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後悔の意味

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 明らかに矛盾しているのだが、それに対して、明らかな回答があるわけではない。
「難しいことを言えば、それこそが、民主主義の矛盾、あるいは、限界ということになるんだよな」
 ということであった。
 これについても、湧川は、百も承知のことだった。
 高校時代に政治の授業で民主主義について習ったその時から感じていたことだった。
 だからと言って、その時は先生に質問はしなかった。意地悪に質問してみようかとも思ったが、
「どうせ、ハッキリとした答えを答えられる人なんているわけはないんだ」
 ということである。
 もちろん、自分にも答えることはできない。それを人に強制するのは、無理なことなのであろう。
 それは、湧川にとっての、
「判官びいきたるゆえん」
 だったのだ。
 隣に座った、二人。男の方が、必死になって、女に話しかけていた。それだけであれば、別に悪いことではないと思う。むしろ、相手の女の子が無口だから、
「自分の方から話しかけてあげなければいけない」
 と思ったのだろう。
 その気持ちは、湧川にもよく分かった。むしろ湧川だからこそ、分かることだといってもいいかも知れない。
 湧川は学生時代、一人の女の子と付き合えるかどうかというところまで行ったことがあった。
 その時、彼女が物静かな女性で、なかなか自分から話しのできない人だったこともあって、自分から話しかけることができないので、何とか男の自分から話しかけてあげようと必死だったのを覚えている。
 しかし、緊張と自分に自信がないということから、何も言えずに、その場の雰囲気は最悪だった。
 まるで、ヘビに睨まれたカエル状態で、ヘビの方も、きっとカエルに襲い掛かろうにもできない理由があったようだ。
「三すくみ」
 という言葉をご存じであろうか?
「ヘビはカエルを食べるが、ナメクジに溶かされてしまう。カエルはナメクジを食べるが、ヘビには食われる。したがって、ナメクジはヘビを溶かすが、カエルには食われてしまうという、まったく身動きの取れないトライアングル」
 そんな状態のことをいう。
 じゃんけんも同じことで、いわゆる、
「あいこ」
 の状態である。
 その時の彼女は、まわりの雰囲気に、ナメクジの存在を感じていたのかも知れない。だから、何も言えない状態だったのだろう。
 三すくみほど、雰囲気は最悪になることはない。そもそも、雰囲気なるものがあるのだろうか?
 その子は何か相談事があったようなのだが、湧川の態度を見て、何もできない湧川に愛想を尽かして、結局、それ以降連絡をしてくることはなかった。
 湧川もそれを分かっていたので、
「ああ、俺は何て度胸がないんだ」
 と思った。
「緊張さえしていなければ、アドバイスくらいできたはずだ」
 と思っていた。
 すべての元凶は緊張していたことであり、その緊張が、相手に与えるプレッシャーとなり、それが、また、
「自分を映す鏡」
 となって、まったくうまく行くことなく、潤滑油が全然利いていない状態になっているようだった。
 それが、分かっているだけに、湧川の中でトラウマになり、女の子と二人きりになると、言い知れぬプレッシャーに取りつかれてしまうのだった。
 湧川という男、そのせいで、自分を見失ってしまった。せっかく大学に入って、彼女wを作って、謳歌するはずだった大学時代を、半分、無為に過ごしてしまったと思い、後悔しているのだった。
 だから、今回のつかさとの出会いは、
「なんとしても、モノにしたい」
 と考えていた。
 出会いが、人の紹介だとしても、そこに違和感はない。
 ひと昔前であれば、
「出会い系」
 などという、怪しげなものが存在して、課金されたりして、結局詐欺まがいだったことが問題だったのだが、今ある、
「マッチングアプリ」
 というのは、そんなことはないようだ。
 実際に使ったことはないのだが、使えばどうなのだろう? 恋人だけではなく、友達から始める関係も十分にあるのだろうか? そのあたりもあまり詳しくはない。それだけ、怖がっているところもあるのだろう。
 そんな自分に対して、
「勇気がない。情けない人間だ」
 と思っていたところへ、この日の事件は起こった。
 いよいよ自分たちが降りる駅になって、つかさを先に、気に入らないカップルの間を通るような感じで行かせた後で、ゆっくり立ち上がった湧川が、二人の間を通り抜けようとした時のことであった。
 男が足を開けようとせずに、足を組んだまま、通せんぼのようなあ達になった。
「何してんだ。こいつ」
 と思っていると、男が顔を上げて、こちらを睨みつけている。
「謝れ」
 と一言いう。
「はぁ? 俺が何かしたと?」
 というと、
「お前、俺たちをガン見しやがあって、何か文句あんのかよ」
 と因縁を吹っかけてきた。
 さすがに、怒りと狼狽が一緒に襲ってきた。怒りはもちろん、激しい憤りであるが、狼狽は、今一人ではないということだ。ここで腹を立てて、人間の小ささを見せることへの戸惑いではない。相手が、足を組んで頑張っている以上、謝らないと出られないという、相手の恫喝だけではない拘束にもあった。
 それでも、熱しやすく冷めやすい性格が、今回は災いしたのか、出ないといけない状態だったので、とりあえず、不服ながら、謝った。
 相手は、それでも不満そうだが、さすがに一緒にいた女もまずいと思ったのだろう。
「もういいから」
 と言って、男の手を引っ張っていた。
 これ以上やると、自分たちに寄せられるまわりの目の厳しさに、彼女は耐えられないと思ったのだろう。
 男は、足を崩して、渋々通り道を作った。
「通してやったんだ」
 と言わんばかりのその表情に、またしても、湧川の一度収まった感情が戻ってきたのだ。
 だが、一度矛を収めてしまったので、それを取り出すことは、大人げない。せっかく、相手の男がすべて悪いという雰囲気になっているのが台無しだ。
 それを思うと、この中途半端な感情をどうしていいのか分からなくなった。
 そして、その時の湧川の一番の失策が何だったにかというと、感情が高ぶっている時、つかさのことが見えていなかったということだ。
 つかさは、何も言わず、ただ、横に佇んでいた。何をどのように考えていたのか、湧川に創造もつくはずもない。
 だが、本当はあの強い目力で、必死に湧川を制していたようだった。
 そのことは一瞬だけ感じたが、湧川に響くほどではなかった。電車を降りてから、まるで不整脈のように、息が絶え絶えになってしまって、まともに立っていられないほどになった。
 それは、怒りからくるものであったが、もう一つは、あの雰囲気の憤りからであった。
 何もできなかった自分に怒りも感じる。確かに横に、つかさがいたから、変な行動がとれるわけもない。
 それを分かっていながら、必死になって自分を抑えていたのだが、それは、まわりを一気に不安にさせるものだったようだ。
 つかさは、何も言わず、俯いていた。その様子を見て、
「怖い思いをさせたのかな?」
 と感じたが、その思いだけでは、自分を抑えることはできなかった。
 怒りは、つかさへの思いとは逆にさらにこみあげてきた。
作品名:後悔の意味 作家名:森本晃次