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連鎖の結末

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 それでも、結局、事件は曖昧になり、あれから約30年、覚えている人もほとんどいないというくらいの事件として風化されていたのである。
 今回のサイバーテロも時代が違っていることで、当然やり方も違うのだが、
「相当悪質だ」
 という点と、
「複数の企業を狙っているように見える」
 という点から、その時の事件を思い出す人も少なくはないだろう。
 ただ、何しろ30年以上も前のことなので、警察にも政府にも、その当時のノウハウや、詳しいことを知る人間がいないというのも事実である。
 それを思うと、今回の事件をいかに考えるかというのは、非常に難しい問題であった。
 石橋ももちろん、小さい頃のことだったので、テレビなどの特番で、
「過去の未解決事件」
 などというドキュメンタリーでしか知らない事件だった。
 当然、その時がどのようなパニックが起こったのかということも分かるはずもなく、ただ漠然と、
「歴史上の重大事件の一つ」
 というだけのことである。
 そういう意味では、事件として、記憶に残り始めたというのであれば、それから十年くらいが経ってから起こった、宗教団体による、
「国家転覆計画」
 ともいえる事件であった。
「地下鉄の中で、毒薬を撒く」
 という、まさに、無差別テロを、帝都のど真ん中で決行するのだから、相当にショックな事件であったことは間違いないだろう。
 そんな事件が発生した中で、宗教団体による、
「警察の追及を他にそらす」
 という目的と、どうもそのほかに、
「世間に対しての私的な恨み」
 による犯行だった可能性が高い。
 やっていることは、
「国家反逆」
 に近いのだが、本当にそうだったのかというのは、疑わしいところだった。
 しかも、その、
「私的」
 という部分には、教祖本人の孤児的な恨みであった可能性が高い。
 教団の頭脳集団と言われた連中がそのことに気づかないほど、教祖による洗脳はすごかったに違いない。
「ポアする」
 などという言葉が流行ったのはこの頃で、邪魔になる人間を抹殺するということのようだったが、この事件は、世界にも類を見ない。首都に対して行われた、無差別テロということで、全世界でも注目されたことは、疑う余地のないことであった。
 そんな国家反逆の首謀者は、そのほとんどが逮捕され、実行犯などを中心に、死刑が執行された。
 この事件は、学生時代くらいのことだったので鮮明に覚えているが、そこから十年前の事件は、
「未解決事件」
 となったことで、昭和の未解決事件の一つとなった。
 保健所の職員に化けて、
「近くで食中毒が蔓延しているので、解毒剤を前もって飲んでおくように」
 というような形で、職員に毒を飲ませ、まんまと金を奪った極悪非道な事件。
 さらには、殺害された人は一人もいないが、当時の三億という大金を、現金輸送車から奪うという鮮やかな手口を見せたう、
「三億円強奪事件」
 と並び立つ、
「三大未解決事件」
 といってもいいだろう。
 確かこの時も死者はいなかったのではなかったか?
 それでも、
「三億円強奪事件」
 とはわけが違う。
 偶然死者がいなかったというだけで、実際に食品に毒を混入していたのは事実だし、誘拐事件も、営利誘拐というれっきとした凶悪犯罪であることに変わりはない。人が死んでいないというのは、ただの、
「結果論」
 でしかないのである。
 そんな状況において、昭和、平成と比べ、今は、コンピュータが発達してきている。
 宗教団体による、
「国家的テロ」
 があった時ですら、まだ初期の携帯電話が、一般人に普及していなかった時代であり、やっと、コンピューターで、マウスなるものが出てきたくらいの時期であった。
 記憶媒体も、主流派まだフロッピーであり、今はほとんど見たこともないフロッピーというのも、実に不思議な感覚だ。
 それだけ、コンピューターの普及や発展が目まぐるしかったということだろうが、今のように、
「スマホがない生活なんて、考えられない」
 という時代がくるなど、その頃は想像もできなかったことだろう。
 今のようなかなり譲歩が溢れた時代は、戦争が起こっても、
「情報戦」
 などというものが繰り広げられるようになってきた。
 30年くらい前にあった戦争は、
「まるでテレビゲームを見ているようだ」
 と言われるようなもので、ハイテク兵器と言われるものが、どんどん開発され、巡航ミサイル、迎撃ミサイル、地対空ミサイルなどの整備もされてきて、
「制空権を取れば、ほぼ戦争は勝ち」
 とまで言われていた時代だった。
 下手をすれば、ハイテク後進国が使用している戦闘機などは、かなり旧式のものが多かったりすると、飛び立つことすらできず、敵の妨害電波などによって、めくら状態にされるというのも、実際にあったようだ。
 今では、実際の戦争が起こる前など、外交交渉と並行して、いろいろな情報を世界に発信し、自国の正当性を訴えたりして、自国に国際社会を優位に引っ張り込もうという作戦を取ったりしている。
 敵対国は、主義主張で対立している国であれば、国際社会の対立国が、支援してくれたりもするだろう、被害状況などをネットで配信することで、その惨状が全世界で把握することを容易にするのであった。
 今のそんな世の中における戦争は、そうやって、相手国に揺さぶりを掛けたり、援助を期待するのに、わざわざ外国に出向いていかなくても、リモートでもできるわけである。
 そんな世界規模の戦争の話でなくとも、一つの企業間での静かな戦争も、、情報戦を呈している。
 昔でいうところの、
「特務機関」
 世界的には、諜報活動を行うスパイというのがいるが、世界各国に潜んでいたりするのだ。
 石橋の暮らしているこの、
「ハイテクメーカーの乱立する街」
 にも、スパイが、暗躍しているのだ。
 一つの企業に、一人とは限らない。お互いに、さすが、
「餅は餅屋」
 といわれるだけのことはあり、どこのスパイか分からないが、スパイが潜入していることは、その佇まいなどで分かるというものだ。
 お互いに利害に関しては一致していなくても、騒ぎ立てるわけにはいかない。
 自分たちだってスパイ活動をしているのだから、他のスパイの摘発は、自分の行動を制限するも同じではないか。
 自分のところの会社にも、数人が入り込んでいるようなので、他の会社にも入り込んでいることだろう。
 何をしているのか分からないが、何かあった時に、情報戦を仕掛けるために、今から、内部の操作をリモートでできるような細工をしているのか、それとも、普通に、昔でいうところの、
「産業スパイ」
 のような、同業者からの、情報収集ということではないだろうか。
 それこそ、本当の意味のスパイだといえるのではないだろうか・
「あの人もスパイかも知れない」
 と思って見てしまうと、その人の近くにいる人も皆スパイに思えてくる。
「見知っている顔の、話だってしたことがあるはずの人なのに?」
 と思うと、人が信じられなくなるような、疑心暗鬼に陥ってしまうのではないだろうか?
 そういう現象を、
「カプグラ小工具」
 というのだという。
作品名:連鎖の結末 作家名:森本晃次