?」
 という、入れ知恵をしたりしていた。
 もちろん、陰陽師は金が目的ではなく、彼には彼の思惑があった。政府に取り入って、今の立場を政府の中で深めていこうと思っているのだ。
「こんな風に、人にアドバイスをするだけでは、何も始まらない」
 と思っていた。
 何を始めたいとかいう確固たるものがあるわけではないが、その始めることが、自分たちのこれから、それは政府がどうのではなく、これからできるであろう組織の足固めをしておくということが必要だった。
 そのために、スパイを養成する必要があり、そんな金があるわけもないので、政府に取り入って、政府にそのお金を出させ、裏では我々が暗躍することで、今後の組織の基礎を作ろうとしていたのだ。
 実際に、そのスパイが、今、石橋の街で暗躍しているというのも、実は計算済みであった。
 彼の計画の中にあるものであり、ちょうど石橋の街は、
「モデルコース」
 だったのだ。
 つまりは、モルモット。実験台ということである。
 計画は、順調に進んでいた。暗躍はするが、それが問題になることはない。自治体とすれば、そんな怪しい組織の存在は気持ち悪いと思っているだろうが、だからと言って、彼らの暗躍をむやみに攻撃もできない。
 下手に攻撃すると、取り返しのつかないことになってしまわないとも限らない。
 彼らもしょせん、
「市民のため」
 とは言っているものの、しょせん最後は自分が可愛いのだ。
「何とか、騒ぎがない間に、任期を終えたい」
 と思っていることだろう。
 さすがに、この日本で、お隣、韓国の大統領のようなことはないだろう。
「大統領を務めた人間の末路は悲惨なものだしな」
 ということである。
 建国以来、一人を除いて、ほとんどが悲惨な目に遭っている。
 暗殺された者もいれば、死刑判決を受けて。拘留された者がどれだけいるか。
 恩赦になって出てくる人もいるが、それでも、何年も刑務所暮らしである。
 ちょっと前まで、国家元首だった人間がである。
 それを思うと、
「それでも、どうして大統領になりたいというのか?」
 ということである。
 実におかしな国ではないだろうか?
 こちらも、ある意味で、
「連鎖反応」
 だといっていい。
 特に政治のように、極端な話、誰がやっても、やり方は違えど、政治は政治である。そういうものが、繰り返し行われ、連鎖反応を引き起こすのではないだろうか?
 例えば、ブームというのは、一定の期間の間に繰り返すという。そう、ここでも、キーワードとして浮上してくるのが、
「一定期間」
 というものであろうか?
 一定期間、スパイが暗躍するのは、繰り返しが絡んでいて、そして、そこから、時代の先を見つめるということでの暗躍だとすれば、一定期間をいかに短くするか長くするか、そのちょうどよさを見つけようとしているのかも知れない。
「そのために、養成所が必要なのではないだろうか?」
 と、陰陽師は考えた。
 正直、陰陽師といっても、神様ではない。万能の力を持っているわけではないが、ある一定の力を持つことが許されているのだとすれば、その力とは、
「何かと相乗効果を持つことができる」
 ということなのかも知れない。
 普通であれば、絡んだとしても、力が倍になるようなことは人間ではない。せめて、相手のことが分かるようになり、そこから自分の悟りが開けるというくらいであろう。
 しかし、陰陽師は、それを力に変えることができる。それが、
「絡む相手との相乗効果」
 だったりする。
 最近、陰陽師は、その相手を、例の
「スパイの養成を行っている人」
 ということであった。
 鈴村を見た時、その人とのかかわりを感じたのだった。
「最近の、スパイの先生は、会っていないな」
 と、陰陽師は思っていたが、その男は、スパイから抜け出して、隠れているのだった。
 その理由は、正直、今の仕事が怖くなったというのと、この仕事をしている間、国家に対しては、絶対服従であった。
「抜けたい」
 などというのは、御法度で、逃げ出すとしても、どこに逃げていいのか分からなかったが、実際に逃げてしまうと、追手がくるわけではなかった。
 ただ、
「もし、うっかり秘密を洩らしでもしたら、命はないからな」
 といって、脅してきたのだ。
 脅しを掛けられているわりには、簡単に抜けられた。
 もっとも、こんなことを他の人に話しても誰も信じてくれるわけもないし、自分にメリットがあるわけでもない。そうなると、黙っているだけでいいのなら、それに越したことはないわけで、政府もそんなことは分かっている。
 当然、政府は見張りは着けているだろうが、余計なことを言わない限り泳がせておくことにした。
 何も言わないのに、事を荒立てることはしないということだが、これもうっかり口を滑らさないとも限らないので、見張りは外すわけにはいかない。
 そんなこともあって、養成所の講師は、まんまと抜けることができた。その男が何をやっているのかということは、陰陽師も分かっている。
 しかし、会ったりすることはない。
 本当は、会って、その気持ちを聞いてみたいという意識はあるのだが、そこまでしなければいけない理由は、どこにもないではないか。
 そんなことを考えていると、
「陰陽師と、鈴村という男、講師の男を、それぞれに別の意味で知っているのではないだろうか?」
 ということを、誰が気づくのだろうか?
 陰陽師か、それとも。鈴村という男のどちらかが気づいて、そして、相手がそれを証明してくれるような気がした。
作品名:連鎖の結末 作家名:森本晃次