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連鎖の結末

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 というと、
「あなたもその一人なんでしょうが、意識としてはかなり残っていた。だから今私が指摘すると、すぐに思い出したでしょう?」
 と言われたが、
「すぐにというか、少し時間が掛かった気がします」
 というと、
「いやいや、そんなことはないですよ。ご自分の意識が少し遠のいてしまっているということなのかも知れません」
 という。
「ところで、人柱ということは、あのあたりで、昔大きな工事でもあったということでしょうか?」
 と聞くと、
「あそこには城下町がありました。今も城址は、公園となって残っています。きっと、意識しないまま、ずっと歩いているんはないですか?」
「そうかも知れません」
「ところで、城を作る時、城の工事をした一般の人間、特に現場監督のような人は、生きて帰れないというような話を聞いたことがありませんか?」
 と言われ、
「いいえ」
 と答えると、
「昔の城というのは、敵に攻められた時、逃げ出せるように、隠し扉などを作って、その奥に抜け穴があったりしたんですよ。かなり城から遠くの祠の近くの井戸に出てくるようなね。そういう仕掛けを作らせておいたので、その作った人間の口から情報が洩れると、せっかく作った意味がなくなってしまう。だから、作った人間をねぎらうという理由で、宴会などを開いておいて、そこで毒を盛るなどという話は、よく聞きますね」
 というではないか。
 なるほど、そういうことは言われてみれば分かる気がする。忍者屋敷の、どんでん返しのような扉は印象が深く。床の間などの掛け軸の後ろがそんな回転ドアのような仕掛けになっていることは、忍者屋敷などでよく見かける仕掛けだった。
 忍者屋敷ではよく聞くが、お城の話はあまり聞いたことがなかった。だが、考えてみれば、それも当然のこと。城に火を掛けられると逃げられない。
 ただ、落城に至っているのに、殿様が逃げ出してどうなるというものか。
「どうせどこに逃げても、見つかって、首を切られ、そして、どこかに晒される運命なんだ。だったら、ここで業火に塗れて、首が見つからない方が、まだマシではないか。襲ってきた連中に一泡吹かせるという意味では、ここでこのまま討ち死にする方がいいのではないだろうか?
 ただ、結果はそうなるのかも知れないが、そうなると、作ったとしても、利用されることはない可能性が出てくる。そうなると、殺された人はそれこそ犬死ではないか?
 とも考えたが、
「ひょっとすると、その抜け穴を作った人を殺しておいて、その人を人柱に使ったのでは?」
 と聞いたが、
「死んだ人間を人柱には使わないのではないか? 人柱はあくまでも、生き埋めだと言われているではないか?」
 ということを思い出した。
 そのことを陰陽師も分かったようで。
「そうなんですよ。生き埋めにする人柱では、毒殺した相手を埋めるということは理屈に合わなくなる。逆に怨念となって、呪われるということになりかねない。人柱は人柱として、最初から決められた人をお祓いして、そして人柱として葬らないと、それこそ、怨念になってしまう」
 というのであった。
「そんな、生き埋めのような一番むごい殺し方で、正当化させようなんて……」
 というと、
「そうなんですよ。だから、問題なんですよ」
 というではないか。
「どうして?」
「だって、人柱は、本当はこれ以上ないというほどむごいのに、どうして怨念という発想にいならないのかというと、それは、彼が洗礼を受けているからなんですよね? そこに宗教がらみの恐ろしい言い伝えのようなものがある。人柱になる人間は決して人間を呪ってはいけない。呪えば人柱になる理由がないからですね。それでも人柱は必要なんですよ。だから、それを正当化させるために、生き埋めで行うということにしておいて、実際には、一度葬っておいた人間を死体になってから、人柱に使うということにするため、陰で厳重なお祓いが必要になってくる。それが我々陰陽師なんですよ」
 というではないか?
 そんな話を聞いたあとで、鈴村はよく分からないと思いながらその場を後にし、そしてそこに入れ替わるようにして入ってきたのが石橋だった。彼は、鈴村よりも、何のことだから分からないという雰囲気だった。ただ、
「自分のまわりで、よく分からないことが起こっていて、それが何なのか不安ではあったのだ。

                 大団円

 石橋は、街の状況を落ち着いて、し,かも客観的に話すことができた。それを聞いた陰陽師は、
「先ほどの男よりも、理解力のある男のようだわい」
 と思ったようである。
 その予想はズバリ的中していて、ただ、訳が分かっていないだけだということも分かった。
 ただ、陰陽師の方とすれば、客観的な話を聞きたいのだ。下手に理屈が分かっていると、自分の主観で話をし始め、話に抑揚ができてしまう。陰陽師のような商売に、余計な感情は不要なのだった。
 その感情というのも、程度を考えるという意味では、必要な時もある。
 状況は分かっていても、大きさやその範囲が漠然としていては、ダメだという時、相手の感情のブレや、その距離が分からないと、いかに陰陽師でも、的確なアドバイスはできない。
 つまり、陰陽師といっても、判断する力と、アドバイスを与える側の主観的な感情が表に出てこないと、アドバイスにはならないということだ。
 鈴村の場合もアドバイスらしいものは与えたが、果たしてあの鈴村で理解できるかどうか、疑問であった。
「ところで、石橋さんは、他の街でも、いろいろな連鎖反応が巻き起こっているのをご存じかな?」
 と言われて、
「よくは知りませんが、自分の街で起こっているのだから、他で起こっていても無理もないとは思います。原因が、パンデミックから、今回の戦争に至る、不可思議な連鎖から来ているのだとすれば、それを解消するのは、至難の業かと思っています」
 と、
「よく分かっていない」
 といっているわりには、主観としての意見もちゃんと持っているようだ。
 それを最初から表に出すのではなく、ゆっくりと小出しにしていくところなど、いかにも相手のことを思いやっている態度に思えて、陰陽師は好感が持てたのだ。
 陰陽師はそのうちに、この石橋という男と話をするのが楽しくなってきた。
 仕事上は、こちらが優勢であるのに違いはないが、実際には、腹を割って話せる相手がいれば、それに越したことはない。
 そう思うと、石橋と、先ほどの鈴村とを思わず重ねて見てしまっていることに気づいたのだった。
 鈴村という男、決して悪い男ではないが、どうも、相手を疑ってかかるところがあるようだ。
 主観的に話すくせに、こちらを決して受け入れようとしない、頑なな態度が見て取れるようで、そんな様子に、陰陽師も、いささか、ウンザリしたところがあった。
 要するに、
「この男も、その他大勢だ」
 ということだった。
 だが、
「この男は少し違う」
 と思わせたのが、石橋だった。
 冷静そうに見えるが、しっかりと相手との距離を保っていて、相手に近寄らせたいという気持ちを起こさせる力を持っているようで、それに気づいた陰陽師も、
「ハッ」
 と我に返ったくらいだった。
作品名:連鎖の結末 作家名:森本晃次