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秘密は墓場まで

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 ただ、それはつぐみに対してだけということであり、相手が変われば、性欲がよみがえってくるのではないか。
 もし、これがトラウマなのだとすると、相手は限定される。
 ただ、気になるのは、
「彼がその時、童貞だったのか、どうか」
 ということである。
 童貞でなかったとすれば、トラウマはつぐみに対してだけのことになるのだが、もし、童貞であれば、最初から女を知らないのだから、トラウマは、世の女性すべてに対してだということにならないだろうか?
 童貞であるか否かという問題は、男の方で、女性を受け入れられるかどうかということであり、その境界線には、つぐみはいないのだ。
 トラウマがどのように残るかというのは、相手がつぐみであろうがなかろうが、自分自身の問題だということだ。
 ただし、それも相手であるつぐみの態度にかなりの部分、影響されかねないだろう。
 そして、もう一つ、果たして彼が、
「自分が童貞であれば、その思いを相手の女性がいかに受け入れてくれるか?」
 ということを考えていたとすれば。その時初めて、つぐみという女性の存在がクローズアップされる。
「童貞だってバレないことが、まず最優先であり、バレてしまった時のことを伏線としてしいておく必要があるだろう」
 と考えていたりする。
 つぐみにとって、彼が童貞であるかどうかというのは、大きな問題だった。
 もし、その頃まで自分が処女であれば、お互いに初めてというのは、新鮮な気分にはなれるが、いざ行為に及ぶと、うまくいかないのは必定である。
 それを分かっていて、新鮮だと思うのだとすれば、それほど、二人とも、頭の中で、
「お花畑」
 を形成しているのかも知れない。
 実際にお花畑に入ってみると、表から見ていては分からなかったものが、どんどん出てくる。
 そのうちに足を取られてしまって抜けられなくなっている状態になるのを想像できたであろうか?
「少しでも彼の自尊心を傷つけると、何をされるか分かったものではない」
 などとネガティブに感じていると、どこか、身体に重たさが感じられた。
 その重たさはリアルなもので、正直、息苦しくて、目を覚ましそうになっているのだった。
「うぅ、重たい」
 といって、そばにいる人を押しのけた。
 その瞬間につぐみは、目を覚ましたのだが、部屋が暗かったことで、最初は何が起こったのか分からなかった。
「はぁはぁ」
 という男の人の声の息遣い。そして、暗闇の中ではあるが、その向こうに、かすかに光が見えた感覚からか、逆光になって見えたことで、その人が誰なのか、余計に分からなくなってしまったのだ。
 まず考えたのは、
「ここは一体どこ?」
 ということであった。
 もう、今見ていたのが夢であり、現実に引き戻されたことは分かった。分かったのだが、そのせいで、急に襲ってきた恐怖というものは、
「夢なら夢で、そのまま覚めないでほしかった」
 という思いである。
 明らかに、夢で想像したことよりも、ひどいことは分かっていた。身体にのしかかってくるその息は、異臭を放っていたのだ。
「これが、男性の臭いというものなの?」
 頭の中で、自分は今中学生なのか、それとも、大学卒業前の女性なのか、分からなくなっていた。
 ただ、自分が処女であることだけは間違いないと思うのだった。どちらにしても、このまま、放っておくと、自分の身に危険が襲ってくることは分かり切っていた。
「どうすれば逃れることができるのか?」
 それを思うと、少なくとも目の前の男性を弾き飛ばすしかなかったのだ。
 その前に、
「この人は一体誰なんだろう?」
 という思いである。
「まさか、知っている人なのか?」
 と思った。
 逆に考えると、知らない人間の方が恐ろしい。知らない人間ということは、相手は自分をターゲットにして、
「もう、どうなってもいい」
 とでも思ったのか、それとも、ストレスによって、自分をコントロールできなくなってしまったのだ。どちらにしても、狂気でしかないではないか。
 それこそ、強姦魔に捕まってしまったということである。
 しかも、この息の荒さは、いかにも常軌を逸しているではないか。まともな神経の持ち主でないことは一目瞭然である。
「痛い」
 といって。思わず声を挙げた。
 相手の腕が、自分の肘をひっかいたのだった。その声を聞いた時、相手は一瞬ひるんだ。これは、知り合いだからひるんだのか? それとも、急につぐみが発した声に完全にビビっていたのかということで、知っている人なのかどうかが分かるかと思ったが、それだけでは分からなかった。
 だが、相手がひるんでから、また力を籠めるまでに、少し時間が掛かったような気がした。それを思うと、
「この人は知り合いなのかも知れない」
 と感じたのだ。
 だからと言って、安心することはできない。知り合いであれば、相手にとって、顔を見られるということは命取りである。今は暗くて見えないが、たぶん、相手は何かをかぶっているに違いない。
 そもそも、今の時代は、マスクをしているのが当たり前の時代で、ちょっと前であれば、一発、職務質問に値するような状況であるにも関わらず、もし、頬かむりでもしていてに、別に怪しまれることはないだろう。
 逆にいえば、今の時代は。
「怪しく見える人間ほどまともなのだ」
 といってもいい、まったく異常な時代になっていたのだった。
 目出し帽をかぶった、いわゆる、
「銀行強盗スタイル」
 も、今では、蔓延防止のための措置だと言えば許される時代なのである。
 ただ、その人は、そんなものをかぶっているわけではなかった。荒々しい息は、マスクすらしていないのではないかと思うほどで、一瞬、伝染病のことが頭をよぎったが、最近では、ほとんど感染も落ち着いてきていて、それよりも何よりも、今自分が置かれている状況が恐ろしいというべきではないだろうか?
 つぐみは、必死になって男から逃れようとするが、男も必至になって、逃がすまいとする。
「そんなことは当たり前ではないか。相手だって顔を見られれば終わりなんだ」
 と思ったが、この状態で、男は顔を見られずに何をしようというのだろう?
 少なくとも。暴行に走るのだとすれば、顔を見られないようにするのは難しい。ことに及んでしまってから、その場を立ち去ったとしても、顔を見られれば一巻の終わりである。
 だが、そんなことは分かっているはずなのに、どうして、それでも、こんな行動に及ぶというのか?
 いくつか考えられるが。一番大きい考えは、
「つぐみなら訴え出ないだろう」
 という思いがあるからではないかと思った。
 確かに強姦は、親告罪である。強姦を行っても、未成年であれば、その申告者として親などの代理人によって、行われる。
(ただし、これは、令和の時代には通用しない法律で、平成29年から、強姦罪やわいせつ系の法律は、非親告罪となった。さらには、強姦罪という言葉も変更になり、強制性交等罪という名称に変わったという。だが、作者は敢えて、当初の但し書きの通り、強姦罪という旧来の言葉を使うことにする)
 つまりは、親告罪と思っている犯人とすれば、
「絶対につぐみは訴えない」
作品名:秘密は墓場まで 作家名:森本晃次