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 などという感じだ。
 ちなみに、妖怪と幽霊の違いは。
「妖怪は、人間の想像もつかないことを引き起こすものの正体であり、幽霊というのは、この世に未練を残した人間の例が彷徨っているものをいう」
 と言ってもいいだろう。
 つまり、霊というのも、人間という特定がついているだけで、妖怪変化の仲間なのかも知れない。
 そういう意味では、守護霊も妖怪と言ってもいいだろう、
「よいことをしてくれる妖怪」
 あるいは、
「存在そのものが、神に近いような存在」
 という意味で、座敷わらしなどが、その類に入るのではないだろうか?
 かすみは、その正体を、霊魂だと思っている。そして、自分に近しい人だと思って仕方がない。
 そう思っていると、その時父親が言った。
「お前には、なぎさという妹がいたんだよ」
 と言ったのを思い出せそうになるのだが、今のところ、かすみは、正直思い出せそうにもなかった。
 ただ、意識している間は、いずれ思い出す。そう思うと、
「忘れないようにしないといけない」
 という思いに至るのだった。
 その時は、ショックだったが、それ以上詳しいことを聞くのが怖かった。ただ、
「どうせ聞いても、詳しいことを教えてはくれないに違いない」
 と思ったのだろう。
 逆にあの時聞いていれば、忘れることもなかったのかも知れないが、そんなことも、今は思い出せないでいたのだった。

                 大団円

 あの男、つまり、マサハルと会った時の彼は、まるで何かに取りつかれたかのようになっていた。と言っても、妖怪の類ではない。どちらかというと幽霊である。それも、いい幽霊ではない、とんでもない幽霊だった。
 彼は、自分の姿を必死に隠していた。隠せるものなら隠しとおそうとでも思っていたのだろうか?
「その日の夜は満月で、しかも、赤み掛かった満月だったのは、何かの怨念であろうか?」
 と思っていた。
 取りついていたのは、オオカミ男か、果たして、ドラキュラか? 女に対して、容赦のない、あられもない女性の姿に興奮する異常性癖であった。
 ただ、それは、取りつかれているのではなく、あの男の本性なのかも知れない。それを今まで知らなかっただけで、何を一体気を遣っていたのだろう。あの男の本性は、女を前にすると現れる。普段の真摯なところや、融通の利かないところは演技だったのだろうか?
 いや、演技というよりも、隠そうとしていたのが、演技をしているように見せただけで、本来の姿が現れただけだとすれば、かすみの運命はどうなってしまうというのか。
 かすみは、完全に恐怖に震えていた。男に蹂躙されて、ホテルに連れ込まれている。
 この男、どこで用意したのか、薬のようなものまで持っている。
 そこまで覚悟を決めているとすれば、何の用意も心構えのない自分に勝てるはずはない。
「おとなしくしていれば、被害を最小限に抑えられるかも知れない」
 という、いつもの思いがかすみを支配した。
 高校時代、苛めに遭っていた時期が短かったがあった。
 その時も同じことを考えて、やり過ごしたのだったが、あれは、相手がすぐに飽きたことで事なきを得ただけで、相手が違えば、また結果も違ったかも知れない。
 それを思うと、かすみは、
「この男はどっちなんだろう?」
 としか思えなかった。
 どう考えても、この豹変は危ないだろう。このまま黙っていたとしても、最小限で済む保証はない。ではどうすればいいというのか?
 と考えていたが、かすみは、どうすることもできなかった。
 案の定、黙っているのをいいことに、マサハルは次第にオオカミに化けているようだった。
 月に向かって吠えているシルエットが浮かんでくる。
「助けて」
 と、声を出したが、本当に声が出ているのかどうなのか分からない。
 そう思っていると、かすみは気絶してしまったようだ。気絶したという意識だけはあるのだ。
 そして、幽体離脱のように、自分の表から、自分が蹂躙される姿が見えていた。
「ああ、このまま、この男の性欲を、私は受け入れてしまって、汚されてしまうんだわ」
 と思うと、悔しくて仕方がない。
 気絶している自分が目を覚ます様子はないし、意識がある自分が、触ることもできずに何もできないのが悔しかった。
「ふふふ、俺はやろうと思えばなんだってできるんだ」
 と言って、完全に悦に入っている男の姿の醜さというと、見るに堪えないものがあるのだった。
「誰か助けて」
 と声に出してみると、今度は当然のごとく、声を発することなどできるはずもない。
 その時だった。颯爽と誰かが現れ、抜け殻になっている、かすみを助けてくれた。
 何とそこにいるのは、妹の典子ではないか?
「典子、どうしてあなたが?」
 と言っても、典子には聞こえていない。
 女一人で乗り込んでくるというのも、無謀であるが、そもそも、どうして典子がこのことを知っていて、どうやって入ってきたというのか。カギは間違いなくかかっているはずである。何と言っても、オートロックなのだから、一度カギがかかると、フロントが解除するか。中から開けない限り開かない。だが、この手のホテルは、中からも開かない仕掛けになっている。延長やルームサービスを貰いそびれてしまうからだ。ここは、基本料金は前金なので、基本料金は貰うそびれることはない。とにかく、一度閉まると、中からも開けられない構造なのだ。
 いつの間にか、抜け殻になったかすみは、自分の身体に戻っていて、
「典子」
 と言って声を掛けると、典子はこっちを振り向いた。
 その一瞬の顔は、典子であったが、典子ではなかったのだ。見たこともない女がそこにいて、
「いや、女というよりも、女の子と言った方がいい」
 というほど、あどけない表情が雰囲気を作っていたのだ。
 その子はニコリと微笑むと、典子の中から出ていったのか、典子は白目を剥いて、意識を失った。
「典子」
 と言って、典子を抱きしめると、
「お姉ちゃん」
 と言って、気が付いていた。
「典子、とりあえず、ここから出よう」
 と言って、典子の手を引いて、かすみは、部屋を出た。
 部屋のカギはかかっていなかった。引っかかっていただけだったのだ。部屋をカギがかからないようにして、部屋を出た。その時内線電話がかかってきたようだが、二人は急いで出たので、事なきを得たようだ。
 マサハルは、何とか言い訳をして部屋を出たようだ。さすがにその時のことを蒸し返されたら困ると思ったのだろう。後でマサハルから連絡があった時、マサハルは必至で謝っている。
 許すつもりはないので、そのままにしておいたが、どうやら、典子は、その時のことをかすかにしか覚えていないようだった。
「お姉ちゃんに、私以前助けてもらったことがあったの。私もね、似たようなことがあって、その時、どこからか現れたお姉ちゃんに助けてもらったの。お父さんの言っていたことが本当になったんだって私、思ったわ」
 と典子が言った。
 どうやら、典子も、父親から同じ話を聞いていたようだ。
「典子はその時に、どう考えたの?」
 と聞くと、