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秘密は墓場まで

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 と思っているということであろう。
 だが、世の中に絶対などと言う言葉は当てはまらない。もし当て嵌まるとすれば、この場合は一つしかない。
 普段は、いつもあまり考え事をしないつぐみだったが、今回は結構しっかりと頭で考えていた。
「この場合の私に置き換えてみると……」
 と考えると、恐ろしい考えが浮かんできて、思わず。抵抗する力を失ってしまった。
 それをすかさずに感じ取った犯人と、今まで一進一退の力関係だったものが、今度は相手に蹂躙されることになった。
「しまった」
 と感じたが、後の祭りである。
 男の息遣いは、さらに強くなり、真っ暗な空間に湿気が混じってきて、隠微な臭いがあたりを支配した。
 酸っぱさを感じる、人間の臭いがあたりに充満する。それだけで、口を開けていられなくなり、息を吸うのが気持ち悪く感じられた。
「もう、これ以上逆らえない」
 という思いとともに。必死に逃げようという気持ちが次第に薄れていく。
「逃げたって無駄だ」
 と。何をどう考えても、逃れられるものではない。
「どうして、こんなことをするの?」
 と、思わず声が出てしまったつぐみだったが、男は一瞬、たじろいだが、さらに男は強い力で蹂躙する。
 それはそうだろう。ここまで来てしまったのだから、ここで辞めたって、罪は罪、逃げることはできない。
 そして、その相手がつぐみが考えている人だったら。もし、この場を逃れたとしても、どっちに転んでも破滅することには違いない。
「暴行されなかっただけ」
 という意味で、男が捕まるのがいいのだろうが、完全に、世間からつぐみは、白い目で見られることは確定していることだろう。
 別につぐみは、
「自分が悪いわけではないのに」
 とばかりに考えるが、本当にどうしていいのか分からない。
 一番いいのは、この場を必死になって逃げだし。何とか犯人が捕まらないということが一番いい方法で、唯一、
「破滅しないかも知れない」
 という方法に他ならない。
「世の中、血も涙もない」
 とは、まさにこのことだった。
 必死になって、もがいているのだが、払いのけることができない。力が入っていると思っているのは自分だけのようで、必死になって払いのけているつもりで何とか身動きを取ってみるのだが、どうやらすり抜けているようだ。
 その感覚を見ると、
「これて、ひょっとして夢だったりしない?」
 と、一縷の望みを掛けて、再度目を瞑ってみたが。目を開けると、また同じ場面が映っているのだった。
「もうダメだわ」
 と感じたのだが、どうやら、もう逃れることはできないようだった。
 後は、自分が想像した、最悪のシナリオだけでも回避されてほしかったのだ。
 相手は必死になってしがみついてくる。もし、自分の想像通りの相手だったら、まず間違いなく、抵抗することはできないだろう。相手が誰かを予想しているのに、絶対ということはありえないはずなのに、逃れることができないとは、どういうことなのだろう?
 それでも、必死になっているのは、無駄な抵抗なのだろうか?
 そのうちに、力が抜けていくのを感じた。
「あれ? 力が入らない」
 と、そう思っていると、相手も一緒に力を抜いてくる。
 普段だったら、
「しめた」
 と思って、少し力を入れてみるのだろうが、それができないのだ。
「私は、この場合の絶対を信じているんだわ」
 と感じたことで、すでに自分の身体は確信していることを思い知ったのだ。
「つぐみ」
 と、男は名前を呼んだ。
 その声にはもちろん、覚えがあり、声の主が分かった瞬間に、想像通り、身体中の力が抜けていったのだった。
「お父さん」
 そう、最悪のシナリオは、相手が父親であるということだった。
 相手が父親であれば、親告罪の場合は少し難しい。本来なら親が法定代理人となるべきところ、犯人が法定代理人と同じだなどということになると、もうどうすることもできない。
 親戚などに代理人になってもらうことはできるだろうが、もう、そうなってしまっては、すべてが、終わりである。
 この時は、正義感に燃えている人も、喉元すぎれば、ハッキリ言って、その気持ちを忘れてしまう。
 代理人になってもらうとしても、被告が親戚であり、しかも、被害者が娘だというのは、いくら親戚でも。こんな厄介な問題を押し付けられるのは、実に困ったものだからである。
 いや、そんなことを考える暇などない。とにかく、今はこの危険から逃れるしか、方法はないのだ。あくまでも、逃れてからしかできないことで、このまま蹂躙されてしまうとどうなってしまうのか、恐ろしいだけで、何もできなかった。
「もし、身体が痺れて、腕に力が入らない状態でなければ、普段の父親にだったら。逆らえるだろうか?」
 と考えた。
 身体の痺れで、腕に力が入らなくなったことは、この時は初めてではなかった気がする。あれは確か、中学に入ってすぐ位の頃、学校の臨海学舎で、海に行った時だっただろうか。
 夏のことなので、肝だめしと称して、数人のグループで班となって、墓地をぐるっと回って帰ってくるという時のことだった。
 先生や、旅館のスタッフが、毎年恒例で、毎年似たような演出で、お化けに扮していたのだが、その年は、やけに怖がりが多くて、脅かす方の先生たちの方が、ひどい状況だった。
 マスクをして行動しているので、少々のことでは怖がらない。
 だが、怖がりというのはどこにでもいるもので、一緒に行動していた人が、怖さからか行方不明になってしまったのだ。家に連絡しても帰っているというわけではないようだし。いそうなところを皆で手分けして捜したのに、一向に見つからなかった。
 実は、脅かすために架空の墓を作って、そこに出入り口を作っていたのに、最終的にそこから出てきた人はいなかった。そもそも、そんなところに鬼の拠点があるわけででもあるない。
「探してはみたけど、どうしようもないな」
 と、結局見つからなかったが、一人だけ、トイレに閉じ込められている少年がいたのだった。
 それが、その時行方不明になっていた少年で、顔を見ると真っ青になっていた。そして、どうやらトラウマになって、少し精神疾患になったことで、先生は責任を取らされた。
 つぐみが、痺れが取れないほど怖かったのは、
「ちょっとした軽い気持ちで行動した時、そのことが、大きな問題に発展してしまうという、想像もしていなかったことが起こり、それが、自分を思わぬ方向に追い詰めてしまうことに恐怖を感じたのかも知れない」
 と感じていた。
 父親は。最初ほどの力がこもっていなかった。最初に力を使い果たしたのか、少しすると、完全に力が抜けてしまったようだ。
 事なきを得たつぐみは、自分も身体の力が抜けて行くのを感じ、本当なら、その場から走り去りたかったのだが、そのままぐったりとなってしまった。
 父親は、息を切らしその場にうな垂れている。つぐみに声を掛ける勇気などあるわけもなく、指の痺れが取れるのを待っていたのだ。そうこうしているうちに、父親は、立ち上がって部屋を出て行った。一度もこちらを振り返ることなくであった。
作品名:秘密は墓場まで 作家名:森本晃次