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摂関主義宗教団体

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「簡単なことさ。俺がまず最初に発言することさ。そして、その時にありったけの正統派意見を俺が言ってしまうのさ。そうすれば、他の人が何を言おうとも、俺の意見に対してのフォローでしかなくなるということなのさ」
 と、彼なりの話術理論を話してくれた。
「なるほど、それだったら、納得がいった。俺とはまったく正反対に見えるけど、理論的にはまっとうな考えなんだよな。そう思うと、お互いに的を得ていて、面接官を唸らせるやり方なんだって思えてくるよ。じゃあ、君は、自分のやり方に絶対の自信を持っているんじゃないか?」
 と聞くと、
「そうだね。相手を誘導することで、こちらの力を錯覚させることができるという意味では、1対1の面接でも、十分に有効なやり方だって思えてくるよね」
 と思えたのだ。
「だけど、俺のやり方は、グループディスカッションでしか通用しないやり方だよな。相手が面接官なので、反対意見をいうわけにはいかない。正統派意見をいう中で、いかに自分をアピールするために、言葉選びをするか? というのが、個人面接なんだろうからね」
 と言いながら、思わずため息をつく梶原だった。
「就職試験における面接なんて、ある程度聞かれることを用意しておいて、いかに答えるかを最初から用意しておいて、練習をする。きっとそれが一番の合格する秘訣なんだろうね。でも、俺は、皆と同じようなことをしていては嫌なので、とにかく、自分の意見を相手に、自分も、最初から同じ意見だったということを思い込ませるようにすれば勝ちだと思うんだ。相手の意表をいかにしてつくかということが面接の極意じゃないのかな? 相手が、ああ、やられたと思えばこっちの勝ち、いかに相手を化かすかということなんだろうね?」
 と、彼は言った。
「言葉でいうのは簡単なんだけどね」
 というと、彼は苦笑いをしていた。

                 摂関研究

 とにかく、就職難の年であった。それでも、ある程度の時期が過ぎれば、就職がまったく決まっていなかった連中も、少しずつ内定がもらえるようになる。
 一つは、優秀な連中はすでに残っておらず、会社によっては、募集人員に足りていない内定数だったりすることもあるだろう。
 会社が厳しくてなかなか内定をもらえないというわけではない。要するに、
「こんな会社、誰が行きたいと思うものか」
 というようなところが、残っている。
 いや、残っていないというべきか。
 それでも、まだ残っているだけマシだといえるのではないだろうか?
 ただ、それだけではない。すでに募集人員に達した会社でも、
「もう少し取っておこう」
 と考えるところもある。
 なぜなら、会社が厳しい、あるいはブラック企業であるため、入社してから、数か月の間にほとんどの社員が辞めていくので、最初から辞めていく人間を計算に入れて、募集を掛けるというやり方で。まるで、補欠入社のようなものだ。
 実際に、入社してから、仕事をしてみれば、
「こんな予定ではなかった」
 と思うだろう。
 優秀な人間は、そんなとこにいなくても、今からでも就活をすれば、他に行ける可能性がある人も結構いるだろう。
 ブラックな会社は、
「本当は優秀な人材がいるに越したことはないんだが、辞めていく連中を引き留める気もない。そのために、たくさん採ったんだからな」
 と思うだろう。
 要するにそんな会社は、
「人は消耗品で、使い捨てだ」
 としか思っていないのだろう。
 本当に優秀な人材なら、就活の際に、それくらいの情報は得ているだろうから、こんな失敗はしないだろう。こんなことをして、最初につまずくのは、
「優秀な人材になれそうで、永久になれない、一種の予備軍」
 のような連中ではないだろうか?
 そんな連中は、自己主張も強く、
「自分は優秀だ」
 と思い込むことで、会社も簡単に辞めてしまう。
 新しくどこかの会社に入れたとしても、一度辞めた人間は、辞め癖のようなものがついてしまい、少しでも自分の思っていた会社じゃなかったり、辛い仕事だと思うと、
「また辞めればいい」
 ということになるのだ。
 いくら、今の時代は、終身雇用ではないとはいえ、こんなにコロコロ辞めていると、雇ってくれるような会社は残っているわけもない。
 それに、転職を重ねるということは、
「どんどん条件が悪くなっていって、前の会社以上を望むことは、絶対にできない」
 と言われているが、どんなに優秀な人間であっても、キャリアを期待して雇われたわけではないのであれば、体よくつかわれるだけである。
「優秀そうな社員だけど、利用するだけ利用して、辞めたくなったら、辞めさせればいい」
 というくらいに考える社長も出てくるかも知れない。
 それだけ、会社を転々としていると、最期には、そんな経営者のところしか残っていないということになるだろう。
 これでは、完全に最初から就活は失敗だったといえるだろう。
 せっかくのキャリアも台無しで、せっかく、大学で成果を残してきた意味もなくなってしまうのではないか?
 大学生の就活というのは、本当に難しい。途中採用のように、キャリアを中心に採用を考えている会社では、一年目で辞めた人間を雇うところは、そうもないだろう。そういう意味では、一年目で簡単に辞める社員は、再就職は結構難しい。アルバイトや派遣で食いつなぎ、結局そのまま、就活をする気もなくなり、非正規雇用のまま、働かなければいけなくなるのだ。
 梶原の場合、人から聞いて、そのことも分かっていた。一縷の望みを掛けて、就職活動を続けていたが、決まったとしても、そこは、手放しで、
「よかった」
 と言えるものではないだろう。
 もちろん、それなりの覚悟は必要なのだろうが、
「入ってしまえば、後は、横一線だ」
 と考えるのは、楽天的過ぎるだろうか?
 逆に、就活であまりにも簡単に決まりすぎるというのも、どこかに落とし穴がありそうで怖い気もする。中には優秀だから、有名企業の何社からも、内定をもらえる人というのは、相当数いるのではないだろうか?
 だが、あまりにも簡単に決まってしまうと、有頂天になりすぎる可能性もある。
「自分の願いは簡単に何でも叶う」
 などという、自信過剰になってしまわないとも限らない。
 ただ、自信過剰なくらいの方が実力を発揮できる人もいる。そんな人はいくらでも、
「木に登るブタ」
 であってもいいと思うが、そうでない人は、潰されてしまいかねない。
 雇った側も、まさか、潰そうだなどと思っているわけではない。自分が雇った人間が、一人でも長く働いてくれればと思っているだろうし、簡単に辞められると、人事としての自分の評価も微妙になり、何よりも人事としての自信を、喪失してしまうことになるだろう。
 それを思うと、入社後もフォローが必要になる。ただ、それもその会社の体質にもよるかも知れない。
 いつも、社員が一年目で大量に辞めてしまうような会社は、
「どうせ、辞めるんだったら、最初から、多めに雇っておいて、ふるいに掛ける方がいいかも知れない」
 などということを考えているに違いない。
 そんな会社に入社すると、きついのは自分だ。
作品名:摂関主義宗教団体 作家名:森本晃次