入らなければ出られない
「女性の参加者が満員なのに、男性参加者が少ないという場合もあるからだ」
と言えるだろう。
やはり値段が、千円だから女性は参加するのであって、男性も五千円だと二の足を踏むという場合もあるだろう。これをもし、女性を五千円にしていれば、女性の参加者も皆無だったに違いない。
こういうパーティは、毎回、コンセプトのようなものがあるようだ。例えば、
「熟年男女の婚活」
ということで、40代後半以上の人限定であったり、
「趣味友から始めよう」
と言って、趣味を何か持っている人の集まりのようなものであったりと、それによって、参加者のハードルも様々だったりするだろう。
下手をすると、参加者が男性に固まってしまって、女性がほぼ皆無などということもある。もし、何度か、集まらずに中止が続いていれば、運営としても、
「サクラでも立てるしかないか」
ということになるだろう。
だから、本当にサクラがいないとも限らない。それくらいのことは、参加するにあたって、会社の人に聞いて、予備知識を持っていたのだった。
そんな中でカップルになったのだが、
「なかなかよさそうな人なので、1,2度くらいは、デートしてもいいかな?」
と感じた。
三女のなぎさ
その人と、1度デートをしたところで、友達もそのパーティに参加したことがあるといっていて、そのカップルになった人の特徴を話すと、
「うーん」
と言って、腕を組んで唸っていた。
「私の気のせいか、その人慣れているような気がするのよね」
というのであった。
「どういうこと?」
私もだいぶ前に、似たような人とカップルになったのよね。まだ、行き初めて少しの頃だったかしら? で、連絡先を交換したんだけどね。実は私その後、それから2時間後のパーティも予約していたの」
というではないか?
「1日に2回?」
とビックリして聞き返すと、
「そんなの普通よ。だって、1回千円なのよ。できるだけ参加しないとね。それでね。そこに参加すると、何とその男性がまたいるじゃない。カップルになった者同士がね。私は気まずかったんだけど、相手は、平気な顔で、初めましてっていうじゃない。しかも、最初の時と同じ自己紹介を、しゃあしゃあと言ってのけるのを見ると、呆れたという感じだったわ。それで白けて、しばらくいかなくなったの」
と、言うではないか。
「でも、また行き始めたの?」
と聞くと、
「うん、だって、せっかくの知り合う機会でしょう? 呆れたというのはあるけど、私だって考えてみれば、相手からみれば失礼なことをしているんだから。どっちもどっちよね。逆に、私を見て、別に何も言わずにいてくれたんだから、私のように、呆れることをせずに、普通に接してくれたわけだから、紳士的よね。好きになってもよさそうな人だっただけに、少しでも呆れてしまった自分が恥ずかしい。だから、それ以降は、パーティというのは、こういうものなんだって、割り切って参加することに決めたの。だから、逆にいえば、男の人の本質を知るための訓練だと思って、しかも、うまくいけば、将来結婚する相手と出会えるかも知れないということでしょう?」
と彼女は言った。
「ええ、確かにその通りね。今のお話を聞いていれば、参加者の中には、本当に真剣に考えていないような人もいるかも知れないけど、やはり特に男性は安いものではないんだから、基本的に真面目な人が多いと思えばいいのよね。だけど、男性は大変よね。女性は千円で参加できるんだから、男の物色だけを目的に行っている人もいるかも知れない」4
「目的はいろいろあるでしょうね。あまり人とコミュニケーションが取れない人が、その練習に参加するという目的だったり、友達がほしいというだけの人も中にはいるかも知れない。でも、それはそれで真面目で、その人にとっては、死活問題になっているのかも知れないしね」
と彼女がいうと。
「まさにその通りね。私もハッキリと分からないんだけど、1回千円は、授業料としては安いかも知れない」
と、かすみは言った。
「出会いって、本当はこんなことしなくても、普通にあるんでしょうけど、その機会を自分から閉ざしているような、閉鎖的な考えの人って、本来なら出会うべき人が、自分が煮え切らないために、その人も宙に浮いているということを分かっていないんでしょうね?」
と彼女はいうのだった。
かすみは、そんなパーティに、これからもちょくちょく参加しようと思っていた矢先に、マサハルから連絡を貰った。
実際に会ってみると、自分の知っているマサハルとはまるで別人のようだった。
「会いたい」
と言って呼び出しておきかなら、自分から話題を振ろうとはしない。
かすみの方も、マサハルが何も言わないのに、こっちから聞くのもおかしいと思い何も言わない。
これは、かすみがマサハルに対しての、いつものパターンだった。
「彼が何も言わない時は、私からも言わない」
という態度が自分にもっともふさわしい態度だと思うのだった。
相手に気を遣っているということなのだろうが、相手はどう思っているのだろう。
何も言ってくれないのは、それだけ無視しているということだろうか?
かすみの方としても、呼び出しておいて何も言わない相手に腹を立てないわけではない。いくら気を遣っているといっても、次第に腹が立ってくると、そうなるとかすみは、自分の感情をどこにぶつけていいのか分からず、気を遣っているはずの相手に対して、その怒りの矛先を向けてしまうことが往々にしてあったりする。
「何なのよ。呼び出したんだから、何か言いなさいよ。私だって、そんなに暇じゃないのよ」
と言ってのけた。
さすがにそれを聞いたマサハルは、背筋をぴんとして、シャキッとなったのだろうが、それも一瞬だった。次第に背筋が緩んでいって、また黙り込んでしまった。
「あなたがそんなに煮え切らない人だとは思わなかったわ。私だって、他に彼氏でも作ろうかって思ったりもするわよ」
と、思わず口から出てしまった。
「さすがに言い過ぎた」
と思ったが、ここで慰めの言葉など掛けると、却って逆効果だ。
相手をさらに惨めにさせるものであり。勘違いもさせるだろう。
ただ、かすみとしては、
「こんな態度をずっと取られたんでは、疲れるだけだわ。思い切って別れたっていいんだから」
と思っていた。
確かに、マサハルに執着しなければいけない理由はどこにもない。黙っていなければ、いくらでも話をしようと思えばできるはずだ。それができないということは、どこか、彼に対して、諦めの境地があるのかも知れない。それは今まで、
「私のような女性は、そう何度もお付き合いができる人が現れることはないんだろうな」
と感じていたからだった。
自分に自信がない。それは、マサハルに勝るとも劣らないようなことになるのかも知れない。
マサハルは下を向いて、顔を上げようとしない。まるで、顔を上げると、とめどもなくあふれる涙を隠せなくなるという心境なのかも知れないと感じたのだ。
「マサハルさん。何も言ってくれないの?」
というと、
「あ、いや、別に」
という言葉を聞いて、かすみは、
作品名:入らなければ出られない 作家名:森本晃次