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摂関主義宗教団体

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「せっかくお会いしたんだから、一杯やっていきませんか?」
 と誘われた。
「あっ、いや」
 お金もないのに、誘われてもと思ったので断ろうとしたが、
「お金のことは心配いりません。安い店知っていますから」
 と言われ、正直、気分転換したいと思っていただけに、渡しに舟ではあったのだが、迷っていると、
「さあ、行きましょう」
 と言って、ぐいぐい引っ張っていくではないか。
 もう抗う気持ちも失せてしまった。
 彼に引っ張られて入ったお店は、本当にこじんまりとした店の規模はそんなに大きくない居酒屋だった。
「ここは、お魚もおいしいですからね」
 と言って、
「じゃあ、マスター、いつものコースで行こうか?」
 と言って、アイコンタクトも送っているようだった。
 この店は完全に、倉橋の馴染みの店であることに間違いはなさそうだ。
 店の奥の方では、2組ほどが、テーブル席で呑んでいる。カウンターの奥の方では、単独の客がチビリチビリと、やっているのが見えた。日本酒が似合う店だけに、見ていて、ほのぼのした気分になった。
「ほのぼのした気分?」
 最近、そんなほっこりとした気分になったことなど、まったくなかったような気がした。
 カウンターに座れば、前にあるショーケースに並んでいる焼き鳥や魚、野菜などが、本当に新鮮に見える。出来上がってもいない食材だけで空腹感を味わうのだから、そこがこういうお店の醍醐味なのだろうと思うのだった。
 大学時代は、よく一人で呑みに行ったものだった。
 その日の気分で、お店を変えて……。
 少し落ち着きたいが余裕の気分にさせてもらいたいときは、バーにいくようにしていた。そして、何でもいいから、愉快な気分に、そして、おいしいものを食べて嬉しくなりたいと思う時は、居酒屋などがいいと思うのだった。
 そういうお店はリサーチ済みで、一度行けば、常連になった気分になり、2回目以降は、まったく違和感なく店に入ることができる。
 そもそも一人でふらりと入店するのだから、2回目以降は、気兼ねなどすることはないことくらい、分かり切ったことであった。
「やっぱり馴染みの店はいいな」
 と思うのも当然のことだったのだ。
 歴史的な雰囲気が醸し出される店だった。実際に、歴史上の人物と呼ばれるような人を模したかのような絵が飾られていて、コミカルなところが、盗作ではないと言っているようだった。
 店は全体的に若い人が多く、客も結構和気あいあいだった。
「何となく落ち着くお店ですね?」
 というと、
「そうだろう? そう思ってくれると感じていたんだ。中には、落ち着きを感じてくれない人も多くてね。きっとその理由は、アットホームすぎるところがあるからなんだよ」
 と、倉橋は言った。
「僕は、落ち着いて見えるけどな。アットホームすぎるっていうのがよく分からないんだけど」
 というと、
「それは、君が僕を通してこの店を見てくれているからさ。自分ひとりでフラッと入ったと思ってごらん?」
 と言われて、言われた通りに感じてみると、
「ああ、なるほど、確かに、一見さんには、きつい気がするかな?」
「そうなんだ、このお店は、ハッキリ言って、仲間内の店なんだよ。大学時代の摂関研究部のかつての部長が始めたお店でね。客は結構、その摂関研究部関係の人が多いんだ」
 と、倉橋がいうので、
「それで、内輪の店だと思えて、よそ者意識を感じることになるということか?」
 というと、
「そういうこと。でも、梶原君はそんな感覚はないんだね? サークルの中を知らないのに」
 と言われて、
「確かに知らないけど、でも、それ以前に、この店が、サークルのつながりの店だという感覚を持ったわけではないんだけどね」
 というと、
「じゃあ、それを知ると、この店が嫌になったかい?」
「そんなことはないかな? 一度、この雰囲気を気に入ったら、その後に何があっても、そんなに、揺るぐことはないような気がするんだ」
 と言って似合わらいをした。
「この苦笑いは、照れ隠しのつもりだったが、言い訳のための苦笑いだと取られないだろうか?」
 梶原はそう思ったが、倉橋は、どう見ただろうか?
「いらっしゃい。確か君は、梶原君だっけ?」
 と奥から白いエプロンに、白い帽子をかぶったスタッフが、こちらに近寄ってきた。
「ええ、そうですけど」
 と梶原は言ったが、そこにいたのは、年のころで言えば、40代後半くらいの人物で、絶えずニコニコしていた。
 ただ、どこかで見たことがあると思える人だった。
「誰だったっけ?」
 と思っていると、
「申し遅れました。竹本です」
 といって自己紹介をしてくれたが、名前を言われてもすぐには、ピンとこなかった。
「竹本?」
 自分の知っている竹本という人を思い出してみたが、ピンとこない。
 そうなると、今度は、倉橋という男から手繰ってみることにした。
 竹本というと、大学時代に、摂関研究部に所属していた同級生。ということになると、大学関係者だろう。年齢的に同級生ということはありえない。となると、教授か准教授かであろう。
「ああ、確か、歴史の先生だったかな?」
 というと、
「ええ、そうです。当時はただの講師だったんですが、今は准教授になりました」
 という。
 大学では、一年生、二年生の間に、一般教養という過程を習得し、二年くらいから徐々に、専門分野の単位取得になるのだった。
 一年生の一般教養で、日本史を選択した時の先生が、確か竹本先生だったような気がする。
 竹本先生は、なかなかユニークな授業をしてくれたような気がした。大学で教える先生は、高校までのように、一年間で、どこからどこまで教えるというようなカリキュラムがあるわけではないので、いろいろな教え方ができる。自分の研究しているところを、まるで自慢げに話す教授もいれば、学生が、授業を聞いていようがいまいが関係ない。授業はただのバイト感覚で、実際は自分の研究論文を書いて、学会で認められたり、そんな論文が、本になったりするのを、究極の喜びとするのだった。
 竹本先生は若かったこともあって、学生が遊んでいようがどうしようが、うるさくしなければ、別にいいというような先生だった。
 高校時代までも、そんな先生もたくさんいたが、その時は、
「何て情けない先生なんだ」
 と感じていたが、結局、自分もそんな先生たちを白い目でしか見ていなかったのである。
 先生の授業は、それでも、面白かった気がする。出席だけが目的の学生がほとんどだったが、梶原は真面目に聞いていた。
 といっても、梶原もそんなに真面目な生徒というわけではない。
 梶原だって、他の興味のない授業は、皆と同じように、出席だけを目的に行くだけだった。
 単位の取得だけが目的なのだから、そんなに必死になることはない。高校時代までの方に、高校受験、大学受験などという確固たる目的もないのだ。
 しいていえば、就活に影響するかも知れないが、よほど主席に近いくらいの成績を収めるか、サークル活動で、全国大会で優勝するなどの、輝かしい成果でもなければ、大学生活の中で、就活で優利なものはない。
作品名:摂関主義宗教団体 作家名:森本晃次