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秘密は墓場まで

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 もし、相手が、彼女にとって都合の悪い男の可能性もある。
 例えば、親や、学校の先生、仕事をしていれば、同僚や上司など、さらには、今彼でったり、元カレなどというのは、非常に場が悪くなってしまうので、実際にどうするかはその時々で変わるだろうが、事前に分かっておくというのは、必要なことである。
 だが、デリヘルの場合は、それがまったくできない。
 出禁に対してだけは、電話番号で分かるのだが、身バレに関しては、まったく分からない。
 客としては、基本的に自分の部屋から電話予約をするか、ホテルに入ってから、電話を掛けるので、相手がどこの誰なのかということは、女の子がその部屋を訪れるまで分からない。
 自宅であれば、分かるのだが、ホテルへの派遣の場合は、分かりようがないというものだ。
 さらに、出禁になるようなことをされたとしても、そこに非常ボタンがあるわけでもなく、ホテルを利用しているだけなので、何かあっても、ホテル側は第三者なので、基本対応は不可であろう。
 そうなった時が一番の問題で、どうすることもできない。デリヘルの一番の問題点ではないだろうか?
 明美は今のところ、問題はないが、いつどこでどんな問題があるのかを考えると怖くないといえば、ウソになる。
 ただ、今のところ、できることは、今のこの生活しかなかった。本当であれば、娘にこれ以上の浪費はやめてもらいたいのだが、なかなか難しい。今のところ、うまくこなしているが、どうなることか、不安でしかないのだ。
 そんなある時、デリヘルの客で、おかしな話をしてくる人がいた。年齢的には、自分とあまり変わらないくらいの、40代の男性であろうか?
 彼が話をしているのは、あくまでも、自分の知り合いということであったが、その人の話は、非常に明美の境遇に似たものだった。
 明美は少し怖くなった。まさか、そのことを確かめるのは正直怖いし、できれば、出禁にしてもらえればよかったのだろうが、この男は、数日に一度は自分を指名してくれる、いわゆる、
「上客」
 だったのだ。
 明美は源氏名を、
「まりな」
 と言ったが、男は、
「まりなさんが、今苦しんでいることがあるのであれば、僕が救ってあげたい」
 というのであった。
 最初は、
「冗談を言っているのだろうか?」
 と思った。
 何と言っても、明美くらいの年齢の女性が、真夜中にこのような仕事をしているのだから、当然、訳アリだということは、誰にでも想像がつくことだろう。だから、
「苦しんでいる」
 というのは、まりなに限らず、皆大なり小なり、かなりのことを抱え込んでいるのは、必定である。
 だから、冗談だと思われても無理もないことで、
「何言ってるのよ。私は大丈夫」
 といって、気丈に振る舞うしかないと思ったのだ。
 実際に、そう言って気丈に振る舞ったが、
「そう? じゃあ、もし苦しい時は苦しいといってもいいんだよ」
 と、優しく声を掛けてくれる。
 この人が悪い人ではないということは分かっているつもりだったが、客と嬢の立場ということをわきまえておかないと、いけないことは分かっていた。
「何のために、このような仕事をしているのか?」
 ということを忘れてしまっては、本末転倒であることは、分かり切っているからだったのだ。
 その男が、今度は違う話をし始めた。
 その話というのは、一人の女の子の話であった。その女の子というのは、今年、二十歳になる女の子で、
「うちのつむぎと、あまり変わらない年齢ではないか?」
 と心の中で思った。
 この客に限らず、明美は自分のプライバシーを口にすることはなかった。家族構成などまったく話していない。
 客に甘えてはいけないという思いと、
「客は基本的に、怖いものだと思って、自分の中で警戒心をしっかり持っていないといけない」
 と思っていたからだった。
 だから、自分に娘がいることは話していないが、自分が主婦であることは、それを売りにした宣材をしているので、客の中には。
「子供がいるくらいは、織り込み済みだ」
 と思っているだろう。
 だが、まさか、成人しているような娘がいるとは思っていないだろう。今は40代半ばになっているのに、宣材年齢として、37歳にしているのは、ギリギリの線であっただろう。
 だが、実際にうまく化粧をした時は、客によっては。
「30代前半じゃないのかい?」
 と、宣材年齢よりも、さらに若く見てくれる客もいて、そこは、ありがたかった。
 きっと、年齢相応に見られていれば、客が減っていたかも知れないし客層がさらに上だったか、逆に、マザコンのような若い連中が客をしてついたかも知れないとも思った。
 どっちにしても、今の方が客層からすれば、ちょうどよく。自分でも納得がいったお仕事ができると思っていたのだった。
 その男がいうには。
「その娘さんがね。実は父親に性的暴行を日常的に受けているようで、そのことに悩んでいたんだよ」
 というではないか。
「どうして、そんな話をこの私に?」
 と、少し警戒しながら、明美は言ったが、
「どうしてなんだろうね? まりなさんになら、話しやすいと思ってね」
 というではないか。
 そして、彼はさらに続けた。
「その子は、母親がいなくてね。父親が父子家庭で育てていたんだけど、その父親がずっと前から不倫をしていたそうなんだよ。それを偶然知ってしまって、最初は気まずい感じが家の中に漂ったらしいんだけど、ついに、父親が、娘に手を出したということなんだ。その父親というのが、性格的に歯止めが利かないようで、娘を蹂躙したことで、自分の性格が歪んでしまったことを自覚すると、きっと自分が何をすればいいのか見失ってしまったんだろうね? 不倫相手とはそのままの状態で、家では娘を蹂躙しているということらしい。娘の方も、すっかり諦めの境地に入っているようで、このままだったら、二人は畜生道をまっしぐらということのようなんだ」
 という話をした。
 正直聞いていて、あまり気分のいいものではない。
 自分だって、娘の犠牲になって、こんな仕事をさせられている上に、この仕事をしている以上。娘に強くも言えないという立場から、どうすればいいのかを、思い悩んでいるというところであった。
 男から、お-こんな話を聞いていると、
「どうやって、そんな話を聞くんだろう?」
 と感じた。
 何か、情報通な人間で、それで知っているのかとも思ったが、それなら、軽々しく、しかも、自分に何の関係もない立場である風俗の嬢に話す内容ではないだろう。
 それに、
「軽々しく」
 という雰囲気でもないように思える。
 そう思うと、何かの思惑があって、この男は、明美にこんな話をしているのだろう。
 本当はもっと聞いてみたかったのだが、自分から聞くというのは、
「この話に興味がある」
 ということを自分から言うようで、それは避けたかった。
 下手をすれば、今の自分の立場も、うっかりと、いや、我慢できずに話をしてしまわないとも限らないからだ。
 明美は、どちらかというと、情に流されやすい方なので、人の話に興味が湧くと、いつの間にか、自分が話の中の主人公にでもなったかのような気がしてくるのだった。
作品名:秘密は墓場まで 作家名:森本晃次