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秘密は墓場まで

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 今日は、家に帰ってきても、父親の昼間の態度を思い出すと何もする気にはならない。2時間ドラマの撮りためていたやつを見ようと思ったのは、テレビを見るのが楽しみだからというわけではなかった。
「ただ、何も考えずに、映像が頭の右から左に流れてくれて、時間を潰すことができるからだ」
 ということだった。
 それは、今まさに感じたテレビCMに対する思いと同じで、
「無為にではなく、時間をやりすごすには、どうすればいいか?」
 ということを考えた時の答えが、2時間ドラマだったのだ。
 時間をやり過ごすというのは、
「人のうわさも75日」
 ということわざにあるように、
「わだかまりを消してくれるのは、時間が解決してくれるという発想だけしかないのではないか?」
 ということを考えたからだった。
 父親とのわだかまりなど、時間が経てば消えるというものだが、それ以前に、自分の中のわだかまりを消す必要があった。父親が相手であれば、いさかいになりかねないが、時間さえあれば消えるであろう。
 しかし、自分の中にあるわだかまりは、時間だけでは解決できないものがあるだろう。それが何なのか、テレビドラマでも、頭の中でやり過ごすことができる、2時間ドラマが一番いいと思うのであった。
 その日は、昼間慣れない都会に出て疲れ果てたのと、父親に対しての蟠りから、いきなり睡魔が襲ってきて、何とかテレビを消して、部屋のベッドにもぐりこんで、そのまま寝てしまったようだった。

                 虐待の果てに

 その日は、変な夢を見ていたようだ。
 その夢というのは、どうやら未来の夢だった。今はまだ中学2年生なので、出てきた自分は、8年後くらいということか、大学卒業のシチュエーションだったからだ。
 未来の夢も、結構先のことであれば、かなりリアルな感じがする。中学2年生にとっての大学卒業くらいというと、本当に果てしないくらいの未来に感じるからであった。
 何しろ、今は思春期、成長期である。しかも、途中には卒業入学を繰り返すというハッキリとした節目があり、しかも、大学生までの間に、成人式という行事があるではないか? 成人式は、今でこそ、18歳になっているが、その当時はまだ二十歳だった。ちょうど、大学3年生くらいであろうか?
 法律がコロコロ変わるのも、実に面倒臭いものだ。まだ、これから覚える方としては、今は大丈夫だが、大人になってからの法律は一体どうなっているのか、想像もつかない。
 ひょっとすると、死刑が廃止になっていたり、集団的自衛権が認められている世界になっているかも知れない。
 そんなことを夢で見ることはなかったが、はるか遠い未来は、却って、本当に今が22歳くらいになっていると思って夢を見ていたとしても、不思議のないことだった。
 大学の卒業式というのは、アッサリとしたものだった。高校まではそれなりの儀式を感じた気がしたが、大学卒業の頃には、当然就職も決まっていて、就職した会社で、入社前の研修などがあれば、卒業式どころではないだろう。
 つぐみの性格からすると、卒業が間近で、研究機関の合間に、友達と卒業旅行などに行ったとしても、たぶん楽しめないだろうというようなことは、容易に想像は着いた。
 何か大切なことが控えているとすれば、気になって、楽しめないというのは、中雅楽時代で培われた感覚であり、これは一生変わらないものだと思っていた。
「いや、ひょっとすると、持って生まれた自分の本性のようなものなのかも知れない」
 と、感じていたのだ。
 卒業間近のその時に、友達数人で、卒業旅行に出かけた。人によっては、海外に出かけるのだろうが、なぜか、6人くらいで国内に出かけたのであった。
 そこに違和感はなかったのだが、どうして国内だったのかということを考えてみると、思ったよりも理由は簡単なものだった。
「海外に行ったことなどないので、想像自体できるはずがない」
 という思いであった。
 中学生で海外に行ったことなど、ある日との方が珍しいくらいで、大学卒業する頃になると、海外に行ったことのない人の方が珍しいということになるだろう。
 普通だったら、ハワイやニューヨーク、ロスなどの米国や、ロンドン、パリ、ローマなどの欧州の主要都市くらいが、
「行きたい海外の都市」
 ということで、候補には上がってくる。
 映像や写真も、ガイドブックや、テレビなどを見ていると、
「観光地になった切り抜いた場所」
 としては、いつも見る光景なのだろう。
「今から見せる写真はどこの都市か答えなさい」
 などというクイズがあったとすれば、きっと普通に答えられるであろう。
 だが、行ったことがないのだから、どうあがいても、
「絵に描いた餅」
 であり、リアルな感覚とは程遠いものであった。
 そういう意味で、ある意味で、
「これ以上正直なものはない」
 と思える夢の世界であれば、素直に行ったことがないという意識の元、夢であっても、いや、夢であることから、想像の域にすら、行き着いていないに違いない。
 だから、未来の夢を見ていると、その夢は、
「アンバランスで、遠近感が取れない」
 という意識になっているのだろう。
 つまりは、夢に出てくる友達は、皆中学生だと意識しながら、自分は大学生だという認識なのだ。
「自分の顔は鏡などの媒体を利用しないと見ることができない」
 という意識があるので、夢の中だとはいえ、
「自分の顔は中学生なんだろうな」
 という認識になっているに違いない。
 そんな大学卒業前の卒業旅行に、誰が出てきたのか?
 実は卒業旅行と称しての、男性との二人きりの旅行だったというのが発覚した。
 最初は、6人くらいいたような気がしていたが、いつの間にか、次第に減ってきて、残ったのは、彼氏と思しき男性だけだった。
 その男性は、実に紳士な人で、旅行に来るまで、一切手を出そうとはしなかったのだ。付き合い始めて半年という設定だったが、キスまではしたことがあったが、それ以上はなかったのだ。
 それなのに、いきなり旅行というのは、普通ならハードルが高いのだろうが、つぐみとしては、
「婚前旅行」
 といってもいいくらいのものだったのだ。
 それまで、処女を守ってきたつぐみ、初体験の機会はいくらでもあったはずである。もっとも夢だから、勝手に想像するだけのことなのだが、つぐみにとっての旅行は、覚悟の上だったのか、それとも、
「彼は決して、私に襲い掛かったりはしてこない。私の嫌だと思うことは決してしてこないからだ」
 ということなのだろうか?
 後者は、ずっと考えていたことなのだろう。だが、その考えは、却って自分を不安にさせる。
 普段から、何もしてこない相手なので、いざとなった時、つぐみの中で覚悟ができていたとすれば、彼は、本当にちゃんとしてくれるのだろうか?
 その思いは正直強かった。
 普段の優しさが、覚悟を決めなければいけない時、その気持ちに至ることができずに、そのまま、どうしていいのか分からなくなってしまう。
 この旅行の時、思い切って自分の気持ちに正直になることができなければ、彼は二度と、つぐみには手を出してこない気がした。
作品名:秘密は墓場まで 作家名:森本晃次