小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

マイナスとマイナスの交わり

INDEX|14ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

 それを未練とでもいえばいいのか、それとも、
「最後の砦」
 いや、言い方を変えれば、
「保険を掛けている」
 ということになるのかも知れない。
 後出しじゃんけんの状況が造り上げられているといっても過言ではないだろう。
 だからみゆきは、自分の考えが、決して相手に漏れないように行動していた。
 しかし、そんな中で、相手はまだまだ有頂天の中にいるのだ。それなのに、自分だけが勝手に先に進んでしまい。相手を置いてけぼりにしてもいいのだろうか?
 それが、結果として、自分だけが苦しむことになり、最期には、腹を決めた自分が、相手の梯子を外すことで、自分に近づけないようにするという、誰が見ても、
「卑怯だ」
 と思わせる戦法を用いているように思われるのが癪だったのだ。
 そんな時、自分の中では、
「仕方のないことなんだ」
 と思いながらも、周りの目は、
「なんて卑怯な女なんだ」
 と、自分が知らない相手まで自分をそんな風に見て、まるで、敵を見ているかのような挑戦的な目を自分に向けているように思えてならなかった。
 特に数年前まであった、
「表に出る時や、人と接する時は、必ずマスクをしないといけないという習慣」
 の時には、顔全体が分からない。
 表情が分からないだけに、卑怯だと思われていても、そこまで露骨には思えないのが普通なのだが、卑怯だと思われているという自覚があるみゆきにとっては、まわりの目だけで、どのようなものすごい形相をされているのかということが、分かるような気がして、ゾッとしていたのだった。
 では、相手の三枝の方はどうだろう?
 確かに、みゆきが心の中で、
「この人はないかも知れない」
 と思っていることを知る由もなく、
「女の子と知り合えた」
 ということだけで、有頂天になっていた。
 実際に、普通に女の子と知り合うことは、ほとんどなかった。自分では、
「きっかけがないからだ」
 と思っていたが、要するに積極性に欠けるからではないのだろうか?
 もっと積極的に前に進むことを考えれば、相手のことを好きになることなど、何ら問題ではないからだった。
 そんなことは分かっているつもりだった。だが、一歩を踏み出すことができないのだ。
「ひょっとすると、最初が、風俗のお姉さんだったからではないか?」
 とも思ったが、それは言い訳であり、彼女たちは、ただ、三枝が女性に対して、男性としてどのように振る舞えばいいかということを、教えてくれたのだ。
 ただ、それが、風俗嬢の考え方だという勝手な偏見を持っていたのは、三枝の方で、それは、関係が、
「身体の関係」
 から生まれたことを、
「不純だ」
 と思ったからなのかも知れない。
 しかし、実際には、身体の関係から入るカップルだっている。中には、会社の飲み会で、男の方が潰れてしまい。その男性に密かに恋心を抱いていた彼女が、積極的に介抱したことで、
「そのまま体の関係に……」
 ということだってあるかも知れない。
 テレビドラマなどの設定でありがちな気がするが、結構多いのかも知れない。しかも、彼の方も彼女に対して、少なからずの好意を持っていたとすれば、そこから一気に、両想いになるということだって十分にある。
 それは、果たして、
「順番が逆だ」
 などと言えるだろうか?
 そもそも、
「順番って何なのだろうか?」
 お互いに話をするようになって、相手を意識して、一緒にいたいと思い、一緒にいる時間が増えてくるにしたがって、身体の関係に発展してくる……。
 これは、王道でオーソドックスな流れなのだろうが、
「そうでなければいけない」
 というほど、恋愛というのは、教科書に従ってするものなのだろうか?
 いや、身体の関係から入る恋愛だって、別に邪道ではない。下手に王道の恋愛で、お互いにいいところばかりが見えているので、
「結婚するなら、この人しかいない」
 とお互いに一気にそう思い、間髪入れずに結婚までまっしぐらだった場合、その結末が、
「成田離婚だった」
 ということもえてしてあるだろう。
 なぜなら、付き合っている時は、お互いのいいところしか見えていなかったからだ。
「この人だったら、大丈夫だ」
 と思い、まさかと思うが、
「この人との相性がバッチリだから、自分にとって悪いところなど一切ないんだ」
 などという思いが強かったのだとすると、新婚旅行で、初めて一緒にずっと行動してみると、ちょっとしたことで、相性のずれが感じられることもあるだろう。
 本当にちょっとしたことなのかも知れない。
 自分は朝、洋食派なのに、男は和食を好むだとか、それまでまったくなかった針の穴を見つけてしまうのだ。
 針の孔というのは、ちょっとしたほころびから、気づけば、大きなほころびへと変わっていってしまう。それが、疑心暗鬼に繋がり、相手との、
「初めてのスレ違い」
 となるのではないだろうか?
 ただ、まだほとんど恋愛経験のない三枝に、今日会って、ちょっと話をしただけのみゆきという女性の存在は、どこまで行っても新鮮な女性だという印象が、深まっていくだろうとしか思えなかったのだ。
 みゆきは、学生時代に、何度も恋愛をしている。中には、結婚を考えた熱愛の相手もいれば、どうにもならない、クソのような男もいた。
 覚えているのは、結婚を真剣に考えた男の方ではなく、クソのような男であった。
 熱愛だった男性は、あくまでも、みゆきの方が惚れていて、結果的に、プレイボーイだった男に、いいように、それこそ都合よく使われていただけのような、
「何番目か分からない」
 というそんな女だったのだ。
 別れてみれば、
「あんな男、思い出したくもない」
 というほどの男で、どちらかというと、クズはその男の方だった。
 最初からクズだと思っていたその男とは、熱愛が最悪の形で終わってから、その傷も癒えない中で出会った男だったのだが、その男は、パッとしない男だった。
 何をするにも、女に頼ってきて、甘えようとする。
「甘えれば何とかしてくれるとでも思っているのかしら?」
 と思って、寄ってくるその男を、まるで野良犬を追っ払うように、
「しっ、しっ」
 という感じで追い払おうとしているのに、その男は、こっちの気持ちを知ってか知らずか、まったく気にしていないように、構ってくれるのを、素直に喜んでいるようだった。
 そうなのだ。この男は、素直なのだ。相手は反応してくれると、それがどんな態度であれ、嬉しいのだ。純真無垢といえばそれまでなのだが、
「本当にバカなんじゃない?」
 と思うほどなのに、どうしても、放っておくわけにはいかなかった。
 本当に何もできない男で、女の自分が何とかしてあげなければ、すぐに野垂れ死んでしまうと思えるほどに、
「何もできない男」
 だったのだ。
 その時感じた。
 子供がよく、野良犬を拾ってきて、家で飼いたいといって、連れて帰ると、親から、
「何、その汚い犬は。飼えるわけないでしょう? 早くそんな蒸すぼらしい犬、どこかに捨ててきないさ」
 と、まず100人のうち、99人の親は同じことをいうであろう。
 自分が大人になると分かってきたが、本当に野良犬は野良犬でしかないのだ。