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摂関主義宗教団体

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 確かに、先生の言う通り、政治の補佐をする中で、藤原摂関家が、一番長く栄えていて、盤石だったのも間違いないだろう。
 その後の中世に訪れた武家の文化の方が、荒々しくて、歴史の争乱にふさわしいということもあって、実際に藤原時代は分かりにくいものだ。
 それを思うと、俄かに、どういう宗教団体なのか、ピンとはこない。おそらくこの話になると、2,3日では、話が尽きることはないだろう。
 だとすれば、どこにそんな暇があるというのか?
 確かに、就職もできずに、今は中途半端な状態で、アルバイトで食いつないでいる状態だ。これには不満も憤慨も大いにある。しかし、それは自分が悪いのであって、誰を責めることもできない。
「じゃあ、どうすれば?」
 と言われれば、これといって何もない。
 だからと言って、教祖なんて……。
 そう思うのは当然だろう?
 とにかく、その日は眠れない夜を過ごしたのだった。

                 教祖誕生

 その日は、実は眠れていたのだ。
「眠れない夜を過ごしているつもりだったのだが、実際には、眠れないという夢を見ていた」
 というだけのことだったのだ。
 もちろん、最初はそんなことに気づきもしなかった。そして眠れない理由を、あのへんな団体によるものだと思うと、次第に腹が立ってきた。
「何で、俺はあんな連中に引っかかって、眠れない夜を過ごさないといけないんだ?」
 という思いである。
 眠れないことに、他人が絡んでくるということ自体、気持ち悪いのに、それが宗教団体だと思うと、
「あの連中も、しょせん、世の中で言われているような、いかがわしい宗教団体でしかないんだな。人を救うなどと言って、結局は来世に期待させることで逃げる巷の宗教団体のことを思うと、腹が立って仕方がない」
 と感じるのであった。
「この俺が、教祖? 笑わせるんじゃないぞ」
 と、次第に開き直りが出てきたのか、考えるだけで、バカバカしく思えてきた。
 本当だったら、このバカバカしさが、最初に来るはずなのに、かなり遠回りをしたものだ。
 まさか、
「ゆっくり考えればいい」
 と言った先生の言葉に気持ちが揺らいだということなのか?
 それとも、就職も決まっていないこの俺の弱みに付け込まれたことへの苛立ちなのか? とにかく、許せない気持ちがつよくなってきたのだった。
 その日は、朝から珍しく食欲があった。
「眠れなかったからかな?」
 と思った。
 朝起きてすぐには、どうしても食欲がなく、いつもは、朝食を食べない。だが、この日は空腹感があったのだ。
 といっても、家で何かを作って食べようという気分にはならない。
 そんな時は、少し歩くが、駅前の喫茶店に寄って、モーニングサービスを食べるのが、定期的な楽しみであったのだ。
「とにかく、落ち着こう」
 という気持ちもあってか、その日は、アルバイトも夕方からだったので、昼間は時間がある。
「まずは、腹ごしらえだ」
 ということで、馴染みの喫茶店に行くことにした。
 まだ、通勤ラッシュの遅い時間帯くらいだろうか。駅に急いで歩いているスーツ姿の人たちが多くみられる。
 大学時代は、そんな連中を見て、
「俺もいずれは、あんな風に顔色を悪くして会社に行くことになるんだろうな?」
 と、まるで、墓に入るような気分になっていたが、その就職すらできていない状態で、何を考えればいいというのか、決して羨ましいという気分になれるわけもなく、ただ、何も考えずに見ていなければいけなかった。
「惨めだ」
 と思うのは当然のことで、まだ、スタートラインにも立てていない。
 そもそも、その気があるのかということも疑問であった。
 遅れたとはいえ、いずれは。俺もスタートラインに立つ日が来るに違いないと思っていたはずなのに、今ではそんなことを考えもしなくなっていた。
「諦めの境地なのか?」
 と思ったが、諦めの境地に入った方が、明らかに気が楽だった。
「どうせ、会社に入ったとしても、給料が上がるわけでもないし、上司にこき使われるだけで、会社は、社員のことなんか、何とも思っちゃいないんだ」
 と、入ってもいないのに、そう思うようにしていた。
「負け犬の遠吠え」
 といえば、それまでなのだろうが、なぜか、自分では、負け犬の遠吠えのように思っていない。
 別に逃げているわけではないのに、どういうことなのだろうか?
 それを考えると、今の自分が何をどうすればいいのか分からなくなってきていた。
「教祖か……」
 と思わず口で呟いたが、正直、教祖という言葉、胡散臭さしか思い浮かばないのだ。
 今までで教祖と呼ばれる連中が、何をしてきたか、私利私欲に溺れ、その結末はひどいものではなかったか?
 死刑になったやつもいた。死刑にならないまでも、死刑にしてもまだ物足りないと、世間皆が思っているような、とんでもないやつもいたりした。
 基本的に教祖というのは、
「人を救うどころか、自分の私利私欲のために、他人がどうなろうと関係がない。しかも、教団の人間は、教祖のためなら、その身を捧げるというような、まるで絶対君主の国の王様のようではないか? いや、組織が国家ほど大きくなく、目立たないようにしていれば、世間に見えないところで何をやっても分からないというものだ」
 そんな風に思っていると、自分に対して、
「教祖になってほしい」
 といっている意味が分からない。
 確かに自分たちにはその度量がないからなのだろうが、
「責任を、梶原に押し付けて、いざという時は、自分たちの保身を図ればいいんだ」
 というだけのことではないかと思うと、次第に腹が立ってくる。
「誰が教祖なんかやるもんか」
 と思ったが、
「ゆっくり考えてくれればいい」
 と言っていた、先生やまわりの人の、あの余裕は一体何だったのだろうか? 計り知ることのできないものだった。
 だが、
「なぜ自分が教祖の候補になったのだろう?」
 ということを考えてみた。
 そもそも、人と同じでは嫌だということをいつも考えているからなのかも知れないと思ったが、自分のそんな性格を知っている人は、それほどいないはずだ。何しろ、そんなにたくさん友達がいるわけではないので、誰かがわざわざ話したり、聞いたりというのはないだろう。
 となると、梶原のような性格の人間を探していて、
「たまたま見つかった」
 というだけのことなのだろうか?
 そう思えば、理屈は分かるのだが、彼らの探している人物に合致してしまったというのも、気持ち悪いというものだ。
 だが、冷静に考えれば、今の梶原は、アルバイトで食いつないでいるというだけなので、もし、教祖を引き受ければ、うまいものが食い放題だったり、女だっていくらでも……、
などという、まるで、
「酒池肉林」
 のようなハーレム状態を思い浮かべてしまったのだ。
 今までであれば、ちょっとでも怖いと思ったものに手を出すようなことはなかったが、今回は、何か身体に電流が走ったかのような感じがしたので、それがどういう意味を持つのかということが、よく分からなかった。
 だが、ここに欲が出てくると、それまで感じたことのなかった気持ちよさが身体を巡ったのだ。
 それは、
作品名:摂関主義宗教団体 作家名:森本晃次