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連鎖の結末

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 と答えたのを聞いた母親は、それ以上何も触れなかった。
 今から思えば、母親にとって、分かっていようが分かるまいが、答えは一つしかないと思っていたのだろう。分かっていて聞いたのは、子供の自分が、そのことについて考えようするかどうかだったと思う。
 考えようとしなかった場合は、自分でも苛められる理由について心当たりがあるからではないかと思ったのだろう。
 考えようとしているのを見て、心当たりがないことが分かり、ただ、それは母親を安心させるものではなく、そのことを今まで考えようとしなかった子供にも問題があると思ったに違いない。だから、何も言わなかったのは、
「どうせ、今は言っても同じだ」
 ということと、
「これからは、この子は、あまり深く物事を考える方ではないということを覚悟してみていかなければいけないということだわ」
 ということを考えているのだと思うのだった。
 いじめられっ子というのがどういうものか、どうやら母親は分かっていたようだ。
 性格的に、男みたいなところがある母親は、よく鈴村が子供の頃、まだいじめが始まる前のことであるが、
「昔は苛めなんてなかったって聞いたことがあるわ。もしあっても、すぐに仲良くなったんだって、そんな時代があったというのが昔だったのよね」
 といっていた。
 もちろん、まさか自分の子供が苛めに遭うなど思ってもいなかったからなのだろうが、なぜそこまで、自分の息子が苛めに遭うことはないという思いがあったのだろうか?
 今だったら、苛めっ子でなければ、一度くらいは、苛めに遭ったとしても、不思議のない世の中なのだから、何を根拠にそこまで感じたのか分からない。
 鈴村は、苛めをするタイプでは絶対になかった。それだけに、苛めっ子がどういうもので、いじめられっ子っがどういうものなのか、分からなかったのだろう。
 鈴村が苛められるようになったのは、途中からだった。
 三人目くらいだったのではないだろうか。
 急にクラスで一人が苛められるようになり、その頃はまったくの他人事で、気にもしていなかったが、そのうちに、今度は違う子が苛められるようになっていた。
 つまりは、クラスの中で、
「苛めの連鎖反応が生まれた」
 ということであった。
 苛めるメンバーが変わったというわけではない。完全にターゲットが変わったのだ。
 これは、
「苛めたい相手が新たに表れた」
 ということで、自然と今苛めていた子から、そっちに流れたのか、それとも、
「苛めていた子を苛めることに飽きたので、必然的にターゲットを探したということなのか?」
 ハッキリとは分からなかったが、前者ではないかと思っている。
 そのせいで、2人目が苛められるのを見ると、急に鈴村は怖くなってきたのだ。
「次は僕かも知れない」
 という思いであり、そこには何ら根拠のようなものはなかった。
 しかし、自分がそう思った瞬間、次のターゲットは自分に決まっていたのではないかと思うのは、他の子が苛められている時に、苛めている連中が、鈴村を見る視線だった。
 よそ見をしているように見せかけて、明らかに鈴村の方を見つめていた。それを分かっているのか、意識して見ていると、連中が、何やらほくそえんでいるように思えた。
 それは、
「今度はお前だ」
 という予告のような感じがして、ゾッとするその感覚は、
「苛めというものが、連鎖によるものだ」
 ということを示しているような気がしたのだった。
 そんな苛めを受けていた自分が、ある日、急に苛めを受けなくなると、
「苛めていた連中の気持ちが分かる気がするな」
 と思えてきた。
 特に、
「お前最近変わったな。もう苛めはしないから、安心しろ」
 と面と向かって言われたりすると、急に自分が偉くなったような錯覚に陥ったりする。
 別に偉くなったわけでもないのだが、苛めていた本人から、
「変わったから苛めない」
 と言われたのだから、成長したのは間違いないと思うのだった。
 あくまでも、
「苛めをしない」
 と言われただけで、成長したなどと一言も言っていないのに、そう思うのだから、自分がどれほど自惚れが強いのかということが、次第に分かってくる。
「ひょっとして、この自惚れだったのか?」
 とも感じるようになった。
 確かに、以前は自惚れが強かったような気がする。しかも、その強さは、まわりにも分かるものだっただろう。自分で自惚れだと感じ始めたのは、苛めがなくなる少し前だった。
 ただ、その頃には他にも分かるようになったことがあった、一番大きいのは、
「自分が他の人と同じでは嫌だ」
 と感じたことだ。
 それまでは、そんなことを感じないままに、ただ、まわりにさからっていたような気がする。この思いも、苛めに繋がっていたのかも知れない。
 ただ、他人と同じでは嫌だということに気づいただけで、そもそもの気持ちは変わっていない。
「ひょっとすると、自覚もなしに感じていることが、まわりに対して予期せぬ不快な思いを与えていたのかも知れない」
 と感じた。
 どうやらこの思いは強いようで、自分を苛めていた人から、
「俺は、素直なやつが好きなんだ。自分の気持ちを内に籠めようとしていて、それが、鼻につくと、我慢ができなくなるんだ。だから、苛めっ子になんかなったんだろうな」
 といって笑っていた。
「苛めって、どうしても、していないといけないというわけじゃないんだ。いじめっ子だって、本当はこんなことはしたくないんだが、どうしても鼻につくやつがいると、我慢ができなくなる」
 といって、実際に悩んでいるようだった。
「そうなんだ」
 といって、共感すると、
「だって、苛めなんて、する方にメリットなんかないんだぞ。好きで人を苛めるわけないじゃないか。だけど、苛めていないと、どうしようもなかったりするんだよ。例えば、家に帰ると、親からは迫害を受けたりしてね」
 という。
「だけど、それって、言い方は悪いけど、八つ当たりなんじゃあ?」
 というと、一瞬そいつは、ムッとした表情になったが、
「まあ、そうだな。苛められるやつには関係ないわけだからな。しかも、苛めの連鎖というか、苛められたから、苛め返すなんていうのは、同じ相手に返すなら分かるが、違う相手に返してしまうと、永遠に終わらない気がするのは、分かっているつもりなんだ。それでも辞められないのは、本人にとっても、辛いところなんだよ」
 というのだった。
「うーん、どうも、弱い者苛めの連鎖のような気がして仕方がないな。いじめっ子のお父さんだって、ひょっとすると、会社で苛めのような目に合っているのかも知れないし、苛めた相手が、今度はさらに弱い奴を苛めているのかも知れない」
 というと、ふと、鈴村は自分の父親を思い出した。
 まだ、ホームレスになる前の父親だったが、あの頃は、よく酔っぱらって帰宅していたものだった。
 そのたびに、上司の悪口を言っていたが、子供には、どうしてそんなことになるのか、分からなかった。
作品名:連鎖の結末 作家名:森本晃次