小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

マイナスとマイナスの交わり

INDEX|17ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

「好きになれそうな気がする」
 というところまで来ていたとしても、実際にはすでに相手、つまりみゆきの考えは決まっているということだ。
 せっかく好きになってもらえそうなのに、みゆきの中では勘違いをしている。
 本当であれば、もっとゆっくり考えるだけの時間があるにも関わらず、敗者復活戦の余地すら残さず、勝手に決めてしまうのだ。
 それを、みゆきは、
「女性なんだから、それは仕方がない」
 と思っていた。
 何も、女性皆がそんな考えを持っているわけではない。
 確かに、そういう考えの人は多いのだろうが、誰もがどんでん返しを許さないというような考えを持っているわけではないだろう。
 だから、男から言わせると、
「女は、相手の気持ちを考える暇がないほど、まずは自分の中で解決させてしまい、そこでいらないと思うと、復活の余地をまったく残さずに、自分だけが、ステージから降りてしまう」
 ということである。
 ステージから降りられた男は、まだ何も始まっていないのに、簡単に引き下がってしまった女を見て、何が起こったのか分からないと思うのも道理であろう。
「何も始まっていないのに、勝手に終わらせるなんて、歯車が噛み合っていないなんて言葉を超越しているような行動」
 だと思えてならない。
 なるほど、これなら、男女の仲が難しいと言われるのも当たり前のことである。ここまで距離があるのなら、成田離婚などというのが、流行ったとしても、無理もないことだろう。
 成田離婚どころか、下手をすれば、結婚式を放棄して、どこかに消えてしまわれて、どちらかが取り残されてしまうということが起こったとしても、それはそれで無理もないことに違いない。
 そんなみゆきであったが、野球場での会話の後、みゆきが何を考えているかなど知る由もない三枝は、野球場を出て帰り道で、
「また、今度会っていただけますか?」
 と思い切って声を掛けた。
 いつもだったら、躊躇したまま、結局声を掛けられずに終わるのだが、その日のみゆきとの会話は結構楽しかったのだ。
 しかも、野球場での出会いなどという、普段からあまり考えられないところでの出会いに、少し興奮気味だったのもウソではない。だから思い切って声を掛けてみたのだが、みゆきとしては、躊躇したつもりだったのだろうが、三枝の考えていた。、
「躊躇」
 というものよりも、はるかに軽いものだっただけに、
「彼女が、快く承知してくれた」
 と思い込んだのだ。
 ここですでにお互いの気持ちが行き違っているのに、それをお互いに気づくことなく、素直な会話ができたことを、二人とも喜んでいた。
 しかし、やはりすぐに我に返ったのは、みゆきの方であり、我に返ったことで、自分が、三枝という人物に対して、自分なりに、審議をしていたことに気が付いた。
 そんな時、誘いを掛けてきた三枝に対して、さらに評価の基準が変わる問いかけがあったかのように思えたのだ。
 これは、みゆきにとって、
「マイナスのイメージ」
 を意味していた。
「軽い男だ」
 というイメージを植え付けたのだ。
 本当は軽いわけでもなんでもないのに、そう思わせたのは、みゆきの発想が、加算法ではなく、減算法となっていたからである。
 加算法というのは、ゼロから、組み立てていくもので、マイナスがあれば、当然、減点されていき、ゼロになると、そこから先はないというだけで、
「またゼロからの出発」
 というところに戻ってくることになるのだ。
 減算法は、加算法と違い、
「必ず減算しかない」
 つまり、100点から80点になって、急に格上げしそうなことを見つけても、80点から上がることはない。ただ、減算されないというだけのことであった。
 不公平といえば不公平なのだが、減算法、加算法には、それぞれに一長一短の問題があるのだ。
 加算法でいけば、上ばかり見るわけではなく、下に下がる可能性もあることから、下を見ると恐ろしく感じられる。
 そんな時に思うのが、野球での打率の考え方だった。
 打数が少ないと、ヒット一本打てば、打率が一気に上がる。しかし、打てないと、打率は下降してしまうのだ。しかも、打数が少ない間に打率が悪い時も同じ状況なのに、打率がいい場合は、今度は、ヒット一本では、そんなに打率が上がらない。しかし、打てなければ、一気に下がる可能性がある。
 つまりは、打数が増えていけばいくほど、一本のヒットが、率に大きな影響を及ぼすことはないが、リーグ戦終盤になり、首位打者を争っていると、ヒット一本で打率の浮き沈みが顕著になる。率の差よりも、
「残りを何打数何安打でいけば、相手が、これくらいでいくだろうから、首位打者が取れる」
 などという計算をするようになった時、意外と、ヒット一本が大きな影響を与えることに気づくのだ。
 もちろん、フォアボールなどを選んで、打数を増やさないという手もあるが、フォアボールいくつか出した状況で、ヒット一本と同じというくらいのもので、やはり、ヒット一本が大きな意味を持ってくる。
 ホームランや打点などは、増えることはあるが、減ることはない。出れば出るほど確率は高くなるというわけで、打率は完全に相手との駆け引きが難しく、気にしすぎることで、却って、プレッシャーになったりするだろう。
 打者でいえば、首位打者がその問題で、投手でいえば、防御率ということになるだろう。打率も防御率もそれぞれに、規定投球回数、規定打席数というものがあり、それを下回ると、土俵にすら挙げてもらえないということになる。つまりは、分母には最低数が決まっているというわけである。
 そんな二人だったが、それから、何度かデートを重ねた。
 三枝の方は、
「そろそろ、彼女との距離も縮まってきたし、俺の方も、彼女に対して好意を抱いてくるようになったので、これで付き合っているということは、暗黙の了解だと思っていいのかな?」
 と感じていた。
 しかし、では、みゆきの方はどうであろう? 彼女の方は、最初から乗り気ではなく、付き合うということに関しては、ずっと、難色を示していたということになる。だから、どうしてデートを重ねるというのか、考えられることとすれば、2つであろうか?
 一つは、
「友達としてであれば、普通につき合える」
 ということを考えているのだとすれば、三枝が、デートだと思っていることも、相手からすれば、友達と出かけたというだけのつもりでいる可能性はある。そうなると、もし、彼女が思わせぶりな態度でも取れば、三枝は、気持ちの中で盛り上がってしまうだろう。これほど、タイミングの悪いことはないというものだ。
 もう一つとすれば、みゆきが、最初から好きになるということはないだろうと思いながらも、
「ひょっとすると、一緒にいる間に、気持ちが変わってくるかも知れない」
 という一縷の望みのようなものがあったからなのかも知れない。
 そうなると、もし、そのまま彼女が、一度も、三枝のことを好きになることがなければ、みゆきの中の三枝に対しての思いは、頑なに閉ざされることになるだろう。
「もう、彼を好きになるなんてありえない。この時間を無駄に過ごしてしまったかも知れないわね」