小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

摂関主義宗教団体

INDEX|19ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

「それはね、藤原氏が、自分たちの娘などを、天皇に嫁がせて、姻戚関係を結ぶことで、強大な権力を持つことができるようになったわけだよ。だから、その子が生まれると、子供の祖父は、藤原氏の長ということになり、完全な親戚になるわけだ。そうなると、権力はほしいままというところだね」
 といわれ、
「なるほど、その通りですね。それで、清盛などは、天皇家に入り込んで、公家化していったわけですね? 結局一代限りだったですけど」
 というと、
「そうなんだよ。藤原氏の力って、何代にも続いて権力を握ってきた。ここまで、天皇家や、将軍家以外で長く権力を持った家というのは、日本の歴史上あっただろか?」
 と言われると、
「確かにそうですよね。蘇我氏だって、三代くらいだったかな? 北条氏だって、100年も続いていない。それを考えると、藤原摂関家というのは、天皇と親戚関係になるということのパイオニアであったことと、長く続いたという意味においては、本当にすごいことなんですね」
 と言わざるを得なかったであろう。
「そうなんだよ。時代が平安時代で、歴史の表舞台に出てくるのは、どうしても動乱の時代や、世相が乱れた時だが、藤原摂関家が権力を握っている時は、平安京で、小さな事件が続発した時代はあったが、何か大きな政変となるようなことはなかったからな。それを思うと、あの時代は、ある意味平和であり、国風文化というものが、根付いた時期でもあった。それが終わって、院政、そして、武家の政治へと変わっていくわけだが、そのことをゆっくり考えてみると、歴史の面白さも分かってくるというものだ」
 と先生は言った。
「確かに、大きな権力があって、そのライバル関係がいないと、なかなか歴史としては、語り継がれることもありませんよね」
 と、梶原が言った。
「じゃあ、どうだい? 俺たちでその歴史を作ってみないかい?」
 といきなり目を輝かせて、先生は言った。
 それを見て、一瞬、
「ここまでの話は何だったのか?」
 とあっけに取られてしまった。
 それを見て先生は、さらに目を輝かせ、
「いや、悪い悪い」
 と言って、頭を掻いていた。
 一体何が悪いというのか? この態度を見て、今回の倉橋の誘いが最初からここにあったのかと思うと、まるで騙されたかのような気がして、悔しかった。ただ、この悔しかったという思いも、騙された行為が嫌だったわけではなく、この期に及んでも、騙されたと思いたくない自分がいることが悔しかったのだ。
 だが、この面倒臭い言い回しは何なのだろう? そもそも、摂関研究部というのが何だったのか?
 どうやら、竹本先生が開設して、それを実践しているのが、倉橋たちなのだろうということは想像がついたが、では、この自分に何をさせようとしているのかということが、梶原にはどうにも分からなかった。
「歴史を作るって」
 と、苦笑いどころか、ひきつった笑いになってしまっていた。
 それを見た先生は、
「そうだよね。今まで歴史の話をしてきたところで、歴史を作る側の話になれば、それは当然ビビっても無理のないことだと思う。それだけ、君が歴史というものに、真摯に向き合っているということだということが分かるからね。だけど、それだけに諦めの境地であったり、できるものなら、何とかしたいというような気持が入り混じって、ジレンマを起こしているのではないかな?」
 というではないか?
「ええ、まあ、確かにそうなんですが」
 と言って相手の出方を探ろうとした。
 先生もそれくらいのことは分かっているのだろう。そして、梶原が決して頭が悪いわけではないということも分かっているはずなので、ここまで話してくれば、頭の中にこちらの何が言いたいかということくらい、想像に入っているに違いないと思っている。
 しかし、それがあまりにも大げさに馬鹿げていることなので、真剣に考える方がどうかしているというものだろう。
 それでも、先生は臆することなく話始めた。
「実は、今度、摂関研究部を、宗教団体として、法人格を取得しようと思っているんだ。それだけの組織は作ってきたつもりだからね。だけど、足りないのが、実質的なところで、教祖という人間なんだ。私は発起人の一人であり、今いるメンバーに教祖となるべき説得力やカリスマを持った人間がいない。それは、考え方が皆いまいちだったり、考え方はしっかりしていても、それを表に出して戦う気概を持っている人間がいないんだ。そこで白羽の矢が立ったのが君だということなんだ。私は今までの君を影から見てきて、君だったら、教祖になりうるだけの力を十分に持っていると感じたのだ。君には驚愕かも知れないが、我々はそういう目でずっと見てきた。だから、自分たちの目は自分で信頼することができる。だから後は君の覚悟と勇気だけなんだ。今すぐにとは言わないが、考えてもらえないかと思って、君には悪かったが、京の席を設けさせてもらった。悪く思わないでほしい」
 と、先生はそう言って頭を下げたが、まわりの皆も一緒に頭を下げている。
 どうやら、奥の客以外、スタッフも皆、同じ気持ちのようで、この店は、宗教団体の隠れ蓑だったということなのか?
「教祖って、そんなかしこまったようなものをこの僕には……」
 というと、
「もちろん、今すぐにというわけではないんだ。これから君が自分の人生を決めていくうえで、その手助けができればいいと思っているし、君にも少なからず、この世界に対しての不満や憤慨があることは分かっているつもりなんだ」
 と先生は言った。
「じゃあ、その僕の気持ちに付け込んだというわけですか?」
 と、皮肉をいうと、
「決してそういうわけではない。君の感情や、本質を考えてのことでもあるんだ。少なくとも、いきなり断ったりすることはないと思ったしね。君は、普通だったら、嫌だと思えば、最初から一刀両断で、聞く耳を持たないくらいの性格だということは分かっているつもりだからね」
 というではないか?
「それにしても」
 と、梶原はとにかく煮え切らない。
「とにかく、考えてみてもらえるだろうか?」
 と、言われてまわりを見ると、真剣な目の中に晒されているのが分かると、正直、むげに断ることはできないと思うのだった。
「とりあえず、考えてみます」
 と言ったが、何を考えるというのか。
 今日のところは頭が回らない。
 果たして、このままちゃんとした睡眠をとることができるのか? ということも疑問だった。
「今日は、じゃあ、失礼します」
 と、言って、その場をとにかく離れたかった。
 本当は一人のなるのが怖かったのだが、このままここにいると、強引に教祖にさせられるような気がして、そっちの方が怖かったのだ。
 相手も止めようとはしない。
「分かりました。ゆっくり考えてみてください」
 と言われたが、
「何が考えてみてくださいだ。こんな重荷を負わせやがって」
 というのが、本音だったが、それを口にすることは決してできなかったのだ。
 考えてみたところで、何がどうなるというわけでもない。
 そもそも、教祖って何なのだ? これが宗教団体だということは分かっていたが、宗教団体と、摂関政治のどこに関係があるというのか?
作品名:摂関主義宗教団体 作家名:森本晃次