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後悔の意味

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「そうだよね。昔は昔で良さがあるというものだよね。これから見に行こうとしている彫刻だってそうだよ。ある意味レトロなんだろうけど、芸術やレトロというから、それなりに芸術性を感じるんだけど、環境が違うと、ただの古いものというだけだもんね。環境だけで、見方が変わるというのは、本当は好きじゃないんだよ。だから、今日行くところは、その環境を整えたうえで、一番芸術品が映えるようにしているわけだろう? それがいいと思うんだ」
 と湧川がいうと、
「そうね。インスタなどで、ばえるのがいいということで、人の迷惑を気にしなかったり。いいねが欲しいためだけに、犯罪を犯すような迷惑ユーチューバーも結構いますからね。真面目にやっている人まで白い目で見られる時代、本当に耐えられないと思うのは私だけなのかしら?」
 と、つかさが、半分、本気で怒っているのだ。
 二人の気持ちは共通項に入ったのだった。
「今の世の中、喫煙者が肩身の狭い思いをしているでしょう? 私はタバコを吸わないから、別に喫煙者の肩を持つつもりはないんだけど、最近は、マナーの悪さが目立つと思うのね」
 と、つかさは言ったが、それは、法律が喫煙者に対してかなり厳しくなってきたことを反映しての話であった。
「受動喫煙に関する法律」
 ということであるが、基本的には、
「自分の家以外では、喫煙してはいけない」
 というものだ。
 これは、段階的に進められているもので、最初に実行されたのは、役所だったり、美術館、あるいは、病院のような公共施設は、完全禁煙となった、喫煙所も撤廃である。だが、それが、2020年4月からは、完全にいろいろなところで喫煙ルームも廃止になった。
 例えば、大型ターミナルでのホームの喫煙所であったり、会社のオフィスでも禁止になった。
 喫茶店やレストランはもちろん、パチンコ屋のような施設はすべてそうだ。
 そもそも、病院などは、もっと前からやっていなければいけなかったはずなのに、どうなっているのかということである。
 さらに、もう一ついうと、大々的に受動喫煙の法律が施行された時も、実に中途半端であった。
 基本的には、すべての飲食店、喫茶店では吸ってはいけないはずなのに、
「電子タバコは喫煙可」
 などという店があったりする。
 こうなると、どこまでがよくて、どこからが悪いのか分かったものではない。しかも、パチンコ屋などで吸えなくなると、今度は駐車場などで吸っている輩や、夜などは、歩きながら、咥えタバコをして平気でマスクを外しているような、思わず、
「人間失格」
 の烙印を押してやりたくなるようなやつらがいるのだ。
 このような著しく風紀を乱す連中というのは、本当に、
「この世の害虫」
 と言ってもいいだろう。
 いわゆる、
「百害あって一利なし」
 だからである。
 やつらに対して怒っているのは、何も禁煙車、つまりは、大半の人間だけではないのだ。きちんとルールを守って、肩身が狭くなっても、それでも辞めることができずに吸っている連中からすれば、
「あんな連中がいるから、俺たちまで白い目で見られる」
 ということで、ひょっとすると、タバコを吸わない大多数の人たちよりも怒っているのかも知れない。
 ということは、ルールを守らずに吸っている連中というのは、
「全世界のすべての人間を敵に回している」
 と言ってもいいだろう。
 どうせ、そんなことも分からないから、吸っているのだろうが、世の中には、一定数、そんなバカな連中がいるということだ。
 この日、二人がデートで行こうとした、
「彫刻の森」
 への途中の電車の中で、本当に程度の悪い連中に出くわしてしまったことが、湧川の不運だったといってもいいだろう。
 電車に乗っていると、前述のように学生が増えてきた。対面式の席、つまり、四人掛けの席に、二人は窓際に座っていたが、そこに学生風の若い輩が座ってきた。
 二人はカップルのようで、本当であれば、先に座っていた人に対して、
「すみません」
 というくらいに言って座るものだろうが、この二人はこちらを気にすることもなく、もっといえば、無視する形で座ってきたのだ。
 学生というと、ほとんどの人は立っているのに、失礼千万な態度を取ってまで座ってくるので、
「何だ、こいつら」
 という目を露骨に見せたが、分かっているのかいないのか、まったく気にする素振りはなかったのだ。
 湧川も、つかさも無視して、車窓を見ていた。
 隣のカップルは、能天気に話をしている。
 というよりも、男の方が一方的に話をしていて、女は相槌を打っているだけに見えた。
 普通であれば、あまり気にもならないカップルなのだろうが、何か微妙に違いを感じた。何が違うのか分からないが、気色の悪さを感じたというのか、軽いくせに、何かこちらを意識しているようなそんな雰囲気だ。
 チンピラのような雰囲気もした、やつらは、弱いくせに虚勢を張って、何かまわりを必要以上に意識している。ただ、そんなやつらは世の中に、ごまんといる。もっといえば、そういう連中で溢れているといってもいいだろう。
 だから、
「下手に気にしすぎると疲れるだけだぞ」
 と言われたことがあった。
 それを言った友達も、どちらかというと、まわりを気にする方だった。厄介な連中を気にしているわけではなく、女性の目ばかりを気にしているやつだった。
「お前だって人を気にしているじゃないか?」
 と聞くと、
「俺はいいのさ。女ばかりを気にしているからな。だけど、お前の場合はそうじゃないだろう? ろくでもない連中ばかり気にしていると、お前もそのうちに似てくるぞ」
 と言われ、ギクリとしたものだった。
 その思いは実は前からあった。変な連中ばかりを気にしてしまって、いつの間にか嫌な顔を露骨に向けているのだ。
 いつの間にかというのは、間違いで、明らかに意識して見ているのだ。湧川は偽善者というわけではない。まわりに合わせて、いい顔をしたり、人のためと称して、あざといことをすることは、一番嫌いだったからである。これが、
「人と同じでは嫌だ」
 という思いと同じものだということであった。
 だから、
「偽善者ではない」
 ということの誇りがあり、だからこそ、その誇りを傷つけられると、余計に怒り狂うところがあった。
 この気持ちが、
「人と同じでは嫌だ」
 という発想に結びついているのかも知れない。
「湧川は、判官びいきのところもあるからな」
 と、友達が言っていたが、これは、
「お前は天邪鬼だ」
 という言葉の裏返しでもあった。
 昔からプロ野球でも、弱いチームばかりを応援していた。皆が強いチームに憧れるのを横目にである。
 だから。多数決というのも嫌いで、
「少数派は、泣き寝入りしなければいけないのか?」
 といつも言っていたものだ。
 だが、そのうちに、アニメや特撮などを見ていると出てくる言葉で、
「人一人の命は、地球よりも重たい」
 という、定番の言葉があるが。逆に、テーマとして。
「一人を助けるために、大勢が犠牲になるかも知れないことを考えれば、一人の命を犠牲にするのは致し方のないことだ」
 という考えもある。
作品名:後悔の意味 作家名:森本晃次