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後悔の意味

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 こういうところもあるくらいに、いろいろな地域ごとの事情から、特殊性風俗の歴史も成り立っているのだった。
 話は逸れてしまったが、湧川も、先輩から連れていってもらったソープで、無事に童貞卒業ができたのだが、実は、少し嵌ってしまったのであった。
 お気に入りの女の子がいて、月一くらいの割合で、通い詰めていた。お店が大衆店だったので、サラリーマンの給料でも、少々切り詰めれば、ひと月に一度くらい通うことは可能であった。
 癒しを求めていくのが、一番の目的だったのだ。
 そんなソープ遊びは個人的な楽しみとして、先輩とは時々飲みに行っていた。
「あんまり遊ばずに、お金を貯めることもしないと」
 という人もいるが、
「若いうちにしかできない遊びもある」
 と思っているので、しばらくは、こんな生活を続けていた。
 だが、そのうちに、先輩と飲みに行った先で、ちょうど、先輩の工場にパートで来ている人が偶然来ていた。その時、母娘で来ていたのだが、友達とその娘とは何度か面識があったようだ。
 ただ、彼女には彼氏がいたし、友達は、特定の彼女を作るということをしなかったので、友達というところであった。
 どうやらその時。友達と、彼女の方で、
「密談」
 が行われていたようで、
「今度また、飲もうな」
 と先輩が言って、彼女が目配せをしていたので、何やら二人で企みがあるとは思っていたが、それがまさか自分を巻き込んでのことだとは思ってもみなかった。
 いや、自分を巻き込んでという客観的な見方ではなく、
「自分を中心に」
 というべきであった。
 実際に、それから一カ月もしないうちに、友達から連絡があり、
「この間の、パートの奥さんの娘さんがいただろう? 彼女も誘って飲むことになったんだが、お前も来ないか?」
 ということであった。
 湧川も別に忙しいわけでもなかったし、実際に少し寂しいという思いもあったので、人と話ができるのが嬉しかったので、
「ああ、いいぞ」
 と二つ返事で了解した。
 店はいつも行くあの店で、友達とは、店で待ち合わせということだった。
 約束すれば、その時間よりも、少なくとも10分前には現地に到着している湧川は、その日も待ち合わせの7時をその10分前にはついていたのだった。
 店は、7時からなのだが、馴染みの店で、女の子も、ママさんも知っている仲なので、店に行って、
「ちょっと早かったかな?」
 と言っても、
「いいわよ、そこで、ゆっくり座っていて」
 と言われた。
 店は7時に開くが、客が増えてくるとすれば、9時過ぎくらいであろうか? それまでは、客がいてもまばらであり、ほぼ単独の客が多いのが特徴である。
 スナックというのは、そういうもので、二次会以降に利用されることが多い。だから、7時から9時までは、ほぼまったりなのだが、実は、まったく客がいないということの方が珍しいという。
「結構ね、一人で来るお客さん多いんですよ。私たちに愚痴を聞いてもらいたいと思っている人なんだと思うけど、そんな人たちは9時以降にくれば、団体客がいたり、カラオケがうるさかったりで、落ち着けないし、私たちも一人だけにかまっていられないでしょう? だから、皆、7時過ぎくらいに来て、適当に愚痴を言いながら、飲んで帰るというのが、一つのパターンなのよ」
 と言われて、ニッコリと笑った湧川は、
「それって、俺のこと?」
 というと、ママさんも笑って、
「さあ、どうかしらね? でも、私たちもそれって結構ありがたいのよ。自分たちだけで孤独に店の開店準備をするよりも、話を聞きながらの方が結構はかどったりするの。一生懸命に話をしている相手には悪いんだけどね?」
「じゃあ、適当にいなしているというわけ?」
 と聞くと、
「そういうわけでもないけど、毎日の単純作業に、インパクトがあると、時間があっという間だったりするのよ。しかも、売り上げにもなる。本当にありがたいのよ」
 という。
 確かにそうだ。開店を9時にしても、結局。同じ時間から準備をしないといけないのであれば、準備をしながら、営業できるのであれば、これほどいいことはない。どうせ、女の子の自給だって、準備の時間も同じなのだからである。
 店に着くと、いつものように、馴染みの女の子が、
「もうちょっと待ってくださいね」
 と言って、せっせと掃除をしていた。
 今までにこの時間に来た時は、いつもこの子だったような気がする。結構、毒舌なところがあるが、そのくせ、面倒見のいい子で、細かいところにもよく気が付く。そういうところには疎い湧川は、いつも感心していた。
 大体ママは、いつも集金などが忙しいのか、やってくるのは、9時前くらいの忙しくなる前であった。それまでは、彼女一人のワンオペでちょうどよかったのだ。
 と言ってもまだ7時前なので、フライングしているのはこっちなので、店の中に入れてもらえるだけでもありがたいというものだ。
 ただ、それも、事情を知っているからできることであり、考えてみれば、この店で7時待ち合わせというのが、一番多かったような気がする。
 少々遅れても、先に飲んでいればいいだけで、この店はそういう気楽なことができる店でもあったのだ。
 ボトルは、友達の名前で入れていて、早く来たら、勝手に飲んでいていいことになっている。そもそも。約束の時間に遅れるのが悪いということを、友達本人は分かっていることであった。
 その日も、
「少々遅れる」
 と、ギリギリになっていってきていたので、
「まあ、いつものことだ」
 とばかりに、気にもせず、来るのを待ちながら、一人でチビリチビリやっていればいいということだった。
 すでに、ボトルと、氷に水は用意されていた。いつでも始められる用意は整っている。だが、ここではフライングをするつもりはない。さすがに20分遅くなると、勝手に始めることはあるが、それまでは自分から始めようとは思わない。20分がデッドラインで、そこから先は、
「まったく違う状況」
 ということであった。
 というのも、20分以上遅れるのであれば、それは、すでに最初から待ち合わせという概念ではない。
「最初から相手が7時20分に来るものだ」
 ということで開き直っていないと、気持ちが整理できなくなる気がするのだ。
 だから、20分遅れると、
「勝手にやっていてもよかった」
 という理屈になり、それまでの20分を忘れるようにしていた。
 それは、その20分が無駄だったと思いたくなかったからである。
 忘れることで、無駄だったと思わないというのは、一見、矛盾しているかのように思うが、そうではない。
 忘れるということは、
「最初からなかったということ」
 であり、
「最初からなかったものであれば、無駄だったという意識もない」
 というものだ。
 それが開き直りであり、ストレスや怒りと言った余分な神経を使わなくてもいいということになる。
 それを考えると、20分というデッドラインは、ちょうどいいラインなのかも知れない。
 しかも、そのことは、今日7時から入っている女の子は分かっている。だから、彼女も開店準備をしながら、20分という時間を図っているのだ。
作品名:後悔の意味 作家名:森本晃次