入らなければ出られない
実際に会ってみると、マサハルは、見た目は変わっていなかった。ただ、あまり気取ったところに連れてきてもらったことがなかったはずだったのに、今回は、ホテルのレストランに招待してくれた。社会人にあったら、気取ったところでないといけないとでも思ったのだろうか? 融通が利かないタイプのマサハルから考えれば、納得は行くのだった。
だが、お互いに、この雰囲気は、却って緊張を誘うものだった。
「まるで、お見合いでもしているようだ」
と感じたのだ。
お見合いというと、かすみは、一度だけしたことがあった。親から言われて、勝手に申し込まれたようで、
「一度どんなものなのか、経験しておくのもいいかも?」
ということであった。
かすみの両親は、結構天真爛漫なところがあり、それはいいのだが、そんな天真爛漫な自分たちの考えが、誰にでも通用するという、何でもポジティブに考えてしまうのだった。
だからこそ、天真爛漫なところがあるのだろうが、それはそれで、
「面倒くさいところがある親だ」
と言ってもいいだろう。
人の気持ちや都合を、本当に考えているのか、そのあたりが不思議なところであった。
お見合いパーティと言っても、男女、それぞれに別れて、対面式の1対1の席に男女が向かい合って座り、それらの席が、少し離れて、20個近くできていた。最初に渡された番号札の席に座り、同じ番号の男性が、正面に座るという形である。
人数が集まれば、開始となるのだが、最初に、まずは目の前の人と話をして、時間がくれば、男性が、隣の席に行くという形の、
「カニ歩き」
をするのだった。
これにより、皆が一度は会話をするという形の、自己紹介タイムである。大体一人に対しての持ち時間が3分、20人いれば、ちょうど1時間というところであろう。
それが終わると、今度はフリータイムになる。この会社のシステムは、フリータイムも、何度か時間を区切って、話したい相手と話をすることにするようだ。
基本的には、次の時間になると、別の人と話をするのがエチケットなのだが、自分が話しかけられることもなく、相手もあぶれていれば、別にもう一度会話をしてもかまわないはずであった。
フリータイムも、大体1時間くらいが目安であろう。
そうして、いよいよ告白タイムになるわけだが、直接の告白という形式ではなく、最初に貰ったカードに、第三希望まで、相手の番号を書き込むことになっていた。それを、主催スタッフが回収し、カップルを決める。決め方にはそれぞれにルールがあるようだが、どうも、難しいようだ。
「一人に集中したりすると、その人にとってのナンバーワンは誰なのか?」
ということを決めなければならない。
もちろん、参加者には一切非公開なので、あくまでも、想像でしかないが、完全に優先順位が一緒の相手が出てきた場合、どうするのか、難しいところなのだろう。
「まさかとは思うが、抽選や、くじ引きなのかも知れないな」
とも思ったが、公平性を考えると、それも無理もないことではないだろうか。
非公開なのは、そのあたりがあるからだろうが、同じ優先順位であれば、公開であっても、抽選やくじ引きというのが、妥当な方法であろう。それで文句を言う人などいないだろうし、文句をいうようなら、そもそも参加するべきではないのかも知れない。
この時、かすみは、幸運にもと言っていいのか、カップルになれたのだ。かすみの番号は6番、第一希望で上げた男性の番号は8番だった。
カップルになれる人の番号を、スタッフの女性が読み上げていく。そして、最初に、
「今日誕生したカップルは、5人です。少し多いですね」
という。
男性、女性、それぞれ、ほぼ20人近くいて、そのうちの5組ということだから、確かに多いのだろう。第三希望まで書けるとはいえ、重複などを考えると、却って、選ばれない人が増えるわけなので、カップルが多いというのは、それこそ、
「潰し合い」
になってしまい、難しいと思われる。
それを考えると、5組は多い。
そうであれば、自分が入っている可能性もないこともないだろう。
今回は、幸いにというべきか、第三希望まで書きたい人がいたからよかった。
一応、スタッフの人が最初の説明で、
「第三希望まで書けますが、絶対に書かないといけないわけではありません。一人でも構いませんし、誰もいなければ、白紙でも構いません。ただし、ご自分の番号だけは必ず書いてください。そうしないと、こちらの集計ができなくなりますから」
ということであった。
この話から考えると、白紙で出すということは、カップルになることを放棄しているのと同じである。白紙だと、何をどうしても、カップルにしようがないからである。
そんな中で、案の定、かすみは、三番目に呼ばれた。
かすみとカップルになった人は、かすみにとって、第一希望の相手だった。落ち着きがありそうな人で、大人の雰囲気を感じたからだ。
第二希望の人は、逆に、子供心を忘れていないような人だった。
「こんな人なら。楽しいだろうな」
という人だったが、実はその人も別の女性とカップルになっていた。しかも、その相手というのが、見るからに暗そうな人で、彼女が彼を書くのは分かるが、彼が、彼女を第一希望で書いたということだろうか?
もし第二希望だったとすれば、かすみと同じなので、競合の形になるが、すでにかすみは、自分が第一希望の人とカップルになっていた。
「ということは、私とカップルにあったあの人は、最低でも、第二希望までに書いてくれていたということなんだろうな」
と考えた。
第三希望だったら。その時点で、第二希望同士との競合になり、ややこしい判断を迫られるに違いないからだった。
だが、その日はそんなこともなかったのだろう。しかも、5組という多い人数だったので、結構楽に決まったようだ。
「では、カップルになれなかった方は、このまま、ご帰宅ください」
ということで、カップルになれなかった人は、徐々に帰っていったのだった。
カップルになった人には、スタッフから説明がある。
と言っても、ありきたりなことで、要するに、ここから先は、各々の問題であり、連絡先を交換するなど、ご自由にということである。
ただ、当然のことながら、ここから先のお互いにトラブルが発生しても、それは、この会社の責任の範疇ではないということだった。
少しうがった考えをするかすみには、
「もし、男女のうちのどちらかが、この会社のサクラだったら、そうするんだろう?」
と思ったが、それも含めて、ここから先はということであろう。
さすがに、これを運営会社にぶつけることなどできるはずもなく、黙ってしまったが、ありえないことではないような気がしていた。
ちなみに、こういうパーティは、男女の値段が違うというのが普通であった。
参加料は、女性が千円くらいなのに、男性は五千円近くするのだ。
これは、
「女性の参加者を募らないと、男性ばっかりになってしまって。そもそものパーティをせっかく企画しても、企画倒れになってしまうからだ」
ということなのだろう。
ただ、時には逆もあって、
作品名:入らなければ出られない 作家名:森本晃次