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秘密は墓場まで

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 その時の、父親の様子から、本当であれば、危険を察知しておくべきだったはずである。それなのに、その日から、父親との関係がぎくしゃくどころか気まずさで、一時たりとも一緒の空間にいるのが怖かった。
「同じ空気を吸うのも嫌だ」
 と感じた。
 それは、あの時に感じた臭いを思い出すからだった。
 老人の加齢臭などとは違う。脂ぎった臭いだといってもいい。それこそ、
「これが、オスというものの臭いなんだろうか?」
 と感じたが、まだ、処女のつぐみには分かるはずもなかった。
 だが、その恐怖は、早くも今晩訪れることになる。なるべく父親と顔を合わせたくないと思ったつぐみは、父親が帰ってくる前に、すべてを終わらせ、部屋に引きこもっていた。
 食事の用意だけは、してあげておいて、ラップをかぶせ、後はレンジでチンすればいいだけにしておいた。
 玄関の扉が閉まる音がしたので、父親が帰ってきたのだろう、時間を見ると、午後11時、普段であれば、とっくに食事もお風呂も終えている時間であった。
 たまに遅く帰ってくる日もあったが、今から思えば、それが不倫の日だったのだろう。
 一週間に一回くらいだったので、不倫の逢瀬というのは、それくらいがちょうどいいのか、処女のつぐみには、想像すらできなかった。
 少しすると、シャワーが流れる音がする。いつもであれば、テレビの音が響いてくるのだが、その日は静かなものだった。それが一人でいるからなのか、それとも、テレビをつけることすら忘れるほどの気まずさを感じているからなのか、どっちなのか分からなかった。
 だが、実際は、そのどちらでもなかった。つぐみがそのことを想像できなかったのは、「この期に及んでも、まだお父さんに理性が残っている」
 と感じたことだった。
 昨日、あんなことをしておいて、今日以降も、過ごして行こうとするならば、行動パターンを変えるようなことはしないだろう。
 それをしようとしているのは、何かの企みがあるからに違いない。何となくは分かっていたはずなのに、それでも信じようと思ったのは、相手が父親だという肉親だったからだろうか?
 ただ、肉親にしても、近しい人というのは、相手を憎むようになると、もう終わりなのかも知れない。
「可愛さ余って憎さ百倍」
 という言葉があるではないか。
 せっかく許そうという気持ちがあるのに、相手は反省などしていない。あくまでも、立場はこちらの方が上だ。これが家族の間であれば、決して犯してはならない領域のはずなのに、それを相手がへりくだってこなかったとすれば、許されることではない。
 つぐみは、そう思っていたように、父親からすれば、
「俺が、育ててやってるんじゃないか? お父さんを許せないとか、毛嫌いするとか、どういうことなんだ。この俺が見放せば、子供のお前は生きていけないんだぞ」
 とばかりに、思っていたのかも知れない。
 お互いにその間の距離が遠いと、さらに、倍の距離を感じさせるのが、肉親というものではないだろうか?
 相手の気持ちが分かってくるだけに。どうしようもないような気持になってくるのかも知れない。
 その日、つぐみは、父親に蹂躙された。何が理由だったのか分からないが、考えられることは、父親の不倫を悟られてしまったということが、相当ショックだったのか、それとも、父親の異常性癖は顔を出したのか、
 その証拠に、父親はその日から、つぐみを蹂躙するようになった。虐待だけではなく、蹂躙することで、完全に犯罪を通り越しているのだが、まだ中学生につぐみには、逆らうことはできなかった。
 そんなつぐみは、このまま父親に飼われている状態となり、まるで、
「奴隷」
 と化していたのだ。
 心までは蹂躙されているわけではないが、逆らうことができない自分が、そのうちに諦めの境地になり、羞恥の心を、完全に見失ってしまいそうで怖かった。
 実際には、羞恥の心などない方が気が楽である。例えば喧嘩などをした時は、下手に逆らうと、相手の機嫌を損ねて、何をされるか分からなくなる。
 それを思うと、殴り返したくなる時でも、報復が怖くて、何もできなくなるのが普通であった。だから、つぐみも、父親には逆らえない。これ以上何をされるか分からないと思うと、それこそ、殺されるかも知れないと感じたのだ。
「諦めさえすれば、このまま生きていける」
 と思った。
 学校では、皆楽しそうにしているのが見えたが、自分だけ苦しんでいると、まわりが気にかけてくれる。
「どうしたの? 悩みでもあるの?」
 と聞かれた時、何と言って答えればいいのか。
 聞いてくれたことは嬉しいが、何も答えられない。
「それだったら、最初から、人に悟られるような態度を取らなければいいのに」
 というだろう。
 しかし、自分だけで抱え込んでいることに、つぐみは性格的に耐えられないのだ。
 だからと言って、その理由を答えることができないというジレンマと矛盾は、プレッシャーとなって、つぐみを追い詰める。それを拭い去るにはどうすればいいか? それは、結局、内容は言わないまでも、まわりに、
「何か苦しんでいる」
 と思わせることで同情を誘うということくらいしかないのだった。
 同情を悟っても、どうなるものでもない。ただ、まわりで能天気に何もないかのように遊んでいる連中に対して、気持ちの上で報復しようと思ったのだ。
 これが、父親に対してすることができない、
「報復」
 へのせめてもの抵抗といってもいいのかも知れない。
 つぐみは、今、父親の蹂躙に対して、ささやかであっても、抵抗を続けているという自己満足だけで生きているのかも知れない……。

                 金食い虫の子供

 つぐみが、父親に蹂躙され、この世の地獄を味わっている頃、別の意味で地獄を感じている人がいたのだ。その人は、今年45歳になる、水島明美という。
 25歳の時に、社内恋愛で結婚してから、会社を寿退社、旦那は、それなりに出世していて、今は、海外に赴任中であった。出世コースのエリートというわけではなく、
「海外勤務のエキスパート」
 として、会社の、
「海外営業部」
 に所属し、それなりの高給取りなので、暮らしは裕福であった。
 ただ、海外勤務が長く、日本勤務があったとしても、長くて2年日本にいれば、次は、アメリカか欧州のどこかの土地ということの繰り返しであった。
 それでも、アフガンやミャンマーなどのような内乱があったりする危険な国に行くことはなく、せめて、最近、ロシアと戦争していたウクライナの首都、キエフに駐留したことがあったくらいだった。
 戦争が始まった時は、別の土地に赴任したので、戦争に巻き込まれることはなかったが、キエフから、チェルノブイリあたりくらいまで、営業範囲だったことを思うと、少し怖い気がしていた。
 旦那が日本に帰ってきたのは、2年前だったから、まだ数年は、海外勤務が続くと思われていた。
 その間にすっかり、娘のつむぎは成長し、今は高校2年生になっていた。
 父親が海外赴任をしていて、しかも、収入はそこそこいいと来ているのだから、昔でいうところの、
「亭主元気で留守がいい」
作品名:秘密は墓場まで 作家名:森本晃次