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秘密は墓場まで

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 なるほど、この男の言う通りである。一度思い立ったら、完遂してしまわないと、後悔が残ってしまって、それ以上は何もできなくなってしまう。
 そう思うと、この男のいっていることが、いちいち正しく思えてくるから不思議だった。
「私は催眠術にでもかかっているのだろうか?」
 と思ったが、男は笑って、今後のことをゆっくりと話し始めた。
 元々、この指名も、最初から、相手を明美だということが分かってのことだったということである。
 男が話すのは、旦那が、一人の女の子を、
「買った」
 というところから始まった。
 明美にとっては、聞きたくもない話ではあったが、男がいうには、
「ここから話さないと、始まらない」
 ということであった。
「その女の子というのは、父親から蹂躙されて、無理やりに犯されたようなんだ。その子は、父親に対して、いずれは殺してやりたいという思いを持っていて、その思いは、あなたが娘に思っている感情よりも、さらに深いものだと思うんだ。彼女は父親が生きている間は、自分に自由はなく、生きている心地がしないはずだからね」
 というのだ。
「私の今よりも、それは確かに深刻だわ。でも、このまま放っておくわけにはいかないということで、立場は同じなのではないかと思うんだけど、違うかしら?」
 というと、
「そうだよ。その通りだよ。だから程度の違いこそあれ、あなたたちは、同じ立場なんだよ。お互いに誰かに苦しめられていて、放っておくと、破滅しか待っていない。じゃあ、どうすればいいのかということなんだよね」
 というのを聞いて、
「交換殺人?」
 と明美がいうと、
「そう、その通り、交換殺人というのが、思い浮かんでくるよね? だけど、基本的に交換殺人というのは、不可能に近いんだよ。なぜなら、交換殺人というのは、まず大前提として、交換して殺人を行った人間同士が知り合いであるということを知られてはいけないということ、そうでないと、知り合いだということがバレたりすると、犯行が見破られる。交換殺人というのは、それが分かった時点で、すべてが瓦解するんですよ。たとえば、殺人方法で、密室であったり、アリバイトリックというのは、最初から分かっているものだけど、一人二役だったり、交換殺人というものは、それが捜査する側に分かってしまうと、犯人が特定される。特定されてしまうと、あとは、その裏付けとなるだけなので、これほど見破られやすいものはないというわけさ」
 という。
「確かにそうですね」
「それにね、交換殺人というのは、自分たちだけで相談すると、絶対に成立しないんだよ」
 と言われ、
「えっ? どういうことですか?」
 と聞くと、
「だって、交換殺人の意義というのは、一種のアリバイトリックなんですよ。つまり、犯人だと思われている人間に、絶対的なアリバイを作るためのものだから、当然ですよね? 計画した人間と実行犯が違っていて、この二人の関係性がないとするならば、それこそ、完璧な犯罪というものはないものだ。つまり、二人が同じタイミングで殺人を犯すということは不可能なんですよね? だって、自分が死んでほしいと思った相手が殺された時、完璧なアリバイがないといけないわけですからね」
「ええ、そうですね」
「だから、そうなると、必ず時間差が出てくるわけです。つまりは、あなたが殺す時と、相手が殺してくれる時ですよね?」
 と男がいうが、この男が一体なのを言いたいのか、明美には今のところ、見当もつかなかったのだ。
「まだ分かりませんか?」
 と言われ、考え込んでいたが、男もさすがに業を煮やしたのか、自分でどんどん話始めた。
「時間差があるということは、最初にたとえば、あなたが、あなたとはまったく関係のない相手を殺したとしますね? 相手にはその時、完璧なアリバイがあるわけです」
 と言われても、まだ明美はぴんと来ない。
 男は続ける。
「ということは、相手には完璧なアリバイができて、しかも、それは本当に殺人をしていないわけだから、相手にとっては、目的は達せられたことになるわけです」
 とここまで言われて、
「あっ」
 さすがにここまで聞けば、明美にも、この男が何を言いたいのか分かったのだ。
「どうやら分かったみたいですね?」
 と言われて、
「交換殺人というのは、もろ刃の剣なんですね。ここまでくれば、交換殺人は成り立たないことが分かってきました」
 と明美は言った。
「じゃあ、どういうことなんです?」
 というと、
「今度、殺人を請け負った方からすれば、ここで辞めるのが一番なんですよね。何も自分が相手を殺すリスクを負う必要はない。ここで終わらせれば、自分の完全犯罪で終わってしまう。何しろ完璧なアリバイがあるのだし、実行犯ではないのだからですね。しかも、交換殺人などということは、警察には言えない。もし言ったとしても、誰が信じるというのか、結局、自分は相手のために危ない橋を渡って、その場所で置き去りにされてしまっただけなのだから」
 という。
「そう、その通り。だから、完全犯罪などできるわけはない。こんな話をしたところで警察も信じてはくれないでしょうからね」
 と男は言った。
「じゃあ、どうして、こういう話を私に持ってきたんですか? あなたも、誰か死んでほしい人がいると?」
 と言われて、男はそれに答えず、
「私は、言い方を変えれば、善意の第三者ということになるんでしょうか? 交換殺人がうまくいかない一番の理由は、自分たちだけの思惑だけで動いているからで、極端な話、相手はどうでもいいんですよ。自分さえ問題なければね」
 と男はいう。
 それを聞いた、明美は、
「じゃあ、あなたは、その仲介人ということですか?」
 というと、
「ええ、そういうことになりますね。この犯罪には、中立な人が一人いないとなりたたないんですよ。立会人といえばいいのかな? まるで裁判官のようなジャッジメントができるような人ですね」
 と、男がいうと、またにやりと笑った。
 その表情にどこまで信憑性があるというのか、考えただけで怖かった。
 一度身体が怖ってしまい、震えが痺れに変わってきた頃、
「まるで夢でも見ているのだろうか?」
 と、明美は感じたのだ。
「交換殺人の仲介人? 何と馬鹿げたことを」
 というと、考え込んでしまった明美だった。

                 大団円

「ところで、そんなことをして、あなたに、何のメリットがあるというんですか?」
 と聞かれた男は、
「そりゃあ、もちろん、報酬はいただきますよ。何の報酬もなく、リスクだけがあるこの状態で、こんな提案するわけはないじゃないですか? もちろん、そんなに難しい請求はしません。何と言っても、両方から取れるわけですからね。仲介役という立場だからですね」
 といった。
「なるほど、私にも請求するわけだ」
 というと、
「もちろんですね。ここであなたに払ったお金くらいは、返してもらいますよ」
 と笑っている。
「たった、それだけ?」
 というと、
「まあ、それだけではないけど、私の目的は金だけではないからですね」
 というではないか。
作品名:秘密は墓場まで 作家名:森本晃次