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秘密は墓場まで

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「この男の真の目的は何なのだろう? 最初から金だけが目的ではないと思っていたのだが」
 と考えたが、
「今までにも、交換殺人の実績はあるんですか?」
 と聞くと、
「まあ、あるといっておきましょう。何しろ警察も見破れないものだから、ここで暴露しても分かりっこないからですね」
 と男はいう。
 この男が何かの目的を持っているとしても、その目的のせいで、明美の大願が成就できなければ意味がない。ここまで余裕しゃくしゃくで話すということは当然、自信があるに違いない。
 この日、この男と別れてから、後は何度か、ホテルに呼ばれた。
 最初は、殺してほしい娘のつむぎのことばかり聞かれた。
「あなたは、何でも知っているんだから、私に帰化かくても分かるんじゃないの?」
 と少しいじわるっぽく聞くと、
「そりゃあ、表から見ている分には分かるさ。だけど、問題は母親から見てどうかということが知りたいのさ。何しろ、殺したいくらいの相手なんだからね」
 と、こちらも、ズバッと言い切った。
「殺したいといっても、本当に殺したいわけじゃない。浪費癖がなくなって、いい子になってくれれば、私だってこんなことを考えたりはしないのよ」
 というと、
「そりゃあ、そうさ。向こうだって、同じことを思っているさ。でも、今はいくら、尊厳殺人がなくなったとはいえ、どうしても、家族を殺害するということは、よほどのことだという発想が残っているものでね。昔は、肉親を殺せば、その罪はかなり重かったのさ。下手をすれば、無期懲役か、死刑かの二択だったんだからな」
 と男がいう。
 最初に男から話を聞かされてから、一か月が経った頃には、明美の方でも計画にすっかり乗り気になっていて、
「娘が死ぬ」
 ということに対して、それほど、罪悪感を感じないようになっていた。
「そもそも、あの子が悪いんだ」
 ということであり、覚悟というよりも、当たり前のことだと自分に言い聞かせていたのだった。
 もちろん、こんなことは旦那も知るはずがない。自分と、この男との間で、進行していることだった。
 ただ、この男の正体を知ることは許されなかった。
「それでもいいなら」
 という条件でお願いしたのだ。
 この男も、自分からリスクに自ら入っていこうというのだから、彼なりの計画があるに違いない。
「それが、今回の計画のウィンウィンなことなのだろう」
 と、明美は勝手に思い込んでいた。
 ただ、もう一つ気になるのは、もう一人の相手、父親に犯され、いまだに蹂躙されているという女の子は、今、18歳だという。今だと、18歳というと成人だが、本来なら、まだ高校3年生ではないか。
 もっとも、中学時代に初めて犯されたというのだから、その時のショックは想像を絶するものに違いない。
 そんな女の子でも、殺人に絡むというのは、相当な勇気がいるだろう? 40歳を半ばに差し掛かった自分でも、まだ心が揺れているというのだ。だが、こういうことは年齢に関係があるというわけではない。年を取るほど臆病になってきたり、世の中が分かってくると、躊躇いの気持ちが出てくるのも、当たり前のことではないだろうか?
 それを考えると、いくら、仲介人である、あの男がいるからといって、この計画にはかなりの無理がある。
 しかも、あの男の正体も知るわけではなく、目的も分からない。確かに死んでもらいたい相手がお互いにいて。それぞれ、安全圏で絶対に捕まることがない方法があるということであれば、この計画に乗るのも、無理もないことではないだろうか?
 もちろん、今だけではなく、相手の女の子とも絶対に会うことはしないというのが、ルールである。もっとも、相手が誰なのか、あの男が教えてくれることもない。ただ、自分が殺すことになる相手に関係のある人間、今回はその娘ということが分かっているだけに、すべて分かっているといっても過言ではない。
 あくまでも計画を立てるのは、この男で、こちらは、ただの操り人形として動くだけだった。
 だから、いつ計画を実行するのか、そして、いつ、娘がこの世から消えてなくなるのか、詳しいことは一切知らされない、下手をすると、ある日突然に、警察からの電話で、
「お嬢さんが、お亡くなりになられました」
 といってかかってくるかも知れない。
 それが、自分が先に相手を殺すのか、後になるのかも分からない。今回はいくら相手が先に殺してくれたとしても、この男がいる限り、逃げることはできない。交換殺人に、
「立会人」
 と称する人間が介在するなど聞いたことがない。
 というよりも、交換殺人自体、テレビドラマでもない限りありえないことだと思っていたのだった。
 ある日、娘の死体が発見された。どうやら、相手が殺しをしてくれたようだ、これも予定通りのこと、あとは、自分がするだけだった。
 その方法も、すべて、男からの伝授済みであった。お互いにまったく知らない者同士が会うということで、そこに、また一人介在する人がいた、何とその人というのが、ホストだったのだ。
 見た目は確かに、金持ちの奥さんが好きになるタイプの男性で、爽やかそうに見える。しかし、明美は自分が風俗をやっているので、まったく気持ちが揺らぐことなどない。もっといえば、気持ち悪いと思うくらいだ。
「明美さんは、私のいう通りに動いてください。この件に関しては、元締めの方とお話は住んでいます」
 どうやら、話を持ってきた男は、自分たちの手下になるような人たちから、
「元締め」
 と呼ばれているようだ。
 そのホストクラブの男が、一人の女の子を連れてきた。その女の子が、父親を誘惑するというのだ。
 その時のシチュエーションは、いわゆる、
「美人局」
 のようなやり方で、父親を脅迫する。
「そんな、昭和のようなやり方で、大丈夫なんですか?」
 と聞くと、
「これくらいベタな方が、相手も心配にはならない。下手に小細工をすると、相手を不安いさせるので、却ってベタな脅しの方が、相手が考える隙を与えないという意味で、いいんですよ。元々昭和の時代のことなので、今の時代にあったら、逆に何されるか分からないと思うでしょう?」
 といって笑うのだった。
 そして、女がそれを聞いて、
「どうせ、死ぬんだから、何があったって、その男には別に関係ない。これはあくまでも、あなたが怪しまれないようにするための保険のようなものなのよ」
 というのだった。
 男も頷いていたが、少し渋い顔をしているようだった。
「そんなに、いろいろ言わなくてもいいだろう? お前はお喋りだ」
 といっているようにも思えた。
 ただ、気になったのは、この二人、どちらからどもなく、ぎこちなさを感じる。
「元締め」
 と言われた男が差し向けた。
「刺客」
 にしては、どうにもぎこちないという雰囲気だった。
 ホストとその客というのは、明らかな主従関係にあるのではないか? 基本的には、女が金を貢いで、そのうちに女の首が回らなくなって、ツケで呑んだりした分が借金となるパターンである。
 怖い兄ちゃんが出てくるか、それまで、ホストとして、まるで自分の召使いであるかのような奴隷扱いだったものが、お金のために立場がまったく変わってしまうのだ。
作品名:秘密は墓場まで 作家名:森本晃次