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摂関主義宗教団体

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「あの時、私は、果てしない不安の裏返しになると言ったでしょう? あれって、果てしない不安が解消されれば、絶対というのもあるんじゃないかと思うんですよ。でも、不安が解消されれば、絶対でなくてもいい。逆に絶対的な力を持つのが、今度は怖いと思うんですよね? これって、ものすごい矛盾なんだけど、三つを組み合わせると、矛盾も矛盾ではなくなるんですよ」
 という、難しい話になった。
 しかし、しばらく考えてみると、
「それって、三すくみのような考えになるんでしょうかね?」
 と梶原は聞いた。
「そういうことだね。三すくみというと、一種の抑止力のようなもので、三つのものが睨み合って、お互いに形成することだね。例えば、ヘビとカエルとナメクジだったら、ヘビはカエルと食べるけど、ナメクジには溶かされてしまう。カエルはナメクジを食べるけど、ヘビに食われる。ナメクジはヘビを溶かすが、カエルには食われるという感じだね。逆位いえば、ヘビはナメクジが怖くてカエルを食えない。カエルはヘビが怖くて、ナメクジを食えない。ナメクジはカエルが怖くて、ヘビを溶かせないということになるんだ。つまりは、最初に動いてしまうと、間違いなく、自分は生き残ることができないんだ」
 と先生はいう。
「ということは、自分が生き残るには、自分の天敵を動かして、自分が逃げている間に、天敵が、滅んでもらうのを待つというやり方ですね。そうなれば、自分は、ゆっくりと、自分が強い相手を亡ぼせばいいわけですからね」
 というと、
「そういうことなんだ。これは、一種の減算法と言ってもいいかも知れない。というのは、将棋で一番防御力のある手というのは、最初に並べた形なんだ。だから、動かすと、隙ができることになる。この三すくみと似た考えではないだろうか?」
 と先生がいう。
「先生にお話は結構難しいんですが、冷静になって考えると、ひょっとすると、一番分かりやすいかも知れないと思うんですよ。どこか似たようなところがあるんでしょうか?」
 というと、
「あると、私は思っています。君とは、正直話をするのは今日が初めてなんだけど、講義の時間の君の熱心さは、目を見張るものがあると思っていたんだ」
 と言われて、少し興奮気味に、
「先生は僕のことを知っておられたんですか?」
「ああ、知っているよ。君は講義の時、いつも一番前で聞いてくれていて、ノートもしっかり取ってくれているのが分かっていたので、気にしていたんだよ。学部が違うので、なかなか出会うことはなかったけど、こうやって話ができて、嬉しく思っているよ」
 まるで、べた褒めではないか。
「ありがとうございます」
「そんな君だから、さっきの三すくみの話にも、きっと飛びついてくれると思っているんだ。君と話をしていると、お互いに成長し合えるような気がするんだよ。お互いに刺激し合って、まだ表に出ていない部分が出てくるような、そんな感じと言ってもいいかな?」
 と先生がいうと、
「私も先生から、先ほどの話をされている途中から、三すくみだって思ったんですよ。先生と話をするのに、慣れてきたのかな?」
 というと、
「そうかも知れない。君と初めて話をすることになったんだけど、でも、前から知っていたような気がするんだ。君が、摂関研究部を覗いていた時があっただろう? あの時に、何か魅せられるものを感じたんだよ。君としてみれば、ただのサークルだとしか思わなかったかも知れないけど、あの時、君が無言で何かを訴えているような気がしたんだ。それが何だったのかまでは分からないんだけどね。その時、私の中で、堂々巡りを繰り返したことが、急に扉が開けて、理解できるようになったんだ」
 と先生がいう。
「それは嬉しいですね。僕も人の役に立てるということかな?」
 というと、
「そうなんだ。そこなんだよ。さっきも言ったように、お互いに話をしているうちに、お互いが、少しずつ成長し合えるような気がする。たとえば、先ほどの三すくみの話ではないけど、矛盾していることが往々にして多い世の中で、三すくみになることで、何とか均衡が保てているのに、均衡が破れてしまうと、話が変わってくるんだよね」
 という先生の話に、少しついていけない気がしてきた。
「どういうことでしょう?」
 と聞くと、
「世の中というのは、何をどうすればいいのか、すぐには答えが出ない。逆にすぐに出た答えの方がうまく行く時もある。こればかりはハッキリとは分からないよな? まず、何が正解か? なんて分からないだろう? つまり、時間を掛ければいいということだけではないということだ。逆にインスピレーションでうまく行く時もある。だから、その感覚を鍛えようとしているんだよ。人間というのは、本能で、それを知っているんだ。そういう話をいろいろな人として、答えに少しでも近づこうとする。それが、勉強というものではないかと思うんだ」
 さすがに大学の先生、一本筋が通っていると、梶原は感じた、
「私も先生が、そういうお考えではないかと思っていたんですよ」
 と言ったが、もちろん、そんなことまで分かるはずはない。ただ、
「面白い授業をする先生だ」
 という思いはあったのだ。
 先生の話を聞いていると、もっと他にも、今考えなければいけないこととか、分かるような気がした。先生とは、もっといろいろ話をしたいと思うのだった。
 先生と話をしていれば、時間が経つのもあっという間である。
 そんな先生が、少し疲れてきたのか、会話が少なくなってきた。
 それほど酒を飲んでいるわけではないので、ひょっとすると、話をすることで会話に慣れてきてしまったのか、気が抜けたようにも見えた。
 少し、こちらからも会話を少なくしようと思った梶原だったが、最初眠そうにしていた先生が急に我に返ったように。
「梶原君。梶原君は、摂関政治をどう思うかね?」
 と、聞かれた。
「あまり詳しくはないですが、天皇の代わりに政治の補佐をするというところであり、藤原氏が代々、その職を受け持ってきて、絶大な権力を握った。そして、藤原氏にあまり関係のない天皇が即位すると、摂関政治の時代が終わり、院政に突入し、そのせいで、藤原氏の力が落ちていったということですよね?」
 というと、
「ああ、そういうことだね。じゃあ、摂政と関白はどう違う?」
「そこまでは詳しくは分からないですね」
 というと、
「摂政というのは、幼い天皇が即位した時に、天皇に変わって政治を行うことを言って、関白は、成人した天皇が政務を行う時の補佐をする場合をいうんだよ」
 と先生が言った。
「なるほど、そういうことですね。今の法律で言えば、たとえが悪いかも知れないけど、法定代理人と、保佐人の違いのような感じですね?」
 というと、
「うーん、確かに表現はあまりよくないが、確かにその通りかも知れないな。じゃあ、藤原氏が、どうしてそんな権力を持つことができたと思う?」
 と聞かれ、
「それも、ピンときませんね」
 というと、
作品名:摂関主義宗教団体 作家名:森本晃次