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後悔の意味

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 ということに関しては、
「右に出る者はいない」
 と言われていたようだ。
 そんな性格でもあることからも、病院を辞めた理由や、辞めてから次の病院までの間のことは、なるべくなら知られたくないと思っていた。
 しかし、逆に、
「つかさのことだから、人に知ってほしいという気持ちにもなりかねないわ」
 と、つかさのことを誰よりも知っている、つむぎは、心の中でそう感じていた。
 もちろん、他の人は誰も知らないが、つむぎだけは知っていた。逆に、
「奈落の底に堕ちることがなかったのは、つむぎがいてくれたおかげだ」
 と言ってもいいだろう。

                 湧川の乱心

 二人がつき合うようになってから、ある日のことだった。電車で移動していたのだが、郊外にある彫刻の博物館があるということで、
「行ってみたい」
 と言い出したのは、つかさだった。
 つかさは、彫刻も好きなようで、本来は多趣味だった。その博物館は、彫刻は建物の中だけにあるのではなく、大きな敷地内が公園になっていて、その公園には、噴水や芝生のある場所もあるのだが、奥には森ができていた。
「いろいろなところに彫刻があるというところなのよ」
 と言って、つかさは、そのパンフレットを見せてくれた。
 そこには、森や公園に飾られている彫刻が、まるで、海外を思わせるようで、
「ここは、ミラノか、フィレンツェか?」
 とでもいうような、ルネッサンスを思わせる場所だったのだ。
「これは、本当にオブジェだね」
 というと、
「ええ、そうなの。オブジェなの。ここは、通称、彫刻の森とも言われているところで、私は、一度も行ったことがなかったの。でも、いずれは行きたいと思っていたの。だから、ご一緒してくれませんか?」
 というではないか。
 なるほど、つかさの気持ちが分かった気がした。
 たぶん、彼女は、
「彼氏ができたら、最初にデートで行きたいと思っていたから、今まで行かずに我慢していたのかも知れないな」
 と思いと、その場所に、一緒に行ってほしいという彼女の気持ちが嬉しくて仕方がなかった。
 初デートを、彼女の行ってみたかった場所だというのも、何とも誇らしく思えてくるほどだ。
「うんうん、それはいいよね。楽しみだね」
 ということで、早速、週末に行くことにしたのだった。
 その場所というのは、結構遠いのが難点だった。
 電車で、1時間近く揺られていくことになる。何しろ、県の中心部を通り超えてから、まだだいぶ行くことになる。
 しかも、そこからバスで、30分近くかかるということで、ちょっとした旅行気分であった。
 しかし、逆にそれもいいのではないかと思えた。
 その場所は海の近くにあり、彫刻を見た後に、砂浜を歩くというのも、いいのではないかと思うのだった。
 ただ、近くには、他に何か見るところがあるわけではないので、目的はここだけで計画しないと、遠いだけに、大変だということであった・
「その分、本当に興味のある人でないと、行っても面白くないから、いつもは、そんなにお客さんが混むということはないらしいの。だから、それだけ、ゆっくりできると思うのね」
 と、つかさは言った。
「でも、つかささんが、彫刻に興味があるとは思わなかったですね」
 と聞くと、
「実は、私よりもつむぎさんの方が、彫刻には造詣が深いのよ。彼女のお部屋には、有名な彫刻のレプリカがいくつも置いてあって、ちょっとした博物館に行ったような気がするの。それを見てから私も、部屋にいろいろな彫刻だったり、絵を飾るようになったのね。あの場所も、最初の頃はつむぎさんは、一緒に行こうってよく誘ってくれたんだけど、それを断っているうちに、彼女もさすがに折れてきて、じゃあ、彼氏ができたら、一番に行きなさいって言われたのよ」
 というのだった。
「お試しだけど、いいのかい?」
 と、軽くいなすようにいうと、彼女は照れたように、
「いいのよ。私もそろそろ行きたくなっていたんだから」
 と言って、笑いながら言った。
 かなり、二人が打ち解けてきたということであろう。
 湧川も嬉しくなって、自然と笑みが零れるのだった。
 約束の週末がやってきた。駅で待ち合わせをしたのだが、さすがに湧川の性格も知っているのか、それとも、遅れるわけにはいかないという律義な考えからか二人はお互いにほぼ待つことなく、待ち合わせができた。
 湧川はいつものように、10分前には着いていたので、つかさもほぼ同じくらいを目指してきたのだろう。
 電車に乗ると、さすがに都心駅までは、結構な人がいた。都心駅を通り過ぎると、一旦その駅ではたくさん降りたので、相当人が減ったが、途中の駅からは、学生がどっと乗ってきたので、思ったよりも、人が多かったのだ。
「そっか、このあたりは大学があるんだね?」
 と、湧川がいうと、
「ええ、そうですよ。ここから三つ先にある駅は、総合大学、短大、薬科大学、芸術大と、いろいろな学校が乱立している学園都市なんですよ」
「へえ、そんなにたくさんの大学があるんだ。知らなかったですね」
 と、湧川は言ったが、まったく知らなかったわけではなかった。
 実際に大学時代に、ここの総合大学には、学園祭で来たことがあったので、まんざら知らないわけでもなかったが、薬科大学だったり、芸術大学があるなど、まったく知らなかったのだ。
「ここにある芸術大学なんだけどね。今から行く、彫刻の森の近くに大学を作りたいという、学長の意見から。この土地に決まったそうなんですよ」
 と、つかさは豆知識を披露した。
「じゃあ、大学は比較的新しいんですね?」
 と、湧川がいうと
「そうですね。まだ、10年くらいしか経っていないんじゃないかしら?」
 というではないか。
「詳しいね」
 というと、
「私の友達に、薬科大学の人がいて、その友達が、芸術大学に彼氏がいたらしいの。それで、いろいろ教えてもらったというわけ」
 と、つかさは言った。
「大学がそんなにたくさんあるところというと、環境はよさそうだね。学園の街っていうのは、僕は好きだな」
 というと、
「ええ、私は看護学校だったんだけど、近くには大学はなかったので、ちょっと寂しかったわ。でも、看護学校も結構大変だから、普通の大学生の人と同じようなわけにはいかなかったので、ちょうどよかったかも知れないわ」
 と言った。
「なるほど、ナースも大変だ」
 というと、
「ナース?」
 と彼女が聞き返してきた。
「うん、僕は、本当は看護婦って呼びたいんだよ。昔の呼び方の方が情緒があると思ってね。だけど、なかなかそうもいかないので、看護婦のことは、ナースと呼ぶようにしているんだ」
 というと、彼女はまんざらでもないように微笑んで、小声で、
「実は私もそうなの。ナースキャップとか、昔の方が可愛かったと思うことが結構あって、ある意味寂しいと思っている口なのよ」
 というではないか。
作品名:後悔の意味 作家名:森本晃次