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後悔の意味

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 と言って、笑ったかと思うと、
「まあ、いつものことなんだけどね」
 と言って、自分でボケ突っ込みをしているようだった。
 これが、自然に出てくるところも、迫田の特徴で、だからこそ、社長になれる器の片鱗なんだろうなと、湧川は思った。
 彼女たちも、それを聞いて、クスクス笑っている。
「へぇ、二人は迫田の性格を知っているんだな?」
 と感じた。
 迫田という男は、一人ボケ突っ込みをした時、相手にクスクス程度に笑ってもらえるのが一番嬉しいのだった。
 そもそも迫田という男は、実直な性格なので、態度を見ていると、性格的なところはすぐに分かるのだった。
 それを思うと、彼女たちの態度も分からなくはないが、そのため、どこまでの仲なのかというのは、今の段階ではまったく分からないといってもいいだろう。
 そんな迫田は、
「じゃあ、それぞれを紹介しようか?」
 と言って、完全に場を支配していた。
 まず、湧川を指さして、
「こちらは、湧川君。僕の親友なんだ。大学を卒業して入った会社で同期だったんだけどね。最初は、支店の方にいたんだけど、2年前から、本部に呼ばれて、今は本部勤務をしているんだよ」
 と、紹介してくれた。
「湧川です。よろしくお願いします」
 と、言って、頭を下げた。
「そして、こちらは。釘宮さん。湧川は知ってるよあ?」
 と言われ、
「うん」
 と、答えると、今度は彼女が、
「私は、釘宮つむぎって言います。この間、お母さんと一緒に来ていたところを一度お会いしていますよね? 湧川さん、よろしくね」
 と言った、
 そして、一緒に隣の彼女を紹介してくれた。
「彼女は、私の高校時代からのお友達で、東条つかささんというの。ちょっと、おとなしく見えるけど、実はこう見えて、お酒は結構強いのよ」
 と紹介すると、東条つかさは、
「もう」
 と言いながら、照れているようだった。
「私は、東条つかさと言います。つむぎさんとは、ずっと仲良くしてもらっていて、今でも続いているんですよ」
 というと、
「彼女はね。気が付けばいつも、私のそばにいるって感じかしら? 最近では、ビックリもしないけど、最初の頃は、まるで座敷わらしのような感じに思えていたくらいだったんだけどね」
 と言って笑った。
「あら? 座敷わらしって、いい妖怪なのよ」
 とつかさは、座敷童と言われて、別にかまわないという感じであった。
 確かに。座敷わらしというと、いてほしいタイプの妖怪だ。
 座敷わらしがいる家は、繁栄するという。その座敷わらしが、いなくなると、とたんに家が没落するという伝説がある妖怪で、まさに、この話は、ベタな話と言ってもいいだろう。それだけ、昔話の中でも定番のお話だった。
 それはともかく、今の会話を見るだけで、二人の関係性がしっかり分かった。
 一見、主導権は、つむぎが握っているのは間違いないのだろうが、それでいて、しっかあり突っ込み役として、つかさが君臨しているというところに、二人の抜群の関係性があるのだということが分かった気がした。
 とりあえずの自己紹介が終わったところで、それぞれに、酒の用意をして、
「じゃあ、まずは、乾杯といこう」
 と、迫田が言って、何のための乾杯かということをハッキリ言わないところが、これも迫田らしいと思った。
「きっと、ハッキリ言わないことがいいと思ったのか、それとも、今日の集まりには、目的が一つではないということなのか」
 と考えると、迫田という男の性格が、再認識できた気がした。
 いつも二人で飲むことが多く、いや、それ以外のパターンなど皆無だったこともあって、この人数でも、まるで、合コンをしているかのような気分になった湧川だった。
 和気あいあいという感じで呑んでいたのだが、まずは自己紹介を兼ねて、仕事のことなどを話した。どうやら二人とも看護学校の出身らしく、それぞれ、看護婦をしているということであった。
 つむぎさんの方は内科で、つかささんの方は外科だという。
「薬品の臭いがきつくて、どうも外科は苦手かな?」
 と、湧川がいうと、
「そんなことはないですよ。確かに昔は、かなりすごい臭いがした病院もあったということですが、最近ではそんなこともないようです」
 と、つかさが言った。
「そうなんですね? やっぱり病院の臭いというと、どうしても、その臭いだけで、痛くもないところまで痛くなりそうな気がして、先入観というのは怖いものですね」
 というと、
「それは、皆そうだと思いますよ。私も、最初は、外科というと、臭いがきついイメージがあったんですが、慣れてくるとそうでもないです」
 というではないか。
 ということは、
「慣れるまでは大変だ」
 ということを言っているだけのことではないか。
 これは、実際につき合うようになってから感じたことだが、病院からの帰り、特に夜勤明けの時などは、薬品の臭いがしみついているのを感じたことがあった。この時こそ、
「慣れれば大丈夫」
 というべき時なのだろうと感じたのだ。
「そういえば、僕は学生時代から、化学が好きだったので、薬品関係は、少し興味があったんですよ。化学式のようなものは苦手だったけど、どういう薬品が、どういう効果を持っているとかいうことに興味があったんです」
 と湧川がいうと、まわりは、
「この人、適当なこと言ってるわ」
 と思っているのではないかと思ったが、少なくとも、つかさだけは、そんな雰囲気は感じなかった。
「この子、優しいところがあるんだ」
 と感じた。
 確かにこの話は適当にいい加減なことを言ったわけではなく、実際に高校時代などは、化学が好きだった。
「理数系に進もうか?」
 とも考えたくらいだったが、好きな理数系は化学だけで、数学や物理学は、苦手というよりも嫌いだったのだ。
「苦手だから、嫌いなんじゃないか?」
 と言われるかも知れないが、湧川にとっては、そういう認識はなかった。
 苦手であっても、好きな科目は実際にあった。苦手という言葉の定義が問題であり、
「成績が悪い」
 という意味であれば、苦手な科目でも、嫌いではなく、むしろ好きな科目もあった。
 自分が好きでも、
「相性が合わない」
 つまり、試験問題との相性が合わないということだってあるだろう。
 それが自分にとっては、歴史だった。
 歴史という科目は好きだった。だが、テストになると、どうしても成績が伸びてこない。完全に、学校での歴史というと、
「暗記物の科目」
 ということだからである。
 むしろ、歴史というのは、
「教科書では教えてくれない歴史」
 などという本がベストセラーになるほど、テストの暗記物とはまったく正反対のところが面白いのだ、
 興味を持つ部分の違いによって、成績と好きなところが反比例する。成績が悪いからと言って、本人が、興味のない学問だと考えるのは、危険なことである。
 それを思うと、同じ歴史でも、
「時代によって、まったく違う学問だ」
 と言えるのではないだろうか?
 逆にそれを時系列にして、すべてを一緒に考えるのは、
「今という時代が、歴史の積み重ねだ」
 という当たり前のことを、信じて疑わないからなのかも知れない。
作品名:後悔の意味 作家名:森本晃次